昨日、ある企業家団体の定例食事会にゲストスピーカーとして呼ばれ、
青山にある某話題のお店に行ってきました。
このお店、偶然にも、何人かの知人や友人から、
「板倉さんの言う、リッツカールトンそのものなんですよ。
是非一度行ってみてください。」
と教えていただいたお店です。
リッツカールトンとは、ホテルのことです。
ビジネススクールでもケーススターディーとして取り上げられるほど、
彼らのオペレーションには、定評があります。
僕の経験では・・・
シンガポールのリッツに、
一年以上日をあけて、宿泊予約を入れたことがあります。
空港からタクシーでリッツに向かい、車寄せでポーターに荷物を預け、
インカム(無線)をつけた女性に誘導され、フロントに到着すると、
フロントマンは、僕が言葉を発する前にこう言いました。
「お帰りなさい板倉様。
今回も前回と同じお部屋がよろしいでしょうか?」
(当然、言葉は英語です。)
カラクリはこうです・・・
ポーターは僕の荷物の「名札」を読み取り、
無線でフロントに「板倉様がいらっしゃいました。」と連絡します。
それを受けたフロントマンは、
顧客データベースから僕のデータを、名前で検索し・・・・というわけです。
「やりすぎ」と思われる方もいらっしゃると思います。
こればかりは個人の趣味、嗜好に依存しますからね。
しかし僕は、この努力と「さりげなさ」が嫌いではありません。
コンピュータに携わり、マーケティングの商売を続けてきた僕には、
彼らのカラクリのほとんどはカンタンに理解できます。
ですから、驚きは一瞬にして消え去ります。
ですが、そのカラクリを一人一人の顧客に対して実施する彼らの姿勢は、
お見事。と思います。
(ちなみに、僕が、彼らのホテルに始めて宿泊するとき、
僕は提示された宿泊料金を「高い!」と言いました。
すると「ビジネスカード(名刺)をいただけますか?」と言われ、
それを差し出すと、いきなり30%程度安い宿泊料金に変更されました。
この例からわかるとおり、
彼らは顧客リストとそれに基づいたサービスに気を使っているというわけです。
その成果なのか、僕がこうして、彼らの宣伝を買って出ているわけです(笑)
最初から30%OFFの値段設定でビジネスプランを書いているのでしょうけれど、
「金利は、当社が負担!」などのえげつない表現より、遥かにスマートです。)
「なぁ~んだ、マニュアルにしたがっているだけじゃないか」
と思われる方もいらっしゃるでしょう。
確かにこの部分だけを見れば、そうかもしれません。
ですが、彼ら従業員には、従業員が自らの裁量で、
顧客にサービスを提供する「予算枠」が、与えられていて、
たとえば・・・
老夫婦が、昔々、プロポーズを行ったときのことを、
ベルボーイに話したとします。
そうですねぇ、ホテルのプールサイドで、カクテルを飲みながら、
夕日を見ているときに、彼が彼女にプロポーズをしたということにしましょう。
(↑ すいません、ありきたりのストーリーで)
すると、このベルボーイの判断で、その情景を再現して、
(↑ 夕刻に、プールサイドに、カクテルと、花束をホテルの経費で用意)
老夫婦をその場所に案内するといった芸当をやってのけることが出来るのです。
(これは、あくまで、僕の知識の中からの、でっち上げの例ですよ。)
昨日うかがったお店は、彼ら自身が認めるとおり、
リッツのオペレーションを飲食店に採用しているというわけです。
が、僕は、あまり気持ち良くありませんでした。
一通り僕の「よくしゃべる口」と「よく食べる口」の仕事が終わり、
デザートがテーブルにサーブされました。
周囲を見ると、皆のデザート皿それぞれに、
その席のメンバーの経営されている会社名などの文字が、
チョコレートでデコレートされていました。
「○▲株式会社」の代表者のテーブルには、
「○▲株式会社」のロゴがデコレートされたデザートが
サーブされるという具合です
。
カラクリは、簡単です。
予約された名前をネットで検索すれば、顧客のプロファイルが手に入りますから。
プロファイルを調べていただくことそのものには、何も問題ありません。
そもそも、自ら自分の名前のWEBをネット上に載せているわけですから、
その情報の範囲で調べていただくことに、違和感はありません。
しかし、彼らのその方法は、
「皆様のことをあらかじめ知り、喜んでもらおうと努力しています。」ということを、
「出しすぎ」なのです。
「やってあげています」と、言われているような気持ちになるのです。
真っ当なサービスとは、
自らの努力を「顧客に悟られないように、細心の注意を払うこと」が、
必要だなと思った次第です。
僕のお皿には、
「社長失格」という文字が・・・全然うれしくありませんでした。
憤慨した僕に、このお店の店長は、
僕のもう一つの著作「失敗から学べ」を手に持ちながら、
「板倉先生、こちらも読ませていただいています」と繕っていました。
御疲れ様です。
たとえば、(かなり贅沢なリクエストではありますが・・・)
僕を調べるなら、僕が「海老・蟹・アレルギー」であることを、調べてくれて・・・
当日、他の方のテーブルに、オマール海老が並ぶとき、
僕のテーブルには、さりげなく、鯛がサーブされたりしたら、どうでしょう。
それを見た僕が、「なぜ、僕だけ鯛?」と聞いたとしましょう。
そのとき、彼らの答えが
「板倉様は、こちらの方がよろしいかと思いまして・・・
オマールがよろしかったですか?」
などといわれたら、(カラクリは理解できても)、「さすが!」と思ってしまいます。
女性にプレゼントを渡すとき、それを選ぶのに、
どれほど考えをめぐらし、
どれほど足を運んだか、という努力を「積極的に」見せてしまったら、
そのプレゼントの価値は、
彼女にとっても、彼にとっても、小さいものになってしまいます。
それどころか、悪くすれば、その行為が、彼女をして、
「この人ストーカー?」と思わせる効果になるかもしれません。
単に、「君に似合うんじゃないかなと思ってさ。」と渡すだけで充分なのです。
上質のサービスとは、最後まで、相手に、
その努力を気がつかせないようにしなければならないのです。
それを気がつかせてしまったら、相手の「心の負担」になってしまうのです。
昔、JALの「さくらカード」(だったかな?)で、
成田~香港フライトのファーストクラスを利用したとき、
ボーディング後、チーフパーサーがやってきて、
「板倉様、いつもありがとうございます。」などと言ってきました。
「なんだこいつ、僕のことなど、何も知らないくせに」と、
あまり気持ち良くなかったことを、思い出してしまいました。
巷では、「このお店のような店をやりたい」とか思う人が多いそうです。
文化が無いところでは、仕方ないですね。
「サービスとは何か」を、全くわかっていない・・・
表面を繕うだけのお店と、僕は感じました。
彼らのサービスが「いかさまだ」と言っているのではなく、
彼らの努力の仕方が、上質のサービスにつながっていない
という意味なのです。
期待値が大きかったからという理由で、
「期待ほどではなかった」という意味でもないのです。
そもそも、話題になるお店で、
上質のサービスだったことなど、ほとんどありませんでしたから。
お店の名前ですか?
書いちゃいましょう「カシータ 『Casita青山店』 」です。
あ~あ、これで出入り禁止だな(笑・・・出入り禁止で全然OKですけどね)
2005年2月12日 板倉雄一郎