板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「下げ相場は絶好の投資機会?」

表題のような取材依頼をいただく機会が少しだけ増えました。
結論から書けば、「なんともいえない」です。

このサイトの読者であれば、もうお分かりかと思いますが、「相場全体が上げている/下げている」ということと、個別企業の株主価値が時価総額(価格)に対して高いか安いかということは、基本的に無関係であると思ったほうが賢明です。

ある個別企業の将来業績予測は、予測を行う時点での情報を頼りにします。
仮に、2007年7月時点(←サブプライムローン問題が顕在化する直前)において、ある企業の企業価値評価を行った結果、一株辺り株主価値が1000円前後だったとしましょう。
その上、この時点での評価では、「特別な外部要因が無ければ」、この企業の株主価値が「時間経過と共に増大する(←ファイナンス的には、「投下資本利益率>資本コスト」の状態がしばらく継続する)と分析できたとしましょう。
このときの株価が700円だとすれば、割と「買い」な状態ですね。

しかし、
その後、現在、メディアで伝えられているように、日本企業の業績見通しは、
(1)原油価格高騰
(2)米国経済のリセッション懸念
(3)為替変動リスクの増大(対米ドル円高&対アジア・ユーロ円安)
(4)政治的混乱
などが重なり、楽観的な見通しができない状況になりました。
これらの新しい情報を頼りに、再度(以前より悲観的な)企業価値評価を行った結果、一株辺りの株主価値が800円前後になったとしましょう。
当初の予測がはずれ、特別な外部要因によって株主価値が下落したわけです。
このとき、この企業の株価も相場全体に押され、大幅に値下がりし、600円になっていたとしたらどうでしょう。
「価値:800円 > 株価:600円」ですから、この場合「買い」です。
もし、2007年7月時点でこの企業に投資し、現在まで保有していたとすれば、当初の予定通りの投資利回りを得ることができませんでしたが、慌てて損切りする合理性はありません。
むしろ、資金的に余裕があれば、「買い増し」するのが賢明でしょう。

一方で、悲観的な情報を元に再評価した結果が、一株辺りの株主価値:500円。株価が「大幅に下落した結果」600円だったらどうでしょう。
「価値:500円 < 株価:600円」ですから、この場合は「少なくとも買いではない」といえます。
株価が大幅に値下がりしたから、「買いなのだ!」とはいえないことがお分かりいただけると思います。
この場合、損切りする意思決定も必要かもしれませんし、この企業が時間経過と共に株主価値を増大させうるとすれば、長期保有の意思決定をすることもあながち否定できません。
実際の売買意思決定は、個人投資家それぞれの投資スタンスに依存しますので、「こうしろ!ああしろ!」というつもりは全くありません。
しかし、以上でお分かりいただけることは、相場がどうであれ、個別企業の企業価値評価を行うことによって、売買における意思決定の「判断材料」を得ることができるということです。
これは、非常に重要なことです。

つまるところ、「相場全体の動向」は、ある程度参考にはなりますが、個別企業への投資を前提にした場合、個別企業の企業価値評価を行い、当該企業の「価値と価格」の比較が常に必要であり、常に売買判断基準になるというわけです。

実際、上記の悲観的な情報を基にしても、
(1)もっと株価が下がって当然じゃないの?
(↑ 株価下落以上に一株辺り株主価値が下落しているであろう)
(2)株価が下がりすぎじゃないの?
(↑ 一株辺り株主価値の下落以上に株価が下げているであろう)
のどちらも存在します。

相場全体が上げていても、投資チャンスを見つけることができますし、相場全体が下げていても、投資チャンスを見つけることができない場合もあるわけです。
個別企業への投資を前提にすれば、相場全体の動きは(投資タイミングの参考にすることはできても)、基本的に無関係だと思ったほうが賢明だということです。

以上、皆さんの投資活動の参考になれば幸いです。

2008年1月8日 板倉雄一郎

PS:
サーバー障害によって、年末年始の気分は最悪でした。
どこにも出かけず、かといって、サーバー復旧の「作業そのもの」を僕が行うわけではありませんから、特別忙しいわけでもなく、ただただ悶々としていた年末年始でした。
で、悶々とした結果は、
「これまで同様、活動理念に従って、コツコツやっていこう!」でした。
これに懲りずに、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

PS^2:
今週末開催の「実践・企業価値評価シリーズ第28回合宿セミナー」の受講者募集は、明日1月9日まで継続します。
第29回の開催については、現時点では予定しておりません。
おそらく春以降になると思います。
セミナーの知識を、投資、経営そして普段の業務に生かしたいと思われる方は、是非この機会にお申し込みください。
こちらにて詳細をお読みいただき、お申し込みください。
よろしくお願いいたします。

PS^3:
年末にお寄せいただいた「書いて欲しい事」についてのエッセイは、明日以降執筆いたします。





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