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IR物語 第12回「個人投資家をナメるな!?」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

最近、多くの上場会社が個人投資家向けIRに力を入れていますね。
自社のWEBサイトを活用した情報提供や会社説明会の開催等が盛んに行われています。また、株主優待に力を入れる会社もありますね。

日本IR協議会が上場会社向けに実施したアンケート結果では、
「今後力を入れていきたいIR活動」という質問に対して、
「個人投資家向けIR活動」という回答が62.3%でトップでした。

以前はIRといえば機関投資家向けIRが中心だったことを考えると、われわれ個人投資家にとっても歓迎すべき環境になってきましたね。

ただし、個人投資家は無邪気に喜んでばかりもいられません。
なぜ多くの上場会社が個人投資家向けIRに力を入れているのでしょうか?

今回のエッセイでは、この点について考えてみたいと思います。

先日の日経新聞夕刊でも個人投資家向けIRが取り上げられていました。
その記事によると、
「個人を対象にIR活動を始める上場企業が相次いでいる。
企業は買収防衛が課題になるため、安定株主として個人投資家に熱い視線を送っている。」のだそうです。

確かに、先ほどの日本IR協議会によるアンケートでも、
「個人投資家向けIR活動実施の目的」という質問に対しては、
「長期保有してくれる株主の確保」という回答が70.0%でトップでした。

「ふ~ん、なるほどね」って読み流してしまいそうな話ですが、何かおかしな感じがしませんか?

どうやら、多くの上場会社が個人投資家に長期保有の安定株主になって欲しいと期待しているということはわかりました。

でも、なぜ長期保有して欲しい株主が「個人投資家」なのでしょうか?

私は仕事柄、証券会社やIR会社、各種メディアの方から「個人投資家向けIRをやりませんか?」という営業のご提案を頂きます。

その時、上記質問に対する回答としてよく出てくるのが下記の2つです。

(1)「株主=顧客」戦略
自社製品のファンである個人投資家に長期保有してもらえれば、お客様としても長いお付き合いが期待できる。

(2)多様な価値観を持つ投資家層の確保
機関投資家は「株価が価値に対して割安か割高か」という経済合理性に基づいてのみ投資を行うが、個人投資家の投資目的は様々なため、多様な価値観に基づいた株価形成が期待できる。
(機関投資家の保有比率が高い新興市場の成長企業においては、今後の成長に陰りが見えると機関投資家から一斉に売られる場合があるのですが、その時に個人投資家のファン作りを行っておくと、下げ局面でも株価の下支えが期待できる(?)のだそうです。)

上記の説明をご覧になって、どのように感じますか?

私は、「個人投資家ってナメられてるな?」って感じます。

まるで個人投資家が価値と価格の違いを理解していなくて、経済合理性に基づいて投資をしない存在かのような扱いです。

まず、(1)について言えば、
「顧客」としてお付き合いしたい会社が必ずしも「株主」としてお付き合いしたい会社であるとは限りません。
どんなに良い製品を顧客に提供している会社でも、価値に比べて株価が高過ぎたり、株主への還元が適切でない会社には投資したくないですよね。

もちろん、「顧客」としても「株主」としても参加したい会社に投資できるのは最高です。
しかし、以前、ライブドアが提唱していた「インベスタマー」(株主=顧客の造語)戦略に共感した多数の株主がどういう末路を辿ったかは皆さんご存知ですよね。

また、(2)について言えば、
「厚みのある株価形成」というのは、ある会社の将来業績予測やリスク認識に対して異なる価値観を有する投資家が市場に参加することによって実現されるものであって、「経済合理性に基づいて投資しない投資家」を株式市場に放り込むことによって実現させるものではないと思うのです。

結局、上記の理屈は個人投資家の無知につけ込んだ経営陣の甘えではないでしょうか。

最近、価値と価格の違いを把握できるファンドによる資本参加が盛んですからね。
経営陣はファイナンス理論に基づいて様々な要求を突きつけるファンドに支配権を握られたくないものの、企業間の株式持合いを復活させると批判を浴びてしまう。(最近、復活させてる会社もありますが・・・)

そこで、「価値と価格の違いが分からず、自分達の支配権を脅かさない個人投資家が長期安定的に株式を保有してくれるとありがたい」という意味にも取れますよね。

少し意地悪な見方をすれば、個人投資家向けIRが活発化している背景は、以上のように読み取ることもできます。
(もちろん、全ての会社が個人投資家を上記のように捉えているわけではなく、個人投資家に対して誠実に向き合う会社もたくさんあります。)

どんな意図があるにせよ、個人投資家向けIRが活発になることは個人投資家にとって非常に良いことだと思います。
個人投資家がその会社のことを理解する機会が与えられるわけですし、
正しい知識の下にその意図を読み解けばよいわけですから。

これから団塊世代の退職や将来不安といった要因から株式投資がクローズアップされ、株式市場に資金が流入すると言われています。

また、株式市場における保有比率や売買シェアを考えても、個人投資家が市場に及ぼす影響は大きくなっています。

こうした環境の中、個人投資家の皆さんには経営陣や機関投資家にババを引かされることのないように、「価値と価格の違い」や「価値創造メカニズム」を理解した上で投資に臨んで欲しいと思います。

多くの個人投資家が価値と価格の違いを理解し、真っ当なやり方で価値創造している会社に投資をするようになったら・・・

その時には今よりも素晴らしい社会が待っていると思います。


PS 要は「世の中の情報の意味は正しい知識の下に自分で判断しよう!」ってことですね。
耳ざわりのよいことばかり述べている情報は要注意です。

その点、板倉雄一郎事務所は、時には耳の痛い話も伝えていこうと考えています。
板倉雄一郎事務所の最新作「真っ当な株式投資」も耳の痛い話が含まれているので、個人的には「真っ当過ぎて売れないかも・・・」って心配していたのですが(笑)、無事に増版されているようです。
まだ読んでらっしゃらない方は、是非目を通して下さいね。

2007年4月5日  S.Yoshihara

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次回パートナーエッセイは、4月7日(土)に橋口寛氏が担当します。





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