板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「リクエストに答えて(2)サブプライムローン問題」

既に「流行語(?)」に成りつつある米国サブプライムローン問題ですが、これに関する読者からのリクエストが多かったので、僕の評価について簡単に書かせていただきます。
サブプライムローンとは、要するにクレダビリティー(←経済的信用)の比較的低い方々への貸付(←当然ながら金利は高い)のことですし、また、サブプライムローン「問題」とは、要するに、その貸付を受けている方々のデフォルト(←返済不能)が、立て続けに発生し、一部の債権者の経済的破綻が発生し、報道されたことによって、「他にもババを引いている人がたくさん居るのではないか」とか、「もっともっとデフォルトが起こるのではないか」とかいった不安が市場に広がり、結果として「信用収縮」が起こり「始めている」と市場全体が評価し、信用収縮が「ある程度」加速する「のではないか」という問題ですよね。
(↑非常にややこしい表現ですいません。)
この問題の原因を、金融システム上に見つければ、いわゆる「証券化」という経済価値の流動化が発達したことによって、「リスクが分散される」という一見投資家には都合が良い解釈もできますが、同時に「だれがリスクを取っているかわからない」=「どこまで経済的損失が広がるかわからない」という信用収縮の原因にもなっています。
信用創造によって拡大した経済は、常に信用収縮のリスクを抱えている・・・つまり「お金ジャブジャブ」が本質的な原因なのだと思います。
既に明らかになっている範囲のデフォルトのボリュームは、いろいろ言われていますが、(この件に限定した金額は)多く見積もって、十数兆円らしいです。
十数兆円・・・このボリュームって、米国経済の規模から考えて、そんなに大きなボリュームでしょうか?
決して小さいボリュームだとは思いませんが、米国経済が大混乱に陥ってしまうほどのボリュームだとは、少なくとも僕は思いません。
サブプライムローンそのものの影響は、メディアで言われているほどではないと思いますが、サブプライムローンに「象徴される」米国経済の、
(1)(企業も個人も日本と比較した場合の)借金漬け
(2)経済的実態とかけ離れたレバレッジによる経済活動
((1)と(2)は基本的に同じ意味ですが)
による弊害が、「いよいよ表面化してきたのではないか」という金融市場の不安が信用収縮の本質的な問題だと思います。
その意味では、信用が経済を支える最も重要な要素であるわけですから、金融市場の不安による信用収縮がどこかで止まらなければ、由々しき事態に成り得る可能性は否定できません。
しかしながら、「米国経済は極めて歪だ!」とかいう評価は、実は20年も前から言われていることですし、また、ドルが売られることによって結果的に円高傾向になっていますが、日本の財政も米国以上に極めて歪だということをしっかり評価すれば、「米国経済だけが特にヤバイということではない」といえると思います。
つまり、マクロ経済を分析し、「どっちに転ぶか」を予測したところで、つまるところ「どっちに転ぶかわからない」という結論が、最も合理的だと思うわけです。
少なくとも僕には、正直なところ、「どっちに転ぶかわかりません」。
ではどうするか・・・
少なくとも資産運用の観点からは、マクロ経済を無視することはできませんが、やはり一つ一つの企業の価値(=バリュードライバー、経営者の手腕、商品マーケットでのプレゼンスなど)を評価し、「割と悲観的な将来業績予測に基づいた価値算定」より安い株価のときに投資を実行するという行為が最も合理的な方法だと思います。
(資本マーケットの大部分が、以上のように捉えれば、株価は大暴落することになってしまいますが(笑))
そのひとつの具体的方法が、先日のエッセイ「新興国への投資」に書いたような「真っ当な経営を行っている日本の輸出企業」だと思いますし、またごく最近の例では、(日本企業ではありませんが)Google(←僕の会社(笑))がそれにあたると思います。
10月19日の米国市場は、ダウ平均で370ドルも下げました。
その下げ相場の中でも、(同社の四半期決算の数字が、市場予測を上回ったことによって)Googleの株価は1%ほど上昇しました。
言うまでも無くGoogleは、世界に活動拠点があり、世界にマーケットを持っています。
現在では、同社の売り上げの大部分は米国内の売り上げが占めていますが、今後、日本やヨーロッパ、そして新興国をはじめとする米国以外の売り上げも伸びてゆくでしょう。
たとえ、その個別企業が本拠地を置く国の経済が、ある部分で失速したとしても、その個別企業の業績予測によっては、(一時的に下げ相場に引っ張られる可能性はあっても)、中長期的にはしっかり持ち直すものです。
個別企業が経済全体の一部である以上、個別企業の価値評価においてマクロ経済を無視することはできませんが、企業は、不動産と違い、「人間が考えながら経営を行っている人間の集団」なわけですから、真っ当な経営を行っている企業は、マクロ経済の失速やら、あらゆるコストの上昇やらを、少なくとも中長期的には解決して行くものです。
やはり結論は、一つ一つの企業の経営を分析し、「真っ当な経営者にお金を委ねる」方法が最も合理的だと思います。
「DCF法は、最悪だ!」で書いたとおり、企業価値評価(←一株あたりの妥当な株価の算出)は、「未来の数字」を因数にしている以上、常に「絶対正しい結果」など導き出せるはずがありません。
しかし、DCF法による「定点観測」は、企業の「経営手腕」や、「バリュードライバー」を把握する事ができます。
「妥当な株価の算出」そのものは、企業価値評価のひとつのゴールではありますが、大切なのは、評価の過程でその企業の姿を数字の面から把握できることにあります。
一定の手法による企業価値評価を通じて、「誰に資金を預けるのが妥当なのか」を探り、実際の資産運用に生かすことが大切なのだと思います。
ミスターマーケットは、常に喜怒哀楽が激しいのです。
ミスターマーケットの機嫌にばかり気をとられていると、本当に価値ある投資対象を見失ってしまいます。
2007年10月22日 板倉雄一郎
PS:
昨日のプレミアムクラブ「オンラインバリュ会」の評価対象企業は、「ダイキン工業」でした。
この会社、非常にバランスの良い経営を行っていると僕は思います。
けれど、やはり、こういう「投資家から観て良い企業」は、今のところ「割高」ですよね。
誤解を恐れずに書けば、インデックスの上げ下げなんて、個別企業への投資においては、どうでもいいことです。
しつこいようですが、マクロ経済のトレンドを、個別企業表において持ち込むべきではない、と言っているわけではありません。
PS^2:
ってことで、現在マーケットが開く前ですが、本日の日本のミスターマーケットも憂鬱なのでしょうね(笑)
ミスターマーケットが憂鬱な時には、売りたくなる人が多いのでしょうけれど、合理的に考えれば、そういうときほど、「買い」なのですけれどね。
でも、買いたい銘柄は、どういうわけか元気はつらつ(笑)
PS^3:
現在ご案内している「実践・企業価値評価シリーズ第27回合宿セミナー」は、2007年最後の合宿セミナーです。
とっくに定員オーバーしているのですが、今年最後の合宿セミナーなので、定員を拡大し、本日24時まで、その募集を行いますので、ご興味のある方は、是非この機会に。





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