板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「真っ当な株式投資を書いた理由③」

「戦って勝つ」ことと、
「戦わず勝つ」ことであれば、どちらが理想的でしょうか。
少なくとも僕は、
「戦わず(=誰かを積極的に毀損することなく)勝つ」方が合理的だと思います。

実は、僕自身、短期トレード「そのもの」を完全否定するつもりはありません。
しかし、
企業の「時間経過に伴う価値創造」を遥かに上回るリターンを、「企業への投資によって得る」ということは、すなわち、他の誰かから価値を奪ってきていることに他ならないわけです。
つまり、短期トレードによる収益は、常に「ゼロサム」の中で行われるということです。

ゼロサムにおける勝者は、市場における「戦い」の結果です。
この戦いの中で、常に勝つためには、
1、他の誰よりも必要な情報を得られる環境
2、情報を分析する知識を持ち、分析のための時間を十分に割ける環境
3、価値算定だけではなくマーケットメカニズムに精通していること
が必要になります。
つまり、プロであること、が求められるわけです。

これらに該当するのが、いわゆる機関投資家です。
ネットインフラの普及によって、投資に関する「情報格差」が飛躍的に少なくなったとはいえ、彼らの環境は、私達個人投資家の想像を遥かに超える「短期トレードには極めて有利な環境」です。
たとえば・・・
ある外資系投資銀行の腕利きトレーダー(←友人)の場合、
いわゆる「売買板(←売り買い注文のリスト)」は、私達個人投資家が普段目にしている「上下数パーセントの売買板」ではありません。
彼らは、彼らの所属する投資銀行の顧客からの売買注文すべての情報を持っていますから、パブリックな取引所が開示する売買板の範囲を超える価格帯の注文状況をリアルタイムで見ることができるわけです。

ある企業の株式に対する売買注文に、取引所が一般に公開する売買板の価格帯を越えるある株価で大量の買い注文が入っていたとします。
すると、その情報をリアルタイムに得ることができるトレーダーにとっては、「この大量注文があるから、株価はこの価格で下げ止まるだろう」なんてことが、私達以上に把握できるわけです。
もちろん、その情報は、その投資銀行の顧客の注文の範囲に限定されますが、それでも大口顧客を持つ投資銀行の場合、十分なマーケット情報として捉えることができます。
「短期トレードに有利な環境」の彼らと、私達個人投資家が、短期トレードという「彼らと同じ土俵」で、「同じ手法」で戦うことは、「無謀」としか言いようがありません。

しかし、私達個人投資家が、彼ら機関投資家に比べ有利になる「手法」での投資活動を行うことができれば、形勢は逆転する可能性があります。
いわゆる彼らの「弱点」を探すということですね。
(これらに関する考え方は、たとえば「孫子の兵法」や「ゲーム理論」などを学べば理解できると思います。)

さて、彼らの弱点とは一体なんでしょうか?










す。

彼らの弱点とは、「資金運用に期限がある」という点です。

何しろ「他人の資金」を運用しているわけですから、運用実績の評価は、一ヶ月とか、四半期とか、半期とか、長くても1年とか、そういう比較的短い期間で、彼らの「腕」が評価されます。
目をつけた企業の株価が、「価値 >>>> 価格」になるタイミングを、何ヶ月も、何年も待つことによって、顧客から預託された資金を寝かせておくことなど到底できないわけです。
運用が始まれば、たとえ相場が読めない状態でも、(売りにしろ買いにしろ)資金運用を開始しなければならないわけですし、期限が迫れば、「もうすこし待った方がいい」と判断される状況でも、反対売買によって利益確定を行わなければならないのです。
(↑ 厳密には、そうでない場合もありますが、話がややこしくなるので割愛します。)

彼らの以上のような「弱み」を理解すれば、彼らの弱みは一方で私達個人投資家にとって有利になります。
何しろ、私達個人投資家の資産運用に、彼らのような「短期の期限」はないのですから。
ただし、条件として・・・
1、生活に必要のない余裕資金で投資を行うこと
2、価値算定を行うために必要な「ある程度の」知識があること
3、短期の「評価損益」に翻弄されないこと=自分の価値算定に自信を持つこと
4、レバレッジを最小限にすること
4、そして何より「収益を急がないこと」
が必要になります。

「収益を急ぐ」ということは、すなわち彼らプロと「同じ土俵」で戦うことになってしまうわけですから、私達個人投資家が勝つ可能性は極めて小さくなってしまうわけです。
勝てる可能性が低い勝負を、積極的にやることは合理的ではありません。
勝てる可能性が高い「有利な手法」を選択することが「賢明」なのは、言うまでもありません。

「プロほどのリターンはあきらめろって言うのかぁ!」といった誤解が聞こえてきそうですが、そんな主張はしていません。
たとえば3年間という長期の「結果」は、短期トレードを3年間繰り返した結果のパフォーマンスより、価値に根ざした3年間の長期投資のほうが大きくなることは珍しくないのです。
その期間が、数十年ともなれば、価値に根ざした長期投資のほうが、遥かに安定的に高いパフォーマンスが得られるのです。
その象徴が、年率30%強の「平凡なパフォーマンス」を、50年以上という「非凡な長期」に渡って実現しているウォーレンバフェットです。

私達が、「真っ当な株式投資」として「価値に根ざした(結果的な)長期投資」をお勧めする理由は、以上からご理解いただける通り、「皆様のお財布」を心配しているからなのです。

以上のような投資手法は、投資家自身のリスクを小さくし、リターンを大きくするという「資産運用」の面だけではなく、「社会に対する議決権としてのお金」の正しい使い方にも通じます。
この点に関しては、次回、「真っ当な株式投資を書いた理由④」にて詳しく書きたいと思います。

2007年3月29日 板倉雄一郎

PS:
「真っ当な株式投資」に関する「誤解コメント」をさらに発見しました。

「経営者を評価するなんて事は、上場前からその経営者と個人的な関係を持っていなければ無理だ!」なんていう誤解です。
確かに経営者の「個人的な趣味」までは、有価証券報告書には書いてありません(笑)
しかし、私達が「株式投資」において必要な経営者の経営者としての手腕については、過去数期分の有価証券報告書を読み込むことによって把握することが可能です。

「スージ」は、確かに「スージ」でしかありません。
しかし、その「スージ」は、企業という「人の営みの結果」なのです。
その「スージ」の経年変化から「人の営み」を分析できる知識があれば、経営者との個人的な関係が無くても、「スージ」から経営手腕を読み取ることは「十分に可能」です。

「投資に必要な情報は、年次報告書(←日本では有価証券報告書)を読み込むことによって、十分に得られる」
Words by Warren E Buffett.

それにしても公の場でのコメントを書く上では、せめて該当する書籍の「すべての文章」を読んでからにしていただきたいです。
民主主義国家の元では、「発言は自由」ですが、発言が自由であることの裏に「発言に対する責任」が付随することを、忘れてしまっている方が多すぎます。

PS^2:
4月12日の日経CNBCのお昼の番組(12:00~)に、
「真っ当な株式投資」に関することで生出演の予定です。
ご興味のある方で、日経CNBCをご覧いただける環境にある方は、是非。

そういえば、昨日も日テレの「ニュースリアルタイム」のコメンテーターとして生出演していました。
なんというか、僕の専門とは全然関係ない出演だったので、この場では出演に関する情報開示を差し控えました。
観ちゃった方、忘れてください(笑)





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