板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ファイナンス基礎理論 第12回「フリーキャッシュフローって?」

皆さんこんにちは、パートナーの石野雄一です。

今回は、フリーキャッシュフローについて、
ご説明しましょう。

実は、フリーキャッシュフローの定義は、いくつかあります。
簡単に計算できて、便利なフリーキャッシュフローは、
キャッシュフロー計算書にある
「営業活動によるキャッシュフロー」と、
「投資活動によるキャッシュフロー」を足したものです。

これから、ご説明するのは、
事業価値を計算するときに、
使うフリーキャッシュフローの定義です。

簡便的に求めたフリーキャッシュフローとは、
違いますから、ご注意ください。

まずは、「フリー」とは何を意味するのでしょうか。
これに関してはさまざまな考え方があるのですが、
最もよく言われるのは、
「投資家である株主や債権者が自由に使えるキャッシュ」
という意味でのフリーです。

また、「調達方法に影響を受けない」
という意味でのフリーという考え方もあります。

しかし、私が最もわかりやすいと思うのは、
「企業が将来生み出すキャッシュフローから、
事業を継続するにあたって、
“ねばならない”キャッシュフローを
差し引いたあとのキャッシュフロー」を
フリーキャッシュフローとする考え方です。

では、「“ねばならない”キャッシュフロー」とは何でしょうか。

まず、あげられるのは「原材料費」です。

これは、いやでも支払わねばならないものですよね。
他には何があるでしょう。そうです、人件費です。

それから、維持費、販売費、一般管理費です。
実は、これらは、損益計算書を上の方から、順に見ていけばわかります。

ここまでで、営業利益まできました。
他に支払わねばならないものとして「税金」があります。

それから設備資金、
これは会社が成長していくためには、
当然確保しておかねばなりません。
あとは、オペレーション維持のための運転資金です。

これらを、
企業が将来生み出すキャッシュフローから、
それぞれ引いたものが、
フリーキャッシュフローなのです。

ところが、私がこのような説明をすると、決まってこんなことをおっしゃる方がいます。

「借入金の利息も“ねばならない”キャッシュフローではないか?」

なかなか、鋭い質問です。
でも、残念ながら、借入金の利息は、
“ねばならない”キャッシュフローではありません。

この理由を私は次のように説明します。

フリーキャッシュフローは、
あくまでも資金提供者である債権者と株主に、
帰属するキャッシュフローです。
債権者に帰属するキャッシュフローとは、
まさに、「借入金の支払利息」のことです。

言い換えれば、フリーキャッシュフローには、
この債権者に帰属するキャッシュフロー(=支払利息)が
含まれているのですと。

こんな場面を想像してみてください。

フリーキャッシュフローを目の前にして、
債権者と株主が話し合っています。
株主は、フリーキャッシュフローの中から、
債権者の取り分である「借入金の利息」を債権者に渡し、
残りは株主が自由に使うことができます。

このフリーキャッシュフローの中から、
支払利息を債権者に支払う、というのがポイントです。

あるとき、債権者が株主に対してこんなことを言います。
「今回は、事業も順調だったんだから、
少しは余分にくれたっていいでしょう?」

――これに対して、株主はこう返します。
「ダメだよ。あなたの取り分はあらかじめ契約で決まってるでしょ。
業績がいいときも悪いときも確保されている。
だから、そんな都合のいいこと言っちゃダメだよ」――

そうです。
債権者と株主の資金提供の方法には違いがあるのです。
借入金がある企業にとっては、
確かに「借入金の利息」は、
「ねばならない」キャッシュフローといえます。

ただ、それはフリーキャッシュフローの中から、
借入があれば、支払うものであって、
フリーキャッシュフロー自体を計算する過程では、
借入のあるなしの影響は受けないものなのです。

これからは、中級編です。

それでは、
キャッシュフロー計算書から、
簡便的に求めたフリーキャッシュフローと、
事業価値を求めるフリーキャッシュフローとでは、
何が違うのでしょうか?

キャッシュフロー計算書の「営業活動によるキャッシュフロー」は、当期利益からはじまります。

当期利益は、すでに、
債権者に帰属するキャッシュフローである支払利息が、
すでに引かれてしまっています。

また、これに関連して、
支払利息を計上することによる節税効果のメリットを
受けてしまっているのです。

次回は、具体的なフリーキャッシュフローの求め方を説明します。

このフリーキャッシュフローは、
株主価値を担保するものですから、
非常に重要です。

担保するって、どういうことだろうと思ったあなたは、
真っ当な株式投資』を熟読してくださいね。
私は、すでに3回は読みました(笑)

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

2007年4月3日 石野 雄一
ご意見ご感想、お待ちしています。
次回パートナーエッセイは、4月5日(木)に、Yoshihara氏が担当します。