板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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経営経験者からみた投資 第5回「投資対象企業をみる~経営者編(5)」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所の渋谷です。
これまで、5回にわたってお届けしてきたこの「経営者」シリーズは、今回で最終回とさせていただきます。

次回以降は、「ベンチャー失敗から投資家へ」と題して、僕がベンチャー時代に経験した苦労や、エピソードをはじめ、その後どういう経緯で投資家に転身したのか、また、自分の両方の経験に照らして、ベンチャー経営者と投資家それぞれどんな人が向いているかという適性などについても、トピック毎に分けて書いていきたいと考えています。

それでは今回最終回は、普通のサラリーマンからベンチャー経営者となった、僕の「日本IBM時代の先輩」であり、僕の結婚式で「主賓のスピーチ」もしていただいた、D社長(D先輩)の話をご紹介したいと思います。

僕が日本IBMに入社した頃の日本経済は、バブル絶頂期に向かって勢いのいい上り調子の時期で、世間全体が浮かれていたといえます。ですから我々新入社員や、それに近い年代のサラリーマンは、真面目にコツコツ仕事をするというより、「如何に楽しく遊ぶか」について、より関心があったような時代でした。

夕方になると仕事もそこそこに、当時流行っていた(最近話題の折口氏プロデュース時代の)「ディスコ」に繰り出したり、「ラウンジ」などに出かけていって店の女の子を口説いたり、合コン三昧だったりと、本当に遊びのことばかり考えていたのを記憶しています。

そんな中我々若手社員は、少し年配の先輩社員や上司たちから「新人類」と呼ばれ、扱いが難しく、仕事をしない人種として、非常に問題視されていました。これは恐らく世間的にも同様で、「新人類」という言葉は、マスコミなどでもよく使われていました。

D先輩は僕の2年先輩だったので、年齢も近く、どちらかといえば「新人類」サイドのリーダー的存在で、「仕事というよりは遊び」の方で、僕の同期ともどもよく面倒を見てもらいました。

D先輩は元々頭の回転が速く、優秀なアイデアマンだったので、営業成績なども良い方でした。しかし、なにせ当時はあまり仕事好きではなく、仕事にムラがあったので、上からはあまりいいようには評価されていなかったと思います。
逆に我々後輩からは、「イイ先輩」として慕われていましたし、僕も彼が大好きでした。

そんなD先輩に転機が訪れます。

元々僕らは、関西地方のある営業所のメンバーだったのですが、D先輩は東京に転勤になり、その後転勤先の東京で手腕が認められたようで、若くして「マネージャー昇格」のオファーを受けました。本人もやる気満々でその話を受けるつもりだったのですが、何かの不都合でその話がお流れになってしまいました。
そしてそれを理由にD先輩は、会社に見切りをつけて、当時勢いのあった日本オラクルに転職をしました。

(彼には以前からよくヘッドハンターからオファーが来ていたようですが、その転職はヘッドハンター経由かどうかは知りません。)

当時の日本オラクルはまだ上場前の新興企業でしたが、急拡大している最中で、若々しくエネルギッシュなイメージがありました。

D先輩が入社して何年か後に、僕も、彼からその会社にお誘いいただき、僕は99%行く気になっていたのですが、決断する土壇場で「より魅力的に見えた」転職先を見つけ、結局そちらに行くことになりました。ですから結局D先輩のお誘いを断ってしまう事になりました。

その後日本オラクルは上場し、D先輩やその同僚たちはストックオプションによって、かなり大きなキャピタルゲインを得たそうです。後になってD先輩から、「お前もあの時、俺の誘いに乗って来ていれば、今頃○億円のキャピタルゲインだったのに・・・」なんて言われて、少し悔しい思いをしました。

D先輩が日本オラクルで何年か活躍した後、またまた彼に転機が訪れます。

今度は日本オラクルの社内ベンチャーとして、「リナックスOS」を世に広める会社を立ち上げ、NECなどの大企業からも出資を受けて、新会社をスタートしたのです。
この当時僕もベンチャーをやっていた頃だったので、ベンチャー仲間の交流会で、久しぶりにD先輩と再会しました。その時の印象も、社長の割に「仕事命」というよりは、どこか「プライベート優先」的な感じもしました。

その後D先輩は再び転職をすることになります。

今度も同じリナックスOSの会社で、非常にメジャーな、ある米国のディストリビューターの「日本法人の社長」として、迎え入れられたのです。その会社は、当初は米国の親会社の100%子会社だったのですが、ある時、「ダイナミックな資本提携」により、日本の「某有名会社」の傘下に入りました。

この資本提携の目的はよく解りませんが、D先輩の会社の上場のために有利だと考えたのか、それとも、今後のビジネス展開に有利だと考えたのか、またはその両方かもしれません。

そして、この「資本提携」は後になって、彼の会社の運命を、大きく左右するものになるのです。

しばらくの後、D先輩の会社はめでたく上場します。
(この先D先輩のことをD社長と呼ぶ事にします(笑))

しかしそこからが、D社長のより大きな苦悩の始まりでした。

まず上場時、そしてその後しばらくの「上場バブル」があり、当初は急激に株価が上昇するのですが、その後急激に株価が冷え込んでいきます。これは何もこの会社に限った話ではなく、そこそこ以上に期待されて上場した会社は、大抵は受ける最初の試練です。

また、無理に数字を作って、強引に上場させたインチキ会社などは、その後の株価低迷から2度と浮上することなく、延々とリビングデッド(潰れはしないが低迷状態)を続けるか、何年か後に上場廃止になったり、倒産したりする会社も少なくありません。
逆にしっかりと経営を行い、きちんとキャッシュフローを上げられる会社は、上場バブル後の株価低迷から浮上して、一部市場に指定替えするなどして、立派な上場企業となっていきます。
そのどちらになるのか、僕は期待と不安を持って、D社長の会社を見ていました。

しかし暫くの後、彼が予想もしなかったであろう「とんでもない事件」が、D社長のもとに降りかかります。

それは、ライブドア事件です。
実は先に書いた「資本提携」というのは、ライブドアの傘下に入るというものだったのです。
この時からD社長の会社は、「絶体絶命」の危機に陥ります。
株価は何日も、「ストップ安」の連続。D社長のブログのコメント欄には、「罵声」のような書き込みの連続。ライブドア系列の会社ということで、ビジネス上の取引に関しても、大きく支障をきたしただろう様子も伺えました。

D社長は自身のブログで、その時々の会社の状況や、対応策、日々の行動などを綴っており、物凄く苦悩しながらも、寝る間も惜しんで「真摯に」、「必死に」対応している様子が伺えました。

僕には、特に何もできることはなかったのですが、とにかく少しでもD社長を励ましたい気持ちでした。多分、会社内は半ばパニックのような状態で、情報や迷いが錯綜しているだろうと考えたので、「とにかく一刻も早くライブドアと縁を切るべきです!」と、強い調子で書いたメールを彼に送りました。
だいぶ経ってほとぼりが少しは冷めたであろう頃、D社長からは「ありがとう」と返信を貰いました。

しかしその後もD社長の苦悩は続きます。

ライブドア騒動の顛末については、皆さんご存知の通りですよね。
D社長の会社のビジネスは、ライブドアグループという信用不安もあってか、現在も低迷を続けているようで、最近になって赤字転落の下方修正を出したりと、相変わらず苦しい日々が続いているようです。

そして最近知ったのですが、少し前にMSCBによる資金調達をしてしまったようです。その資金調達の会社発表リリースを読むと、MSCBの毒について、ある程度理解しているが、やむを得ずMSCBでの調達を採用したようにも取れるため、資金的にも相当に厳しい状況だったのかもしれません。

やはり経営者、特に上場企業の経営者というのは、状況によっては非常につらいものです。

僕の知る限りでは、D社長は現在の会社の上場によって、巨額のキャピタルゲインや、キャッシュを手にした訳ではありません。一方、彼の背負っている苦労を考えると、個人的には非常に気の毒な気分になります。せめてその苦労の対価としての大きな報酬があったのなら、また話は別なのですが。
しかし元はといえば、ライブドアのようなインチキ会社と資本提携してしまった事、すなわち、ライブドアのインチキオペレーションを見抜けなかった事が、そもそもの原因だと考えられます。ですから心情的には気の毒なのですが、これは完全に経営者自らの責任だとも言えると思います。

僕は現在、当事務所のセミナーで知識を得たからこそ分かるのですが、僕がやっていたベンチャーも、下手にうまくいってたら、ひょっとしてD社長のような立場になっていたかもしれないと考えると、ぞっとします。

以上の話より、やはり正しい「ファイナンス知識」の必要性を、改めて痛感します。

ですから「投資家」の方のみならず、「経営者」、「ベンチャー起業家」の方も是非当事務所の合宿セミナーを受講いただき、無用な苦労を抱え込まないようにしていただきたいと思います。そのためにかかる費用など、得られる知識の価値からすれば、微々たるものです。

ライブドアが、「事件」になる遥か以前より、板倉さんが、当WEBサイトのブログエッセイで、散々ライブドアのインチキを指摘していました。宜しければ、今一度左フレームの「サイト内検索」から「ライブドア」というキーワードで、検索してみて下さい。

その指摘していた内容を、「大量に」お読みいただくことができますから。

2007年8月2日  T.Shibuya
ご意見ご感想、お待ちしています!
経営経験者からみた投資 第4回「投資対象企業をみる~経営者編(4)」

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