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ITAKURASTYLE「必要条件≠十分条件」

(夏休みモードの板倉エッセーです。)

「何かを得れば、一方で何かを失う」と、何度も書いてきました。
しかし、だからと言って、
「何かを失えば、一方で何かを得る」とは限りません。

「価値観を異にする関係は不幸だ」、
しかし、だからと言って、
「価値観が共有されていれば、常に良い関係が築ける」
というわけでもありません。

「計画より理念や情熱だ」と、何度も書いてきました。
しかし、だからと言って、
「理念や情熱があれば事業は成功する」わけではありません。

「僕は彼女のことを本当に愛している」と思ったところで、
その愛の形は、彼女にとって、うっとおしいだけかもしれません。

「優しい表現は、人間関係を円滑に運ぶ」ともいえますが、
だからと言って、
「優しい表現では伝わらない相手を放置すること」が、
必ずしも、人間関係を円滑に運ぶとはいえません。

つまり、ある事象が、(主体者から観て)成功するためには、
(主体者から観た)「それぞれの要素」の必要条件の「積」が、
十分な値を示していることが必要です。

たとえば・・・
新しい事業を始めようとします。
その事業の要素を分解した結果、
1、資金調達
2、マーケティング
3、商品開発
4、従業員の採用
などが挙げられたとしましょう。
それぞれの要素の成功の可能性が、80%だとしましょう。
成功の可能性が80%とは、かなり良い値です。
しかし、事業全体の成否は、
「資金調達の成功の可能性=80%」*
「マーケティングの成功の可能性=80%」*
「商品開発の成功の可能性=80%」*
「従業員の採用の成功の可能性=80%」≒40%
事業全体の成功の可能性は、半分以下と言うことになります。

もし、上記の要素のたった一つでも、
その要素の成功の可能性が10%だとすれば、
全体の成功の可能性=5%・・・つまり失敗の可能性が極めて高い。
となってしまうわけです。

僕は良く、コンサルの依頼を受けます。
そして、多くの場合、お断りすることになります。
理由は、もうお分かりだと思います。
コンサルティングが成功するためには、コンサル先の事業主体に、
少なくとも経営における必要条件が揃っていなければならないからです。
コンサルとは、サラダに置き換えれば、ドレッシングのようなものです。
そこに、野菜がなければ、
いくらドレッシングをかけても、サラダにはならないのです。
野菜の品質が高ければ、ドレッシングなんていらないのです。

コンサル依頼を、お断りするとき、僕は「はっきり」と、その理由を伝えます。
相手は、憤慨する場合もあれば、将来に自信をなくしてしまう場合もあります。
しかし、それ自体も無償のコンサルであるとさえ思っています。
(ビジネスを上手にやるためには、
 やんわり、適当な、ほかの理由で断るという「うまいやりかた」もあることは、
 十分承知しています。)

以上のようなことを書くと、
「昔の板倉の情熱はどこへ行ったんだ!
 可能性が1%でもあれば、やればいいじゃないか!」
のような意見を頂く可能性があります。
しかし、成功確率5%だと思っている事業をコンサルすることは、
ほとんど「コンサル詐欺」だと思いますし、
それでもやると言うのなら、それは情熱ではなく、単なる無謀でしょう。

仮に成功確率が90%であると予測されたとしても、
それを現実にするためには、
情熱、勇気、知識、経験、努力が伴わなければならないのです。

何を隠そう、僕のような事業の失敗を、せっかく僕が経験したのだから、
その経験を伝えることによって、同じ失敗をして欲しく無いだけです。

成功確率が極めて低いビジネスはやる意味が無い・・・
そんなことを主張しているのではありません。
何らかの方法(=学ぶとか、聞くとか、試すとか)によって、
その確率を高められるのであれば、それをまず行うべきだと思うのです。

僕が言うのもなんですが、
事業失敗の直接的原因の多くは、資金繰りです。
しかし、失敗の本質的原因は、
事業開始当初に埋め込まれているものなのです。
その原因のほとんどは、「起業家自身」にあるのです。

参考エッセー:
ITAKURASTYLE「カレーとうんこ」
ITAKURASTYLE「思いやりのサンタクロース」

2007年8月3日 板倉雄一郎

PS:
当事務所セミナー卒業生による新規事業を、
当事務所がプロデュースする事業を行おうとしています。
きっと、それぞれの事業計画に対し、
かなり厳しい指摘をすることになると思います。
「ならプレゼンやめた」と思うような人は、そもそも起業家に向いていません。
事業開始前に、厳しい指摘を受けることの方が、
(その厳しい指摘を避けた結果)事業開始後に、厳しい目に遭うことより、
遥かに優しいことですから。

PS^2:
ちなみに、世にある「コンサル業」によるコンサル失敗の原因は、
「コンサルを受ける経営者が気持ちよくなるコンサル」
を選ぶことによります。
何せ、コンサル業者にとって、コンサル先は「お得意様」ですから。
参考エッセー:SMU第182号「ポジショントーク」





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