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IR物語 第55回「今、住宅って買い時?」

(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

今日(6月4日)は日本で新しい法律が施行される日です。
何の法律が施行されるかご存知ですか?

 

答えは「長期優良住宅法」です。
(正式名称:長期優良住宅の普及の促進に関する法律)

「長期優良住宅法」は、良質な住宅を建築し、計画的な維持管理を行うことで住宅の高寿命化を図り、もって住宅の資産価値の維持、中古住宅市場の活性化及び環境負荷の低減等を実現することを目的とした法律であり、一定の要件に基づき「長期優良住宅」を認定するものです。

そして、「長期優良住宅」に認定された住宅は、住宅購入者にとって高品質なだけでなく、次のような経済的メリットもあります。

・ 住宅ローン減税(最大600万円)等による所得税・住民税の減税
・ 固定資産税、登録免許税、不動産取得税の軽減
・ 50年ローンを親子2代で組むことも可能


金融危機の影響でご多分に漏れず厳しい状況の住宅業界では、「一般住宅に対する住宅ローン減税の拡充(最大500万円)」+「長期優良住宅法の施行」が住宅需要を喚起する起爆剤となることを期待しています。

そうした流れの中、最近、メディアで「今、住宅は買い時!」という特集が目につきませんか?

上記の政策支援や住宅価格の下落傾向を受けて、住宅購入に関する特集記事が増えていますし、実際にモデルルームへの集客は団塊ジュニア世代を中心に活況を呈しているそうです。

では、実際、住宅は買い時なのでしょうか?

実は私、今年の初めから住宅探しを始めていまして、新築or中古、戸建てorマンション問わず様々な物件を調査する中で、5月の終わりに中古マンションを購入しました。

正直、今が買い時かどうかの正しい答えは、時間が経過してみないとわかりません。ただ、この点について、ここ最近住宅探しをしてみた中で私が感じたことを述べてみたいと思います。

【今、住宅って買い時?】

今回、結果的に自分は住宅を購入したので、心情的には「今は買い時です!!」というプレゼンを全力で行いたいところですが、実際はそうでもありません。

むしろ、今回、住宅を購入するために調査した印象としては、「住宅を購入した方が有利な可能性が高い」というケースは限定的だと思いました。

【お買い得の判断基準】

私はこれまで賃貸のマンションに住んでいたのですが、住宅を「購入する」ということは将来キャッシュフローの面で「賃貸する」よりも有利でなければ意味がありません。

そこで、株式投資でも活用しているDCF法の出番です。

「賃貸する場合の毎年の支出」と「購入する場合の毎年の支出・収入」を比較してみます。

「賃貸する場合の毎年の支出」では、家賃や更新料等を集計し、
「購入する場合の毎年の支出・収入」では、頭金、ローン支払額、管理費・修繕積立金、税金、ローン減税影響額、将来売却予想収入等を集計します。
(購入時の初期投資額を運用した場合の機会損失も考慮に入れます)

現在、住宅の購入を希望されている方は、上記の比較を是非やってみることをオススメします。購入すると、案外いろんな支出があることに気付きます。

私は今回住宅を購入するにあたり、200件以上の様々な物件についてざっくりシミュレーションをしてみたのですが、「住宅を購入した方が有利な可能性が高い」という結論が出たケースは全体の10%程度でした。

それでは、お買い得な条件とはどのような条件なのでしょうか?

【お買い得な条件とは?】

DCFによる比較をやってみると、当たり前ですが「将来売却予想収入額」をいくらで見積もるかによって結果が大きく変わることに気づきます。

ここが当初の想定を大きく下回ってしまうと結果に大きな影響を及ぼすので、購入するのであれば「将来売却予想収入が大きく下ブレしにくい物件」=「流動性(人気)が非常に高い物件」が望ましいです。

今回の物件の調査で一番強く感じたのは、物件の2極化が進んでいることでした。

最近、メディアでは、「マンションの投売りが始まっており、1,000万円以上の値引きもあり」なんて記事が出ていたりします。

確かにこれはひとつの事実。自分が見た物件にもありました。

ただ、ほとんどの物件がこんなノリで販売しているのかと思ったら、そうでもないです。
一流のデベロッパーが建築した好立地の新築物件は大して値引きしなくても完売しています。また、中古でも人気物件は売り物がなく、あったとしても新築時の価格よりも高い値段で売買されています。

値崩れしたり在庫が大量に余っているのはその他大勢の物件であり、一部の優良物件の取引は堅調に推移しているというわけです。

このあたり株式投資と一緒ですね。
投売りされているマンションを購入することは万年割安のバリュー株へ投資してしまうことに近いものがあります。また、企業価値を着実に向上させている優良企業の株式は割安に投資できる機会がなかなかありません。

【まとめ:購入するなら・・・】

前述のとおり、何でもかんでも「買い時」とは思いません。
特に、これから住宅を購入する際には、「将来の売却価格」が下ブレする可能性について慎重に対処すべきでしょう。

そうした中、購入するなら「流動性(人気)が非常に高い物件」をあらかじめリストアップして、なかなかチャンスは少ないのですが、割安に取得できる機会を窺うのが良いと思います。

「流動性(人気)が非常に高い物件」とは、とにかく好立地であることが第一で、一流のデベロッパーが建築した物件であることが多いです。

そうした優良物件を割安に取得できるチャンスの例としては、下記の事例が挙げられます。

・新築物件にキャンセルが生じた場合
 (手付金分値引ける可能性あり)
・売主の資金繰りの都合で売り物件が出てきた場合
 (競売、任意売却等)

ちなみに、新しい住宅ローン減税はやはりインパクトがありますので、購入する際には活用したいところです。住宅ローン減税は中古でも築年数が20年以内であれば利用できますが、床面積が50㎡未満の物件は対象外になります。

なので、購入するなら50㎡以上の物件がオススメです。
50㎡未満の物件はここ数年でファンドが投資した賃貸物件がたくさん空いており、賃料の値下げ交渉もできるので、賃貸の方が有利だと思います。

以上、皆さんのご参考になれば幸いです。


2009年6月4日  S.Yoshihara
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