板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  ITAKURASTYLE  > ITAKURASTYLE「おーい!日本経済新聞さんよぉー!」

ITAKURASTYLE「おーい!日本経済新聞さんよぉー!」

あーもー、疲れる。
これだから、最近、新聞も、テレビも、雑誌も見ないようにしているの。
あちらこちらでインチキ情報が出回っているのを観るたびにストレスたまるし(笑)

本日(2006年3月7日)の日本経済新聞朝刊第11面左上に、
「ソフトバンク株、買収報道で反発~収益拡大を期待」という記事があります。
タイトルはどうでもええ。
本文中に、以下の記述があります・・・

「買収価格を2兆円として、ボーダフォンが日本で前期に計上した一千億円を超える営業利益を今後とも稼ぎ続けると仮定した場合、買収資金の回収には約7年近くかかる計算だ」

はぁ・・・・・(←激しく呆れて、激しく疲れた感じね)

そもそも「(お金の時間価値を無視した)回収」という言葉の定義が僕には良くわかりません。
100歩譲って、「回収」の定義(←そんなものこの世の中にないんだけどね)を、「投下資本/営業利益」としましょう。つまり、お金の時間価値を無視し、ベタ計算(←良く保険商品の損得計算で消費者が騙されるパターンね)で計算しても、投下資本2兆円に対して、1千億円+αの利益で、どうやれば7年で回収できるの?

はぁ??????????????

では、1000歩譲って・・・
1、キャッシュ出入の時間価値を全く無視して(←これだけで十分無意味な記事)
2、資本調達コスト(有利子負債の金利)を無視して(←これでノックアウト)
3、営業利益に税が全くかからないとして(←確かにソフトバンクは赤字だけど)
4、「回収」の定義を、投下資本と同等の利益を生み出す期間というベタ計算
の場合でも(つーか、こんな計算全く何の価値もないですが)、
回収まで、20年近く(=2兆円/1000億円+α)かかるわけだよね。

で、10000歩譲って、この記者が、2兆円と1兆円を間違っていたとして、
営業利益が1400億円だった場合で、且つ税を完全に無視すれば、
確かに7年で「回収(爆笑)」しますね。
しつこいようですが、ファイナンス用語に「(時間価値を無視した)回収」なんて概念はありませんからね。

あのね、以下のように書くべきなの・・・

「買収価格を2兆円として、ボーダフォンが日本で前期に計上した一千億円を超える営業利益を今後とも稼ぎ続けると仮定し(←ここまでは見解ではなく定義なのでそのまま使います)、一方、投下資本に対する利益は、「みなし税引き後営業利益」でおよそ800億円(税率40%とした場合)、よって投下資本利益率は、わずかに4%(=800億円/2兆円)。
一方、必要資金のすべてを有利子負債で調達した場合、ソフトバンクの格付け(トリプルB以下)および自己資本比率から考えて、その資本コストは、およそ6%前後と推測される。
以上から、買収したボーダフォンとソフトバンクグループの他のサービスや商品とのシナジーによって、投下資本に対する利益率が最低でも3%以上(=額にして毎年600億円以上)「付加」されなければ、ソフトバンクは企業価値破壊を起こし、その負担は同社の株主が株主価値の破壊(≒時価総額の下落)によって取らされることになる。
また、既に有利子負債による資本レバレッジの非常に高いソフトバンクが、更なる有利子負債による資金調達を行うことによって、自己資本比率は劇的に低下し、格付けはさらに低下し、投資適格から除外され、その後の資金調達コストは、株式であれ、有利子負債であれ今以上に高くなる可能性は十分にある。」
(以上の「御手本」(笑)は、資本コストの内、コストの比較的安い有利子負債「だけ」を考慮し、ボーダフォン事業を有利子負債100%による仮想企業として書きました。つまり、この内容でさえ、ソフトバンクには有利に書いています。またシナジーを得るためには、別途それなりのコストが必要となります。)

NPV(=Net Present Value)の考え方ぐらい、社則で教えたらどうだい?
日本経済新聞社の記者に対する、
「株式投資はしてはいけません」という社則は、
インサイダーになる恐れがあるから、わかるよ。
だったら、その「経験不足の分」、しっかり教育しなくちゃ、
迷惑するのは読者だよ。
(その前に、算数教えたほうがいいカモね)

この記事書いた記者、そしてこの記事に対する責任のあるデスクは、
まさか、僕らの「新聞代」から給料なんてもらってないんだろうね。
まさか、学生のインターンかなんかが書いたんだろうね!
(いや、これじゃ学生に失礼だな・・・)

「人を育てるための投資を怠る企業は、いずれ消滅します。
 自分自身を育てるための投資を行わない人は、幸せにはなれません。」

2006年3月7日 板倉雄一郎

PS:
この新聞、日本を代表する経済紙なんだよね・・・
この新聞をいじめるためではなく、読者への「ワクチン」として、僕がこの新聞の記事を読んで指摘しようと思えば、冗談抜きで一日で最低5箇所以上のトンチンカン記事と、最低10箇所以上の情報不足記事を見つけることが出来ます。

PS^2:
よほど、「税効果」まで考慮した「深い記事」なのかと思ってエクセルで計算してしまった僕の時間をどうしてくれるの!
そうでなくても、単行本の原稿がたまっているっつーのに!

税効果まで計算できる人が「回収」なんて意味不明な言葉を使うわけありませんから、本当はエクセルなんて使ってません。(笑)

PS^3:
その上、ソフトバンクの常套手段「低価格で新規参入」を加味すると、少なくとも買収初期の(ボーダフォン部門の)投下資本利益率は、上記よりさらに小さくなるのね。
でも・・・有利子負債を提供する金融機関にとっては、
「Too Big to Fail」だからね・・・おらしらね。

PS^4:
北尾さんが逃げたくなる気持ち、すんごく良くわかる今日この頃。

PS^5:
「嘘の上塗り」は、永遠に続けなければね(笑)

PS^6:
ってか、そもそも、こんな有利子負債調達、できんの?(笑)
カネ、ジャブジャブ余っちゃってるから、できるのかなぁ・・・・・・

PS^7:
てか、実は日経がアホで、元情報そのものが間違ってんじゃないの?

しかし、「日本経済新聞」より、「板倉雄一郎事務所」の方が、
「情報に対する信憑性に、神経を使うって」おもろくない?
先日書いたように、今回の買収騒動を分析するためには、まだ情報が足りないですからね。





エッセイカテゴリ

ITAKURASTYLEインデックス