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By S.Yoshihara

(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

先週発表されたスズキとVWによる業務・資本提携のニュースが、自動車業界における国際再編の新段階としてメディアを賑わせていますね。
(参考記事はこちら

昨今の自動車業界再編における2大テーマが「新興国」「環境技術」
今回の提携もやはりこの2点がポイントです。

VWは、小型車の生産に優れたノウハウを持ち、インド市場で50%を超えるシェアを有するスズキと連携して新興国市場での競争力を強化したい。一方で、スズキは、VWと連携して他社に後れをとっている環境対応車の開発で巻き返しを図りたい。

そんな両者の思惑が合致した今回の提携は、VWが中国、スズキがインドでそれぞれトップシェアであり、かつ、両社の販売台数を合算するとトヨタを抜いて世界一になることから、「未来の勝ち組連合の可能性あり」として各種メディアでも好意的に評価されています。

【ファイナンス面での評価は?】

ただし、ファイナンス面で考えてみると、スズキの既存株主にとって今回の提携が手放しで歓迎できる話かと言えばそうでもありません。
事実、今回の提携が正式に発表された翌日(12月10日)におけるスズキの株価は155円安(6.5%マイナス)の2,215円でした。

というのも、今回の資本提携は、自己株式の処分(実質的には第三者割当増資)によりVWがスズキ株式の19.9%を取得(約2,200億円)するというもの。

これにより、発行済株式に係る総議決権数に対して約24.85%の希薄化が生じることになります。また、払込金額は直近の株価から10%ディスカウントした株価(2,061円)で実行されるとのこと。

今回の提携が株価にもたらす影響は、「株式の希薄化等によるマイナス効果と業務提携によるシナジー効果のどちらが大きいか」の判断によりますが、現在のところ投資家はマイナス効果を大きいとみているようです。

正直なところ、この業務・資本提携が株主にとってプラスかどうか、私には判断できません。

自動車業界では業務・資本提携がうまくいかなかった事例は多々ありますし、将来の勝ち組を見通すことが非常に難しい現在において、シナジー効果を積極的に評価することは難しいと言えます。

【これがスズキの処世術】
ただ、個人的には、「スズキなら上手くやるかもしれない・・・」
と期待しています。
なぜなら、私の中でスズキという会社は「生き残り方を心得ている会社」であり、非常に学ぶべきところの多い会社だからです。

スズキには海外の自動車メーカーとの提携を上手に活用してきた歴史があります。スズキは1981年からGMと業務提携し、スズキの技術力および国際的な知名度向上につなげてきました。

スズキの名物経営者である鈴木修氏は、著作「俺は、中小企業のおやじ」にて下記のように述べています。
(余談ですが、この本はスズキの成長過程におけるエピソードが鈴木社長のシンプルなメッセージとともに描かれていて非常に面白いです。興味のある方は是非!)



GMという会社はスズキにとって非常に大きな存在でした。「師匠」といってもいいかもしれません。自分流で、がむしゃらにクルマを開発していたスズキに、「本当の自動車づくりとはこういうものだ」と基礎からトレーニングしてくれたのは、ほかならぬGMです。
 私が社長になって初めて決めた本格的な提携もGMとのアライアンスでした。社長に就任して3年が過ぎた1981年8月にGMとの業務提携を発表しました。
 このときまで、スズキという会社はメジャーな存在ではありませんでした。全国紙に記事が掲載されることなどほとんどありません。ところが、「世界のGM」と提携するということで、スズキの注目度ががぜん高まったのです。


当時、「スズキはGMに飲み込まれるのではないか」と懸念されていたとのことですが、結果的にGMは経営破たんし、GMからノウハウを吸収したスズキがグローバルな自動車メーカーに成長したのは皮肉なものです。

ちなみに、今回VWに譲渡された自己株式は、経営が苦しくなったGMが約20%保有していたスズキ株式を市場で売却した際に、市場の混乱を避けるためにスズキが買い付けて保有していたものでした。今回の自己株式の処分を通じて、スズキ株式の約20%を保有する筆頭株主がGMからVWにチェンジしたと言うことができます。

激動の自動車業界再編の中、GMが経営破たんしても、またしても格上のグローバル自動車メーカーから提携のプロポーズを受けるスズキ。

決してメジャーなプレーヤーではないスズキがしたたかに生き残る姿は、多くのベンチャー企業にとって学ぶべき点が多いのではないでしょうか。

【スズキの強みとは?】
スズキのように格上企業との提携でステップアップするのはベンチャー企業が成長するひとつの王道パターンですが、これは言うほど簡単ではありません。私が考えるに、格上企業との提携を成功させるには下記の3つのバランスが必要であり、その点がスズキは非常に上手だと思います。

(1)格上企業を惹き付けるとんがった魅力(一芸)を持つこと


スズキの場合は、小型車における低コスト・量産ノウハウやインド・パキスタン等での高い市場シェアという一芸が格上企業を惹き付けています。

(2)格上企業のノウハウを使って自社の弱みを上手に補完すること

スズキの場合は、GMとの提携で自動車づくりの基礎を学ぶのと同時に国際的な知名度を手に入れ、VWとの提携では遅れをとっていた環境自動車の開発ノウハウを手に入れようとしています。自社の弱みを冷静に把握しており、提携の目的が非常に明確です。

(3)格上企業に飲み込まれないように適度な距離を保つこと

スズキの場合は、GMにせよVWにせよ、20%以上の出資は経営方針として受け入れていません。通常、相手のノウハウを活用すればするほど相手に主導権を握られ、独立した経営を行うことが難しくなりますが、その点においてスズキは程よい距離で提携を行っています。

上記のような強みを持つスズキであれば、24.85%の希薄化によるマイナス影響を上回るシナジー効果を生み出せるかもしれません。

自分の立場を冷静に把握し、したたかに生き残るスズキ。
そんなスズキの動向にこれからも注目していきたいと思います。


PS 早いもので、2009年もあと少しですね。

私なりに一年を振り返ってみると、今年は「金融商品への投資よりも自分への投資」ということで、いわゆる資産運用はひと休みして、日々の仕事で新しい業務にチャレンジしたり、今までやって来なかった健康管理に取り組んでみたり、といったことに時間を費やした一年でした。

今は時代の変わり目であり、個人に求められるものが変化しつつあることを肌で感じるので、自分の幅をもっと広げていきたいと思っています。

本日で2009年のパートナーエッセイもおしまいです。
今年も私達のエッセイにお付き合い頂きまして、ありがとうございました。

エッセイを書く上で、皆さんからのご感想がとても励みになりました。
また来年もどうかよろしくお願いします!


2009年12月17日  S.Yoshihara
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