板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「カレーとウンコ」

(本日のエッセーは、DeepKISSとして「ソフトバンクのボーダフォン買収」についてのファイナンス面からの考察とする予定でしたが、資料&数値がまとまっていないので、まとまったら掲載します。)

たとえば・・・
「わかりやすい株の本」とかいう本を手に取り、
「これわかりやすい!やったー!これだこれ!」と喜んでいる人に対して、
「それ、書いている人がシロウトだけあって、たくさん間違いがあるよ」と、
本当のことを教えてあげることは、いけないことなのでしょうか?
そっとしておいてあげる方が、やさしいのでしょうか?

たとえば・・・
量販店などのポイントカードをたくさん保有し(←ここまではOK)、
それぞれのポイントカードにポイントをたくさん溜めて、
「俺ってすげえ、こんなにたくさんポイント持ってるぜ!」と
喜んでいる人に、
「おりおば」の第一章を読ませることって、いけないことなのでしょうか?
「楽しんでいるのだからそっとしておいてやれ」という考えが、
やさしさなのでしょうか?

たとえば・・・
「それでも地球は回っている」と、事実に基づいて訴えることは、
罪なのでしょうか?

たとえば・・・もういいね(笑)
(以上は、誰かからの具体的なクレームに基づいているわけではありません。)

「カレー味のウンコと、ウンコ味のカレーのどちらを食べる?」
という質問を投げかけると、多くの人は、
「それって究極の選択だね」なんていいます。
僕には、どこが究極なのか、良くわかりません。
なぜなら、この質問は、明らかに、
「カレーを食べるか、ウンコを食べるか?」という質問に他ならないからです。

「カレー味のウンコ」とは、
カレーの味ではあるけれど、間違いなくウンコです。
「ウンコ味のカレー」とは、
ウンコの味かもしれませんが、カレーです。
そもそも、「ウンコの味」なんて、
多くの人(←中にはウンコの味を知っている人も居るでしょうから)は、
知らないでしょうし、
知っていたとしても、「ウンコ味のカレー」は、せいぜい「まずいカレー」でしょう。

どれほど複雑に見える現象でも、
「で、それって結局どういうことだ?」という探究心に基づき、
一つ一つ紐解いてゆけば、本質にたどり着くことが出来ます。

経済的取引について言えば、
「すべての経済的取引は、誰かの価値と、他の誰かの価格の交換」
という本質を一度掴んでしまえば、
自己株取得(=自社株買い)であれ、
増資であれ、減資であれ、配当であれ、
複雑に「見える」企業買収であれ、
誰が得して、誰が損するかがよーく見えるようになります。
(もちろん、その判断には、条件設定が重要になります。)

経済的な専門用語についての理解においても同様です。
ROIC(=Return On Invested Capital=投下資本利益率)とは、
「なんぼ突っ込んだ結果、なんぼ儲かったの?」ということであり、
WACC(=Weighted Avarage Cost of Capital=加重平均資本コスト)とは、
「どんな方法で資金を調達してどのぐらいコストがかかるの?」ということであり、
ROIC-WACC=Spreadは、
「で、結局、(資金の)調達コストと、(資金の)運用利回りのどちらが、どれほど大きいの?」ということであり、
Economic Profit(=またはEVA=Economic Value Added=経済的付加価値)とは、
上記Spreadに投下資本を掛けた値で、
「で、結局、本質的にどれほど儲かったの?」
ってことになるわけです。
特別難しいことは、「言葉に対する慣れ」以外には、ありません。

世間では、「増収増益」に踊らされる個人投資家が多数居ます。
売上高や、当期利益とは、
投資家が最も注目すべき「企業価値の増減」の因数に過ぎず、
たとえ増収増益であったとしても、
1、キャッシュフローが会計上の利益と乖離していないか?
2、投下資本が実は増大した結果に過ぎないのではないか?
3、いずれにしてもSpreadがプラスなのか?
などのチェックをしなければ、「増収増益」だけでは何もわからないのです。

「増収増益」という「カレー味」を与えられても、
その結果としての企業価値が破壊され続けているという「ウンコ」を食べていたのでは話しになりません。

たとえば・・・
企業買収を本業とする企業グループがあったとします。
(ライブドアを想定してもかまいません。)
この企業が、「カネに糸目を付けず」、利益が出ている企業を買い捲ったとしましょう。
すると、この企業グループの「会計上の連結利益」は、「増益」となります。
被買収企業の売上高と利益が、買収の度に積みあがるわけですから当然です。
しかし買収を続けるためには、一方で、買収資金を調達する必要があります。
売上高と利益の増大の背景には、「投下資本の増大」という面もあるわけです。
「カネに糸目を付けず」に買収すれば、
被買収企業の価値以上の価格での買収のケースも起こりえます。
(世界中の企業買収のほとんどは、買収合戦による価格高騰によって失敗しています。)
結果、「会計上の利益」は増えても、「投下資本1円辺りの利益」はドンドン低下してゆきます。
「投下資本1円辺りの利益」とは、すなわち「投下資本利益率」のことです。
もし、投下資本1円辺りの利益が0.1円(=投下資本利益率10%)で、
1円辺りの資本調達コストが、0.2円(=資本調達コスト20%)だとすれば、
毎年、1円辺り0.1円の経済価値破壊となってしまいます。

「カネに糸目を付けない企業買収」を繰り返せば、投下資本利益率10%がさらに低下してゆき、一方で派手に買収を繰り返すわけですから、投資家から観た「リスク認識=期待収益率」が上昇し、資本調達コストも上昇していまい、結果としてSpreadは悪化の一途をたどります。

この経済価値破壊は、企業価値破壊を起こし、企業価値破壊の影響は、株主価値破壊となり、結果として株主が損をするのです。
具体的には、(中長期では)株価が下落するのです。

ソフトバンクによるボーダフォン(日本)買収については、冒頭で書いたとおり、しっかり数値を精査してから、その考察を書きますが、昨日(2006年3月5日日曜日)の日本経済新聞の7面に、この件に関して「詳しく書いたつもり」の記事があります。
NTT、KDDI、そしてソフトバンクグループの、
1、売上高
2、営業利益
3、有利子負債残高
4、携帯加入者数
の比較しかありません。
それぞれの企業の「投下資本総額」や、ボーダフォン買収後のソフトバンクグループの総投下資本や、その資本調達コストについては、「全く」触れられていません。
一体誰に向けて、何のために書いた記事なのでしょうか?
と、いちゃもんを付けたくなる僕の気持ち、お分かりになるでしょう。

(特に、なんでまた投下資本の一部分である「有利子負債だけ」を持ち出してくるのか、意味不明です(笑))

「ウンコ味なのか? カレー味なのか?」については、どんなメディアにも割と良く書かれています。
しかし、それぞれが、「ウンコなのか? カレーなのか?」については、書いている人間がそもそも良くわかっていないのですから、書けるはずもありません。

僕は、これからも、それが「ウンコなのか、カレーなのか」について、論理的にしっかり書いてゆきたいと思います。
皆様も、このような記事を見て「わかったつもり」になり、
後に「大腸菌に侵された」などと嘆くことが無いように、
「それは結局、カレーなの、ウンコなの?」を追求して考える癖を付けてください。

僕は、ウンコは食べたくない。
そう思うからこそ、味に騙されず、その本質を掴むように努力しています。

2006年3月6日 板倉雄一郎

PS:
5月開催「実践・企業価値評価シリーズ」第15回合宿セミナーも、週末の休みの間(=パソコンを触りませんでした!)に結構お申し込みを頂き、残り席数は10名ほどです。
ご興味のある方はお早めにどうぞ。

PS^2:
「ウンコ話」のついでに「ウコンの話」(←一体どこがついでやねん)
「ウコン」と称された価格の非常に高い健康食品を買って飲むのがいけないとは申しません。
ケレド、「ウコン」ってのは、要するにカレーに入っている「ターメリック」です。
カレー独特の「黄色」をかもし出すあれです。
ターメリックは、そこいらのスーパーマーケットで、「ウコン」より安い価格で売ってますよ(笑)
もちろん、それぞれの中身に違いはあるでしょう。
だから、「成分という価値の違い」と、「価格の違い」を十分に考慮しなくちゃね。

PS^3:
ソフトバンクによるボーダフォン(日本)の買収に関しては、今だ以下の数値がハッキリしないので、解説するには、情報開示があってからになります。
不明な情報・・・
1、現時点での最新のボーダフォンの財務資料
2、ソフトバンクのLBO資金調達の利率
よって、記事は、かなり先になります。
ひとまず、参考エッセー:KISS第1号「急がば回れ」
および、SMU第174号「孫正義は狼中年」をご覧ください。
なんかこの会社、ドツボにハマっているように思えてなりません。
もちろん、僕の予想に反して、素晴らしい価値創造をやってのけることでしょう。
なんつったって、天下の孫正義ですからね(笑)





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