板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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By T.Shibuya

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

こんにちは。パートナーの渋谷です。

今年の当事務所エッセイ・テーマの一つとして、「企業の変化」(というか、環境・状況の変化に対する企業の対応)を取り扱うと言う方針が、年初に掲げられました。

これは、昨今の激変する経済環境に対して、企業が生き残るために。また、更に継続的に発展を続けるために、いかに自発的かつピーディーに改革・変革を断行するのか、しないのか。その様子を見て行こうというものです。

相変わらず世間では「雇用問題」や「派遣切り」の話題が、しつこいぐらいにメディアで報道されている中、関連するニュースとして、最近まずは、
“日本電産が賃金カット、グループ1万人、来月から1―5%、社長「雇用を維持」。”というタイトルのものが目に付きました。

(上記は2009年1月10日付の日本経済新聞朝刊13面。他の主要新聞も同内容のニュースを一斉に報道。)

「また日本電産の話か」と思われる方も居られるかも知れません。

この会社は僕自身が、常時ウォッチしているので、同社の話題に敏感になっている点、また、自分がよく知る会社であるため、より詳細で有益な情報をお届けできる可能性がある点、そして、上場企業の中でもその行動がダイナミックで、最も早く行動する会社の一つである点などから、再度この会社の話題になってしまいました。

その点について、どうかご容赦ください。
(ちなみに事務所内では日本電産のIR担当と呼ばれています(笑))

日本電産に関するその新聞記事の内容を要約すると、

・国内グループ社員一万人の賃金(基本給)を各社の業績に応じ1〜5%減らす。(業績が堅調な日本電産コパル電子を除く)
・社員間で仕事を融通(ワークシェアリング)することで残業を減らす。
・昨年12月から実施する役員報酬月額の削減幅も拡大、社長で20% → 50%減、取締役で10%〜20%減 → 20%〜30%減とする。
・今年一月から実施した管理職給与の減額幅も、部長で10%、課長で7.5%とそれぞれ2.5%拡大する。
・理由は昨年末から業績が急激に悪化し、今期営業利益が前期比28%減少する見込みのため、「(早期に先手を打つ事により)赤字転落を避け、雇用を維持するため」と説明している。
・海外工場の従業員12万人もグループ会社間で余剰人員を融通して雇用維持を優先する。
・実施期間は二月から開始するが、業績回復の見込みが立てば、早期に元に戻したいとしている(同社では業績拡大を受けて2008年春に6%の賃上げを実施していた)。


といった内容です。

こうなる可能性については、昨年12月19日の「業績下方修正」発表の場で、すでに言及されていました。またこの時に、パートも含めて人員削減はしないとも明言していました。

ここで、具体的な金額と、業績へのインパクトについて気になりました。

その賃金カットで、どの程度の金額が削減され、そしてそれが業績(例えば営業利益率)にどのぐらいのインパクトを与えるのかを調べるため、まず会社のリリースがないかを見てみました。

すると、会社からは正式なリリースは出されていませんでした。

そこで、これらについてIRに問い合わせてみたところ、年初の賀詞交換会の席で永守社長がその方針について言及した事がソースなのだそうです。賀詞交換会には主に京都の新聞社をはじめ、マスコミの人も来ているため、そこから情報が広がって各社が記事にしたのだろうとの事でした。

質問の本題である具体的な金額等についても聞いてみたのですが、まだ方針が出た段階であり、労組があるグループ各社については、労組との調整も必要なため、現時点では具体的金額は公表できないとの事でした。

有価証券報告書等の公開情報から、ある程度ザックリとした数値を推測するのは可能かも知れませんが、「基本給に対する割合」となっている事もあり、誤差が大きくなる可能性が高いため、ここであえてその数値を計算する事はしません。

しかし、この賃金カットをしたからといって、それだけで営業利益率が何ポイントも大幅に改善されるというものでないのは、確かだと思います。

ただ数値的な意味としては、仮に大きなインパクトがないとしても、細かいものでも積み上げる事により「あらゆる手段」を尽くして、不況に立ち向かうという意義が当然ながらあると思います。

また、それだけではなくこの方針には、幾つかの永守社長から全役員・全社員へのメッセージが込められているようにも思えます。

その一つは「非常事態」である事を認識し、危機感を共有しようという点です。

次に、絶対に雇用は守るというメッセージです。

これは永守社長が普段から口にしている事でもありますが、全社員を家族と考え、家族である以上誰かを犠牲にする事は絶対にしない。そのかわり苦しい時期は、全員で努力し、痛みを分かち合って乗り切ろうという事なのでしょう。

さらにもう一つ、真っ当だと感心したのは、役職が上であるほど、その責任の重さを明確にしている点です。記事を見てわかる通り、社長の報酬減額が最も多く、ついで取締役、部長、課長、一般社員という順番になっており、その減額割合の差も大きく、かつ明確につけています。

これは日本人の価値観としては、当然だと考える人も多いかも知れませんが、このような考えを表面上は述べたとしても、本当に実践している例はあまり見た事がありません。

日本の例ではありませんが、例えばインチキ金儲けが回らなくなって破綻したどこかのCEOが、年間何十億円という莫大な報酬を取りながら、その後社員が路頭に迷おうと、何ら責任を取らないのとは対照的だと思いませんか。

「トヨタ自動車より先にやれ!」

トヨタが業績下方修正を余儀なくされそうだとの見方を聞いた永守社長は、社内にこんな檄(げき)を飛ばしたそうです。(昨年12月19日の下方修正発表に関して)

今回話題にした「賃金カット」とそれによる「明確なメッセージ発信」も、問題ができるだけ深刻化しないうちに、常に可能な限り迅速に手を打つという、この会社の卓越した経営姿勢が表れていると思いました。

今後他のパートナーも含め、このような「変化への対応」を、より具体的かつ可能な限り定量化する形で分析し、エッセイとして皆様にお伝えできればと考えています。

ご意見ご感想、お待ちしています!

2009年1月20日  T.Shibuya

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