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ITAKURASTYLE「日本経済新聞より」

本日のエッセイは、本日(2008年2月27日)の日本経済新聞の記事から、気になる記事を「僕がどう読むか」という視点で書いてみたいと思います。

<スタグフレーション懸念>

以前にも書いたことですが、特に北米のスタグフレーションが懸念され始めました。
日本においても、「(原油や穀物をはじめとする)輸入インフレ」、および、「(内需の)経済成長の停滞」と、北米と同じような環境ですから、同様にスタグフレーション懸念が今後増大するでしょう。
スタグフレーションは、「収入が増えないのに、物価が上昇する」わけですから、マクロ経済における最悪の「デススパイラル」状態です。
金融政策においても、経済成長のために金利を低く誘導すべきですが、金利を低く誘導すればインフレ圧力になるわけですから、「にっちもさっちも行かない」わけです。
その苦しさを、先月、バーナンキFRB議長が、
「インフレ抑制と、経済成長のバランスの取れた金融政策を継続する」
などと表現しましたが、これ要するに、「(金利を上げるも下げるも)どっちにもできましぇん!」という意味です。

ではどうすればいいのか?

これ金融政策だけでは、どうにもならないわけです。
過去の多くの事例では、減税や公共事業投資など財政出動という「次世代への問題先送り」によってのみ解決を見てきたわけですが、言うまでも無く「一時的な対策」に過ぎず、根本的な解決にはなっていません。
日本のバブル崩壊後の経緯を見れば明らかなことですよね。

私たちの暮らす日本の場合、本質的な解決策は、
①輸出企業にがんばってもらう
②がんばって得られた利益と、
③法人税率を下げるによって国への配分を減らした分を、
④労働配分と投資家配分=つまり生活者への配分増加とする
⑤法人税率を下げた分、一部の人間への配分にしかならない無駄な公共事業を抑制する。
といった具体的な構造改革が必要なわけです。

とはいえ、以上のような対策が政治の力によって行われたとしても、食料価格や原材料価格は、どんどん上昇するでしょう。
なぜなら、中国やインドなど、極めて人口の多い国がその経済発展によって今より贅沢な暮らしをするようになるわけですから。
「そりゃ大変だぁ!」って思いますか?
「食料価格が上昇する」なんてまだ良いほうです。
食物輸出国の立場で見れば、
「どんなに高く買ってくれたとしても、自国の食料が不足するなら売らないよ」
ってことになってしまうからです。
そんな時、最も困るのは、私たちの暮らす日本です。
なにせ、食物持久率は、カロリーベースで4割を切っていますからね。
ちなみに、アメリカ、ドイツ、フランスなど先進国の食物自給率は100%を上回っています。
先進国中、日本ほど食物自給率の低い国はありません。
すべては、私たち消費者が、「安けりゃそれでいい」という行動をした結果です。
本当のところ、
株価の下落などを心配している場合ではないのです。
人口減少を心配している場合ではないのです。
国土という自然が許容する人口を維持することが最も大切なことなのだと思います。
今の日本は、その意味では人口が多すぎます。

人口を増やせ!
選挙の投票率を上げよう!
なんていう馬鹿げた短絡的な発想は、何の意味もありません。
人口は、上記の通り、その人口が暮らす自然が許容する範囲でしか増やすべきではありませんし、いくら投票率が上昇しても、メディアの論調を頼りに投票する有権者ばかりでは意味が無いのです。
私たち生活者が、自らが置かれた環境(政治、国際関係、経済、自然)について十分に理解し、自身の意見を持ち、言動する以外に根本的な解決策は無いのだと思います。

自分の懐だけの心配では、自分の懐さえ潤わないのです。

<企業と国家のデカップリング>

今、世界的に、
「国家は、生き残りのために、閉鎖的に成り、
 企業は、生き残りのために、取引を世界に拡大する」
という傾向が強くなってきています。
たとえば日本では、いわゆる「外資規制」が議論されるようになりましたし、一方日本企業(←定義は、その利害関係者の多くが日本で暮らす人間によって構成される企業)は、アジアを中心に事業を拡大しつつあります。
まさに、国家と企業のデカップリングが進行しているわけです。

<自己投資の勧め>

以上から、
益々、ある国の中央銀行による金融政策がその効力を失いつつあります。
益々、個々人が豊かな生活をするために、様々な「(知識増大のための)自己投資」を必要とされる時代になるのは間違いありません。
企業にも頼れない、国家にも頼れない、頼みになるのは自分自身。
間違いなく、その傾向が強くなるのです。

結局、国力とは、「人口」*「一人当たりの知性」です。

<一貫性の価値>

Yahoo!CEOのジェリーヤンは、はっきり言って「駄目経営者」です。
(もちろん、昔の「経営者がクズだ!」と主張した誰かさんと違い、僕は、クズ経営者の経営する企業には投資しませんから、当然Yahoo!の株主ではありません。)
ジェリーヤンが駄目経営者だという理由は、グーグルにぼろ負けしたこともさることながら、経営における言動に「一貫性」が無いことです。
MSによる買収提案の直前に、「うちの会社結構厳しいです」なんて発言したおかげで、株価が下落したのに、MSによる提案がされるや否や、一転、買収価格について、「安すぎる!」といったり(笑)
もうどうにもなりません。
MSでも、NEWSでもかまいませんから、同社株主をはじめとする同社の利害関係者のために、さっさと「買ってくれる金額で売れ」と思います。

「何があっても続ける」という一貫性は、全然一貫性ではなく、単なる「わがまま」です。
たとえば、ファンド運営を考えて見ましょう。
ファンド運営者のミッションは、「投資家の期待収益率を上回る利回りを得ること」です。
それこそが、運営上の理念です。

もし、投資家の期待収益率を上回る投資活動を継続できないとすれば、ファンド運営者は、運営者を交代するか(つまり辞職するか)、ファンドを解散して、資金を投資家に返還するべきなのです。
ファンドに限らず、一般的な企業でもこの考え方は同じです。
間違っても、「ただひたすら続けること」を一貫性というわけではありません。
投資家の期待収益率を遥かに下回る「国債」や「定期預金」などで余剰現金を運用する経営者は、バカです。
(ただし、近い将来の投資家の期待収益率を上回る投資対象に対する投資のための準備として現金を内部留保するのは、全然OKです。)

理念のレベルでの「一貫性」を維持するのは、結構大変なことです。
しかし、一貫性は、それを継続できれば、きっと報われ時が来ます。
しかし、一貫性を捨てれば、「その瞬間」は救われることもあるでしょうけれど、次がなくなってしまいます。
一貫性(=アイデンティティー)は、企業の場合も、個人の場合も、国家の場合も、その存在価値を裏付ける最も重要な理念だと思います。

<ヤマダ電機の財務オペレーション>

CBによる資金調達と、その資金を元手にした自社株買いのセットをやるそうです。
こういう機動的な財務オペレーションを実行する企業が、日本企業にも出てきたこと、嬉しく思います。
本日の日経にも掲載された記事ですが、ようやく「株主資本コスト」についての理解が、日本企業の経営者にも浸透し始めたということでしょう。

けどね、自社株買いが資本効率を向上させるためには、自社株買いを行う際、「明らかな割安」であることが必要条件です。
果たしたヤマダ電機の株価は、一株あたりの価値に対して本当に「割安」なのでしょうか?
詳しくバリュエーションしていませんので、わかりませんが、同社株主の大部分が、「今は大幅な割安だ」と思っているのであれば、極めて合理的なオペレーションです。
その判断は、同社の既存株主がすることですけどね。

<エヌピーシー>

17面に「エヌピーシー」社長のインタビューが載っています。
この会社、僕は「いけてる」と思います。
ただし、「どれほどいけてる企業でも、その価値に対して高い価格で買ってしまっては投資の意味がない」ということだけはしっかり書いておきますね。
でも、この会社、フェアバリュー以下で欲しいと思いました。
(まさか、社長のインタビューが新聞に掲載された日に買うことはありません(笑))

以上、本日は、日本経済新聞の記事をベースに、もろもろ書いてみました。
もし、以上の「僕の読み方」に価値を見出す読者の方がいらっしゃれば、是非、このエッセイと本日の日経新聞の該当記事を読み合わせいただければ幸いです。

2008年2月27日 板倉雄一郎

PS:
僕がずっと、ケチを付けてきた日本経済新聞ですが、このところだいぶ質が上がってきたと思います。
理由はわかりません。
(当事務所のセミナー受講生が日経の記者の中にも居るということも、一つの要因だと思いたいですけれど(笑))
特に、一面トップのシリーズ「働くニッポン」が、このところのお気に入りです。

PS^2:
そろそろ、成長力のある「日本の輸出企業」は、買いですね。
言うまでも無く、「北米のリセッション懸念、および、アジアなど新興国への販売の成長を織り込んだバリュエーションによる一株あたりの妥当な株価以下の場合」ですけどね。





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