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ITAKURASTYLE「ポスト(アメリカ流)資本主義」

経済産業事務次官北畑隆生氏の表現に関して、様々な議論がされているようです。
北畑隆生氏の発言全文は、こちら

この議論を最初に知ったときには、僕に教えていただいた方による「(北畑氏の発言の)部分の切り抜き」だったので・・・

「こんなトンチンカンな人が、経済産業省の事務次官なのかよ!」

と思ったりしましたが、彼の発言のすべてを読んだ上では・・・

「真っ当な株式投資」板倉雄一郎事務所著(日経BP社)
の主張と多くの部分で共通点がある、でした。

この主張の最も大切な部分は・・・
「お金そのものが無かった過去の時代とは違い、現在は、実体経済規模を遥かに上回るいわゆる投機マネーの存在があり、下手をすれば企業の存続が危ぶまれる。」
という「前提」です。
つまり、「会社は株主のもの!」ということがすんなり受け入れられた時代は確かにあったが、その時代に構築されたコーポレートガバナンスが、金融が発達した現代において十分に機能しないか、または、企業そのものの永続性を排除してしまうリスクがあるのではないか、という主張だと理解しました。

僕は、概ね彼の意見に賛成です。
(ブルドックソースに関する彼の意見については、異論があります。)

一方、この意見に真っ向から異を唱える「証券会社のトップ」の方がいらっしゃいます。
この方の意見は、まあ、要するに、「ポジショントーク」ですね(笑)

ポスト(アメリカ流)資本主義・・・これ、私たちが真剣に考えなければならない時代になったのだと思います。
僕の意見は、「真っ当な株式投資」に概ね記述しましたので、参考にしていただければと思いますが、多くの市場参加者が、現在の金融市場や経済環境に即した「企業とは?議論」を行うことは、非常に価値あることだと思います。

この議論を見ていて思ったことは・・・

(1)マスコミによる「発言の一部の切り抜き」を頼りにした議論には価値が無い。
マスコミに価値が無いという意味ではありません。
マスコミという性格上、すべての記事に関してすべての情報を載せることは不可能ですから、マスコミの「受け手」であるところの私たちが、マスコミをあくまで「インデックス」と理解することが大切だと思います。
その上で、せっかく「情報ソース」にアクセスすることができるネット社会なのですから、情報ソースをしっかり読み解き、その上で意見をする姿勢が必要なのだと思います。
(実際、「真っ当な株式投資」についても、明らかに文章を読んでいない方々からの批判をたくさんいただいたことがあります。)

(2)すべての発言、意見は、ポジショントークであるという認識を持つ。
これは非常に大切なことだと思います。
ポジショントークが「悪だ」と言っているわけではありません。
表現者の背景について認識した上で、その方の表現を読み解かなければ真意が掴めないわけです。
表現は、常に、表現者のポジションと「セットで」解釈する必要があります。

(だらら僕は、いわゆる「匿名掲示板」を読みません。
たとえば、「大好きです!」という言葉があったとします。
この言葉を発した人間が、「とんでもなく僕好みの女性」からの発言である場合と、「死んでも関わりあいたく無い人」からの発言である場合では、言葉は全く同じでも、印象は全く違いますからね(笑))


いずれにしても、アメリカ流資本主義は、その曲がり角に差し掛かっているのだと思います。
今、いわゆる日本企業(←定義は、その利害関係者の大部分が日本で暮らす人で、その法人が日本国に税を納める企業)が、「外国人に買収されるのではないか!」という危機感を持つ人が増えています。
もし、この国で暮らす人の大部分が、本当にそれを現実的に捉え、「危機である」と感じるならば・・・
(1)外資規制などの法制度に頼る方法
(2)法制度を変えずに議決権の行使に頼る方法
の大きく分けて二通りの解決策が考えられるわけですが、
(1)は即効力がある反面、ある程度投資家の自由が抑制されてしまいます。
(2)は、この国に1400兆円!といわれる「運用されていないお金」があるわけですから、長期的には不可能とはいえませんが、投資家教育などの時間がかかるため即効力はありません。
もちろん僕は、(2)の方法が望ましいと思います。

何度も書いていることですが、私たちの暮らす日本は、生きていくための資源(←エネルギー、食料など)の大部分を海外に依存しています。
それらの資源を「買ってくるためのお金」は、主に「企業」が、自動車、プラント、家電製品などを海外に販売することによって得られています。
このような「視点(←ポジションともいえます)」で意見をする方と、ある特定の企業の視点での意見を同列に扱い、「どっちに賛成!」といった議論は避けたいですね。
どちらが「偉い」とかいう問題ではなく、それぞれのレイヤー毎の議論が必要なのだと思います。
その意味で、北畑氏の発言に真っ向から異を唱える方の意見は、いささか議論の範囲が狭いように感じます。
北畑氏の意見は、「今のアメリカ流資本主義で本当によいのか」という根っこの議論であるのに対し、北畑氏の意見に真っ向から異を唱える方の意見は、「アメリカ流資本主義を是とした上での特定企業の利害についての意見」です。
そもそも、この異を唱える方が、本心を言っているかどうかさえ怪しいですけどね。

(経営する自社の利害を考えるならば、敢えて何も反論しないほうが良かったのではないかとさえ思います。)


ポスト資本主義・・・これは、一部の人が作る「ルール」によって成立するのではなく、あらゆる企業のあらゆる利害関係者の「言動」によって作られる文化であるべきだと思います。
一概に、「すべて開放!改革改革!」でよいわけではありませんし、だからと言って、「規制をどんどん作ればいい!」ってわけでもないわけです。
結局、すべてはバランスですから。


最後に、北畑氏の意見に最も賛同できる点について書きたいと思います・・・

一つは、
「アメリカのエクセレントカンパニーといわれる企業は、むしろ日本的経営」
という主張です。

同感です。
つまり、「ルール」そのものの弊害というより、ルールを「人間が」どう生かすかという点が重要なのだと思います。

もう一つは・・・

彼の表現には、英米など「彼らも外資規制はしっかりしているんだよ」という部分があります。
僕は、この表現を読んでいて、
「あいつらずるいよ。自分たちはしっかり守る一方で、こちらには自由化を迫るんだぜ」
という想いを感じました。

こちらにも同感です。


金融システムは本来、お金が余っているところから、事業や生活のためにお金を必要としているところへ「資」金を「融」通する役割を担っているはずです。
なのに、今は、金融それ自身の儲けのためだけに活動していると思います。
(金融機関は儲けるべきではない、と言っているわけではありません。)
本末転倒ではないでしょうか。

2008年2月13日 板倉雄一郎

PS:
結局、
国力=「人口*平均的知性」
なのだと思います。
社会で生きて行く上で、実質的に必要な教育が最も大切なのだと思います。

だって、「日本国」を考える議論と、「デイトレの何がいけないんだ!」という主張が、同じ土俵で議論されているなんて、主義主張の遥か前に、文章読解力という基礎的な知性の問題だと思いますから。

それにしても、デイトレーダーの方々(または、彼らを顧客とした収益が大半を占める企業)は、その振る舞いを否定されると、極めて敏感に「自分に都合の良い(=自分の行動を正当化する)意見」をする傾向にありますよね。
それって、要するに・・・・・・・・止めとこ(笑)

PS^2:
この時期、バフェット氏の金融市場における存在感が増していますよね。
ちなみに、ITAKURASTYLE 「バフェット&ゲイツ」にて記述した番組が再放送されます。
2月15日(金曜日)午前10:10?11:00 NHK-BS1





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