正月の定例ニュースの一つとして、築地市場での「本マグロ(クロマグロ)」の競りがあります。
毎年、あり得ない価格(=その前後のキロ辺り価格より明らかに高い価格)での落札が、あらゆるマスメディアによって報じられます。
いくらで本マグロを競り落とそうが、少なくとも会計上は「原価」にカウントされ、この商品は赤字商品という事になります。
会計士は言います・・・
「社長、こんな価格で競り落としたらいかん!」
社長は軽くかわします・・・
「あはは、会計では経営できんぞ!」
経営者(この場合は優れた経営者という意味)は、この「あり得ない価格」による落札が持つニュース性に、一定のプロモーション価値を見いだし、店舗での販売額との差(=赤字分)を、プロモーションへの投資と考えるわけです。
まんまと「美味いマグロが安く食えるぞ!」という消費者が増え、この店に足を運ぶ消費者が増え、その内の何パーセントかは、この店を定期的に使うようになるわけですね。
過去のアマゾンも同じようなケースがありました。
同社が、営業キャッシュフローを遥かに超えるキャッシュを広告宣伝費に投じていた時、同社株主からCEOのジェフベゾス氏に対して「儲からんじゃないかヨ!」というイチャモンが多数ありました。
しかしジェフベゾスは、ヘーキな顔で、この戦略を推し進めました。
この場合も会計上は、広告宣伝費という短期(1年以内の)コストに過ぎませんから、短期の売上にぶつけることによって、コストの合理性を見る事になります。
従って、会計的には「イケてないコスト」という事になります。
しかし、CEOであるジェフベゾスの頭の中では・・・
「会計?今期の儲け?そんなこと関係ない。長期視点の投資だよ」
そう思っていた事でしょう。
彼の頭の中では、短期の広告宣伝費は、長期的な「プロモーションへの投資」だったわけです。
この戦略の成果は「本を買うならアマゾン」という意識を世界中の消費者に植え付けることに成功し、その後アマゾンは成長を続けるわけです。
facebookによるInstagramの買収価格は10億ドル!
Instagram単独の企業価値からすれば、あり得ない価格です。
しかし、この買収のニュース性もまた、本マグロのケースと同じように・・・
「俺の会社もfacebookに気に入られるようなサービスを作るぞ!」
と意気込むネットレプレナーを生み出す効果があります。
facebookは、極端な話、今後一切の買収を行わずとも、facebook向けの優れたサービスに恵まれるわけです。
買収対象になるのは、そのうちの本のわずかに過ぎないというのに。
会計に価値が無いとは思いません。
しかし、会計主導の経営は、イケてないという事です。
2012年4月11日 板倉雄一郎