(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの橋口寛です。
「パートナーシップのココロ」第三回目の今回。
テーマは、「情報の共有化」です。
前回第二回目では、「価値観の共有」について触れました。
パートナーシップを成功させる上で、チームの行動原理、哲学ともいえる「価値観」をパートナー間で共有しておくことは、決定的に重要である、という内容でした。
今回は、「価値観の共有化」に加えて、もうひとつ極めて重要な“共有化”である、「情報の共有化」について述べたいと思います。
かつてヒエラルキー組織において、情報を抱え込むことは、すなわち「力」でした。
経営の中枢に近いほど、重要な情報が存在しており、
その情報にアクセスできることは、特権を意味しました。
少数の上級管理者が、多数を管理する制度の中では、
情報は上級管理者だけが掌握しておけばよかったのです。
しかし、多くのメンバーが自律的に判断することを求められる組織では、そうはいきません。
組織がパートナーシップに近づくほど、情報の開示、情報の共有化が求められるのです。
価値観を共有した信頼できるパートナーの間で、情報を秘匿し、情報の流通に制限をかけることは、組織の機能を損なうものです。
(蛇足ながら、ここで「共有化すべき情報」というものの中に、個人情報などは含まれておりません)
私はコンサルティングの現場で、多くの企業のマネジメントを見る機会があります。
情報の共有化に対する考え方は、本当に千差万別です。
情報のダムを各階層に設けている企業は、例外なく、意思決定のスピードが遅い企業です。
より正確を期すならば、意思決定をするスピードの遅さに加えて、トップで意思決定されたものが組織行動に表れるまでのスピードもまた、決定的に遅いのです。
外部環境の変化が速くなればなるほど、組織行動の遅さは命取りになりかねません。
私は米国留学中に、シドニー・フィンケルシュタイン教授の「Why Smart Executives Fail」(邦題「名経営者が、なぜ失敗するのか?」の1パートを執筆していました。
その際に、食中毒事件を起こした雪印乳業の関係者の方何名かに、電話でインタビューをさせていただいたことがあります。
その際、ある経営幹部の方が語っていた言葉が非常に印象的でした。
「重要な情報が伝わるのが遅かった。情報は、各ステップを踏んでゆっくりと上がってきた」
経営の根幹を揺るがすような重要な情報が、じりじりするほどにゆったりした時間軸の中で、上に伝えられていたのです。
初動の遅れは、意思決定の致命的な遅れをもたらしました。
その結果が、消費者、小売店、酪農業者、従業員、家族、すべてに多大な苦しみを強いることになる、あの結果へとつながったのです。
我々、板倉雄一郎事務所における情報の共有化は、極めて迅速かつ広範囲に行われます。
代表の板倉氏、全9名のパートナー、そしてパートナー企業の方々。
この間では、どんなに些細な情報でも瞬時に共有化されています。
組織規模の大小による違いはもちろん大きいでしょう。
しかし、「うちは大きな組織だから無理だよ」と諦めた時点で、
その組織は、既に危険な水域に舳先を進めつつあるのだと思います。
私は、情報の共有化にやりすぎることはないと思っています。
少しオーバーな表現ですが、情報は「偏執的なまでに」共有化する必要があるのだと思います。
共有化された価値観を持つ仲間が集まり、
その間で徹底的に情報が共有化されたとき、
そこには、「信頼」が生まれます。
ディスクロージャーが理解を生み、
理解は信頼を生む。
ピーター・ドラッカーはこう書いています。
「組織は、もはや権力によっては成立しない。信頼によって成立する。
信頼とは好き嫌いではない。信じあうことである。そのためには、互いに理解していなければならない。
互いの関係について互いに責任を持たなければならない。それは義務である。」
(「明日を支配するもの」)
私は、情報を開示し、信頼を得るべく努めることは、パートナーの義務だと考えます。
情報を開示し、理解し、理解され、信頼し、信頼されること。
それは、組織の形態がどうであるかによって変わるものではありません。
会社であれ、スポーツチームであれ、家族であれ、恋人であれ。
それは、パートナーシップを構成する、すべてのパートナーの義務なのです。
2007年4月7日 橋口寛
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次回パートナーエッセイは、4月10日(火)にShimoda氏が担当します。