板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「世界は一つ」

<農薬餃子から見る世界>

中国産冷凍餃子に農薬が混入されたことが原因と見られる薬物中毒事件が報道されています。
現時点では、どの段階で薬物が入り込んだのか調査しきれていないようですが、おそらく原因が究明できた次の段階では・・・
(1)原因が製品加工の上流にあるとすれば、製品段階でどこまでその被害が及ぶかわからない。
(2)(1)と消費者や食品業界が認識するので、被害が及んでいない冷凍食品も含めて買い控えが予測される。
(3)食品加工業者⇒輸入業者⇒流通業者⇒販売業者と経済損失が波及する可能性がある。
などの悪い予測が成り立ちます。

ところで、この「負の連鎖」、何かにそっくりだと思いませんか。

そうです、いわゆる「サブプライムローン問題」にそっくりですよね。

「複数の債券をセットにした証券流通」=
「複数の原材料を使った加工食品」
よって、
「少しでも経済価値が下落する債券が含まれていれば売られる」=
「原材料の段階で異物が混入されている食品は捨てられる」

<グローバリズム>

つまるところ、世界が「(可能な限り早い)足元の儲け」を追求した結果、
(1)「モノ」より「権利」の流通が経済的に大きな価値を持ち
(2)次第に「モノの権利化」が進み、
(3)権利の流通が支障をきたせば、モノにもその影響が及ぶ
を繰り返しながら、様々なモノやサービスや権利が複雑に入り乱れ、それが権利上の話であれ、モノそのものの話であれ、一つの悪材料が果てしなく波及する世界を作り上げ、それを「グローバリズム」と呼ぶようになったのだと思います。

<グローバリズムと平和>

世界の経済が密接に相互依存をすること(=一国が独立した経済を持たないこと)が、世界平和に繋がるとする意見があります。
確かに、一つの国の利害が広く世界中に依存するのであれば、一つの国「わがまま」で戦争を起こしてしまうと、回りまわって戦争を起こした国にも悪い影響が及ぶわけですから、グローバリズムは一見(←というか平時では)平和に貢献しているのだろうと思います。
しかし、複雑に入り組んだ世界は、毒入り餃子の例でも、サブプライムローン問題でもわかるとおり、原因は「限定的な範囲」であったとしても、その「波及」が世界に及ぶという「スパイラル構造」を作り上げてしまったのではないかと思います。

たとえば中国で異常気象が発生していますが、それは農作物にも影響を与える可能性もあるわけです。
中国で、食料の問題が起きれば、輸出している場合ではなくなりますから、世界からの輸入に頼ります。
すると食物の大部分を輸入に頼る日本では、更なる原材料高に見舞われ、国内経済の下振れ圧力となるわけですから、食料一つとっても「対岸の火事」という考えはありえないわけです。

<リスク分散の価値>

以前にも書きましたが、サブプライムローンの証券化によるリスクの世界へのばら撒きは、一つの見方として、「リスクを広く世界に分散させるわけだから実体経済に及ぼす影響が小さく抑えられる」はずですが、現実には、「原因部分の経済損失以上の損失が世界に広がる」という結果になっています。
リスク分散は、古典的には「リスクを抑える効果」であるはずですが、現実にはリスク分散が、「リスクのレバレッジ」になってしまっているのだと思います。

<ワインの樽>

「ワインで満たされた樽に、たった一さじの汚水を入れたら、汚水の樽になるが、汚水で満たされた樽に、ボトル一本分のワインを入れても、汚水の樽。」

世界は、グローバリズムの名の下に、「ワインの樽(もしかしたら汚水の樽)」に成ってしまっているのではないでしょうか。
しかしながら、ワインと経済を動かす「人」は、「それ自体に意思や希望がある」という点において、大きく違います。
生命で満たされた海の浄化作用のように、世界経済も生命に満ち溢れているわけですから、なんとか「足元の儲けより未来」という風潮になりえるのだと思います。

<デカップリング論>

この言葉を聴いたとき、僕はてっきり、「国と企業のデカップリング」の話だと思いました(笑)。
つまり、領土や民族というボーダーのある「国」という単位と、世界のどこへでも出かけて取引を行える企業の間は、これまでより「相関性が小さくなっている」という話だと思ったわけです。
だとすれば、「あり」なのだと思いますが、ここまで書いてきた「世界連鎖」を考慮すれば、「一つの国の政策が、(これまで以上に)すべての国、すべての企業に影響を与える」のだと思います。
結局、「デカップリング」なる言葉は、上海をはじめとするアジアマーケットとニューヨークの「非連動性」を表現した言葉だと知って、唖然としました。
そんなこと、あるわけ無いんですよ。
良くも悪くも、現実として世界は一つですからね。

<世界は一つならば>

結局、結論はいつもの通り、「個別企業」になってしまうのです(笑)
だって、その経済が割りと一体化している「日本」という国の単位でも、個別企業の業績、そして企業価値は、様々ですから、世界が一つであったとしても、やはり個別企業の業績や企業価値は様々なのだと思います。
もちろん短期の相場は、そんなこと無視して、「全体の上げ/下げ」で忙しいですが、大波が去ったときには、くっきりと個別企業の明暗が分かれているのだと思います。
(少なくとも僕の経験では、そうなっています。)

<個別企業の割高/割安>

しつこいようですが、この期に及んで、「どう考えても割高」という企業は、いくつもあります。
一方で、「いくらなんでも安すぎでしょ!」という企業も、いくつもあります。
相場の乱高下を経る中で、これらの選別が行われるわけです。
個別企業への投資を考えるなら、市場「全体」の上げ下げを見ながら、個別企業への投資タイミングを計ろうとする行為は、手放しで合理的とはいえないですよね。

<米国経済見通し>

そもそも、世界の消費大国北米の消費者の資金源が、住宅価格上昇を根拠とした住宅担保ローンによる資金調達であり、そのスパイラルがサブプライムローン問題をきっかけに崩壊したとするならば、利下げをいくらやったところで、本質的な解決にはならないと思います。
金利を下げれば、あらゆる企業や個人の資金調達コストは確かに小さくなりますから、「一般的には」お金を調達しやすくなるわけです。
しかし、そもそも、「(借りた金を)返せるわけが無い人」への乱暴な融資が問題の本質だとすれば、いくら資金調達コストが平均的に下がったところで、「返せない人には貸さない」わけですからね。

だからと言って、利下げが「全く効果が無い」と言っているわけではありません。
根本的な対策にはならないだろう、という意味です。
だって、お金をばら撒いたことが、サブプライムローン問題に繋がったわけですから、その対策がさらなるお金ばら撒きだとすれば、単なる問題先送りですよね。

もし利下げだけで「すべて解決!」な状態に(一時的に)見えたとしたら、それは米国における格差がさらに広がったと理解すべきだと思います。
だって、そもそもお金が必要でない人がもっと安く調達できる結果、様々な物価が上昇する一方で、生きるためにお金が必要な人に対する貸し手は居ないし物価は高い、ってことになるわけですから。
日本でも同様の自体は十分起こりえますけれど。

<源流対策>

「じゃあどうすればいいのか」って?
僕は、マクロ経済の専門家ではありませんが、僕なりの解決策は、「火種に直接特効薬」なのだと思います。
金利引き下げのような「経済全体への対策」が、火種の火消しより先行してしまっているように思います。
まずは、火種(←金融機関)に対する米国政府による直接的な対策が必要なのだろうと思います。
火種に対する直接的な対策が施されていないことに、ミスターマーケットは不機嫌になっているのだと思います。

そんな考えを肯定すれば、「いつが(株価全体の)底なのか」は、自ずと答えが出るのではないかと思います。
個別企業への投資タイミングの参考になりえるでしょう。


世界は一つです。
個別企業への投資において、これまで以上に世界のトレンドに注目する必要があります。
しかし一方で、個別企業の業績予測は、世界のトレンドを参考にしつつ、個別企業の業績は個別企業の視点で行うべきなのだと思います。

(わかりにくいですか???
具体的に書いてみると・・・
たとえば、北米の経済がリセッションして、自動車販売が落ち込んでいくとしましょう。
このような見通しの場合、自動車関連株が総じて売られるわけです。
自動車産業「曇りのち雨」と、自動車産業「全体」に対する予測は成り立ちます。
しかし、ある個別の自動車会社が独自の商品によって、市場占有率を伸ばすことが予測されたらどうでしょう。
自動車市場全体が、10%下落したとしても、この個別企業がその市場占有率を20%増やしたとすれば、この個別企業の企業価値は増大することになります。
(↑ わかりやすさのために極端な数字を使っています)
それが長期に渡って続くと予測すれば、この個別企業は、衰退産業の中でも、未来に向かって十分な成長力があるといえる場合もあるわけです。
お分かりいただければ幸いです。)

<経済の難しさ>

経済の最も難しいところは、
(1)実験ができない
(2)因果が、果因でもあり、常に条件循環している
だと思います。

為替が原因で株価が動くのか、企業活動(たとえば輸出企業が国内での支払いのために円転するなど)が原因で為替が動くのか、それとも単なる投機の結果が為替に与える影響が長期に渡って強いのか、その投機は結局企業業績を根拠に行われている場合もあるかもしれない・・・(笑・永遠にループし続ける)
「一方通行」で考えることができないことが、経済の難しさであり、興味深さでもあります。

本日のオープニングベルというテレビ東京の番組で、そのコメンテーターが、「株価と債券価格の逆相関」について、
「債券相場があって(←それが原因で)株価が動くと考えればよい」
などと発言していました。
こんなことを、マスメディアで平気で言える人が羨ましいです(笑)

経済は、金融商品でも相互依存であり、国と国の取引においても相互依存であり、企業と企業の取引においても相互依存です。
もし、「どこかに基準点を設ける」とするならば、個別企業という視点しかないと僕は思います。

2008年1月31日 板倉雄一郎

PS:
経済を理解すれば理解するほど、「どうなるかわからない」という予測の確信が深まる。
変な話ですけれど、本当にそうなんですよ。
だからこそ、2007年からの実践・企業価値評価シリーズ合宿セミナーのカリキュラムも、「一株あたりの妥当な価格(=理論株価)の算出による割安/割高の判断」という、投資や経営における「補助的な知識」より、「過去に合理的なオペレーションを行って来たのか否か」の判断、そして、「今、どんな投資を行っているのかの分析」に関する知識に重きを置くことにしたわけです。
結局、株式投資とは、「誰にお金を委ねるか」ということを、預金やファンドなどの中間媒体を超えて直接的に行うことですから、合理的な経営を行ってきたかどうかという視点は非常に重要なのです。
とはいえ、理論株価がどうでもよい!ってことではありません。
3月開催分は、まだすごーーーーく空いています(笑)から、是非この機会にお申し込みください。
よろしくです!

PS^2:
この国ニッポンほど、「世界は一つ」を実感できる国は他に無いと思います。
(今の人口が)生きるためには、あらゆる資源を世界各国から調達し、あらゆる商品を世界各国に販売して外貨を稼ぎ、その外貨であらゆる資源を世界から・・・と続く(笑)
その上、少なくとも現在では経済大国なニッポンは、「世界を考える国家」としての環境が整っていると思うのです。

ダボス会議にて、へたくそな演説を行った福田首相に対する評価を積極的に高くすれば、「ニッポンの省エネ技術を世界に提供することを通じて地球温暖化対策に貢献する」と表現したことは、すばらしいと思いました。

ニッポンは、生まれながらにして、世界を考えなければならない立場なのだと思います。
違いますかねぇ? 言いすぎですかねぇ?
その答えは、一人ひとりの言動が創りだすのだとおもいます。

PS^3:
「downside risk」これ、今年の流行語になりそうですね。





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