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IR物語 第4回「新興市場下落のサイクル」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

今年は、多くの新興市場銘柄の株価が暴落してますね。
この下落局面で個人投資家、機関投資家共に元気がなく、
去年までと比べてIRへの問い合わせが少ないため、
某新興企業のIR担当としては寂しい限りです(笑)

まぁ、価値に対して価格が上がり過ぎていたと言えばそれまでなのです
が、実はこれって、投資家の心理が生み出した現象であると同時に、
会社側の心理が生み出した現象でもあるのです。
今日のエッセイは、IRの視点から見た「新興市場下落のサイクル」に触れ
てみたいと思います。

過去にも新興市場は大幅な上昇と下落を繰り返しているわけですが、
概ね下記のような流れを辿ります。

(1)何らかのきっかけ(IT神話等)により新興市場への期待が高まる

(2)価値に対して高い株価がつき始める

(3)会社側は無邪気に喜ぶ(また、内心で焦る)
 高成長の事業計画を掲げ、株価対策の資本政策やプレス発表が横行
 する

(4)さらに株価が上がる(バブルのピーク)
 週刊誌で「上がる株はこれだ!」特集が掲載されるようになる

(5)しかし、計画を達成できずに下方修正
 もしくは、粉飾してまで達成しようとする ⇒ 逮捕される

(6)投資家のマインドが急速に冷える

(7)新興市場崩壊 ⇒ 忘れた頃に(1)へ戻る

上記の手順を見ると、「投資家が勝手に盛り上がって、勝手に盛り下がっていく過程」とも言えますが、会社側の対応に全く問題がないとはいえません。

以前、合宿セミナーのある受講生から「経営者が自社の株価を高いと感じた時に、IRとしてどう対処すべきなのか?」という質問を頂いたことがあります。極めて真っ当な質問ですね。

本来、経営者がIRを通じて過熱する投資家の期待をうまくコントロールし、こうしたバブルに巻き込まないようにするのが望ましいIRと言えます。具体的には、上記手順のうち(3)の段階で、「控えめな業績予想を出すことにより株価の過熱を防ぐ」等のやり方があります。

しかしながら、多くの新興企業はこれをやりません。
むしろ、自ら熱狂を煽ってしまう方が多数派です。
理性では望ましいIRを理解している経営者もいらっしゃると思いますが、
熱狂の渦に「感情」が流されてしまうのです・・・。

その背景には何があるでしょうか?
株価が上がり始めた時の新興企業の舞台裏について、
自分の過去の経験も踏まえて考えてみたいと思います。
ポイントは「興奮」と「過信」です。

新興企業として注目され始め、株価が上がり始めた時期というのは、経営陣として非常に興奮するものです。
投資家に説明する際も鼻高々ですし、従業員も持株会やストックオプションを通じて恩恵を受けることで社内の雰囲気が盛り上がるし、事業の内容もよく知らずにヨイショする取り巻き(金融機関、メディア等)が現れて手放しで賞賛してくれます。

この結果、経営陣は、株価が上がるという行為が全ての関係者をハッピーにするように思えて、「もっと株価を上げたい」という気持ちになります。
こんな状況下では、価値<価格の乖離を把握したとしても、投資家の過度な期待を抑えるという意思決定は行いにくいのですね。

投資家の過度な期待を抑えるという選択をしない以上、必然的に、投資家の過度な期待に応える=「高成長」への執着心が強くなります。

また、悪いことに、この時期の経営陣はこれまでの成功体験により、
自分達の能力を過信しがちです。

このため、「思考は現実化する!」とか「夢は必ずかなう!」といった考え方が誤用され、楽観的な高成長事業計画が策定されます。

そして、経営陣は自信満々に当該計画を市場に発表します。
強気な計画が発表されて熱狂が継続することを世間も望んでいるため、
当該計画はさしたる批評もなく、賞賛と共に受け入れられます。
(この時、投資家と経営陣の興奮が頂点に達するのですが、
株価もこの辺をピークに下落に転じることが多いです・・・)

ところが、いざスタートしてみると、多くの場合、計画通りに行きません。
新規事業なんて、実際はそんな簡単に立ち上がりませんし、
M&Aだって、シナジーが出るどころか足を引っ張ることも多いです。

そして、下方修正&バブル崩壊を迎えます。
ここで、経営陣も投資家も現実に戻るのです。
(往生際の悪い経営陣の場合、粉飾決算に走ることもありますね・・・。)

結局、バブルとは、多くの投資家と経営陣が相互に刺激しながら盛り上げている「お祭り」みたいなものだということですね。
(悪質な場合、投資家もしくは経営陣が意図的に熱狂を演出します。)

このサイクルを知っていると、新興市場における株式投資の売買タイミングがわかりますよ。
要は、「世間の熱狂と逆に行け」ということです。
「人の行く裏に道あり花の山」とはよく言ったものですね。

また、新興企業にお勤めの方は、自社の経営が無理な急成長を目指していないかどうかチェックしてみると良いですよ。
そういう雰囲気が感じられたら、上記のサイクルにハマっている可能性があります(笑)

上記のサイクルによる新興企業の面白さ・怖さを理解した上で、玉石混交の新興企業の中から社会に新しい価値を提供しようと真剣にチャレンジしている新興企業を見つけ出し、一緒に新しいことを成し遂げていくのは楽しいですよ!

皆さんも、投資家や従業員(経営陣)の立場になって新興企業のチャレンジを応援してみませんか?
リスクを楽しめる方にはオススメです(笑)

2006年11月30日  S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!

次回パートナーエッセイは、12月1日(金)に橋口寛氏が担当します。





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