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IR物語 第11回「配当方針を読み解く!」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

もうすぐ3月決算銘柄の配当権利取りのシーズンですね。
最近、株主還元の議論が活発になっていることから、増配する企業が増えそうなムードです。

配当方針は会社によって異なりますが、それぞれの配当方針には会社ごとの意図があります。

投資をする上で投資対象の配当方針を把握することは重要な要素なので、今回は、「配当方針を読み解くには?」をテーマにしたいと思います。

配当方針を読み解くには、「配当」の意味を知ることが大事です。
まず、「配当」をファイナンス理論に基づいて考えてみましょう。

配当は、企業の株主資本の一部を取り崩すことによって行われます。
このことは、以下の式によって表すことができますね。

「配当前の株主価値」=「配当金額」+「配当後の株主価値」
参照エッセイ:KISS第39号「配当と株主価値」

結局、配当を受けるということは、現金を受取る代わりに、その分だけ保有する株式の価値が減少する(価値が移動しただけ)といえます。
その行為だけで、ことさらに喜んだり、ポジティブに評価すべきものではありません。

それでは、会社(経営陣)はどういう場合に配当を行うことが株主にとって望ましいかというと、
「WACCを上回るリターンが見込める投資対象が見つからず、余剰現金が生じた場合には、株主に資金を返還すべき」ということになります。

これについて、ハーバードビジネスレビューの記事に面白いことが書いてありました。

その記事では、「事業投資が長期的な価値創造に資する可能性が低い場合には、株主にキャッシュを返す(=配当する)べき」とあり、
配当の意義として、
「その資金を別の株式に投資して、さらに大きな利益を上げるチャンスを株主に提供できる」とともに、「経営者が愚かな企業買収に金額を注ぎ込むといった、賢明とはいいがたい投資に内部留保が使われてしまうリスクを減らす」ことを挙げています。

「経営者が賢明とはいいがたい投資をするリスク」にも触れているあたりが面白いと感じたのですが、現実として多くの「賢明とはいいがたい投資」が行われているということでしょうね。

上記の考え方に基づくと、「配当」って、どんな会社でも出せばいいというものではないことがわかりますよね。
「配当」が株主にとって望ましいかどうかはケースバイケースなわけです。

それでは、ここから一つの例題について考えてみましょう。

皆さんは、自分が株式を保有している会社が「増配」を発表したら、
どのように評価しますか?

一般的には、「増配」発表は株価に対してポジティブ要因とされています。
日経新聞の株価解説欄でも「昨日の増配発表を受けて株価が高騰」なんて当然の因果関係かのように解説されたりします。

増配が株価に対してポジティブ要因であることを裏付ける理屈は、
下記のように説明されます。

「配当を増やす」⇒「経営陣の将来業績に対する自信の表れ」
⇒「将来キャッシュフロー予測の上昇」⇒「株主価値の上昇」

確かに、このようなケースに当てはまる会社もありますよね。
しかし、下記のような考え方もありえます。

「配当を増やす」⇒「会社が有望な投資対象がないことを認めた」
⇒「成長力の鈍化による将来キャッシュフロー予測の低下」
⇒「株主価値の減少」

高成長を期待されていた会社が増配を発表した場合には、
前提条件の変化により株価が下落したって不思議ではないわけです。

ましてや、ファイナンス理論を理解している会社(経営陣)が「自社株買い」による株主還元ではなく、「配当」による株主還元を選択した場合には、下記のように考えているということができます。

「現在の株価水準を考えると価値<価格なので、自社株買いをするのは合理的ではないな・・・。かといって、有望な投資先もなくて余剰資金が発生していることだし、増配して株主にお返ししよう」

増配に上記のようなメッセージがこめられているとしたら、
皆さんはそれを株価の上昇(価値の増加)要因と感じますか?
私は、「この会社はさりげなく自社の株価が高いということを伝えようとしてくれてるんだな」と思います。

このとおり、増配ひとつとっても、その会社のポジションや株価水準によって、受け止めるべき意味が異なります。
「配当」が有する意味は会社によってそれぞれだということですね。

また、全ての会社がファイナンス理論に基づいて配当に関する意思決定を行っているわけではない点も注意が必要です。

例えば、有望な投資対象を有する成長企業であり、配当を行うのがナンセンスな会社でも、様々な利害関係者に「一人前の会社ならば配当しろ!」と要求されて、仕方なく少しだけ配当しているケースは多いです。
他にも、増配発表をすると短期的に株価が上昇することが多いので、株価対策に利用するケースもあります。

また、有望な投資対象が見当たらない成熟企業であり、増配により株主へ資金を還元した方がよい会社でも、経営陣の無理解により過去の安定配当を継続する結果、十分な配当を実施していないケースもあります。

さらには、大株主(親会社、創業者等)の都合だけで配当方針が決定されてしまう会社もあります。

この結果、各会社の配当方針が持つ意味は様々なものとなります。
配当が持つ意味は、会社のポジション、株価水準によって異なりますし、ファイナンス理論に基づいて意思決定をしているのか、それとも、様々な諸事情を考慮して決定しているのか、によっても異なります。

「この会社の配当方針はどういう意味を有しているのか?」ということを考えてみると、その会社のファイナンス理論に対する理解度や配当を決定するにあたっての諸事情を把握することができます。

皆さんが株主、従業員等として関与している会社はどのような考え方に基づいて配当を決定していますか?

有価証券報告書を読んだり、IRに問い合わせたりして考えてみると面白いですよ!

2007年3月22日  S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!

次回パートナーエッセイは、3月24日(土)に橋口寛氏が担当します。

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