板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「カーボンダイエットシステムの提案」

 一昨日、ビデオカメラを新調するために自宅近くの家電量販店に行きました。
結局、ザクティを買ったのだけれど、付属品のチェックや周辺装置などを買わなければならないので、暫くレジ近くに居ました。
(もちろん、まずザクティ本体を買って、得られたポイントで周辺装置を買いましたよ)
その間に、少なくとも3人ほどの客がレジを済ませていましたが、店員に「ポイント貯めますか?使いますか?」と聞かれた3人のすべてが、驚くことに「貯めます」と答えていたことでした。
「おりおば」の冒頭でも書きましたが、いわゆる「ポイント」とは、
①買い物のたびに、もちろんいただけるポイントはいただく
②ポイントには利子が付かないから、可能な限りポイント残高を減らし
③その分、ポイントに比べ流動性のはるかに高い現金を多く持つほうが有利
④ポイントは、それを発行する企業にとって「顧客囲い込み」という効果と、「資本コストの無い資金調達」というプラスの側面がある一方、顧客にとってポイントを「貯め増やすこと」になんらメリットは無い。
ということになりますが、以上のような真っ当な考えは、「ポイントが溜まることへの単純な喜び」には勝てないようです(笑)

(本文のメッセージとははずれますが、そもそもポイントカードによる経済的メリットは、それを発行する企業においても「ほとんど無い」と考えます。
なぜなら、企業にとっては、ポイントシステムを管理運営するためのコストが発生しますし、現在のようにポイントがネットを使って流動性を高めた結果、必ずしもポイントを発行する企業の「顧客囲い込み」に繋がるとはいえないからです。
また顧客の側では、財布の中にたくさんのポイントカードが繁殖してしまう「わずらわしさ」があるわけですから、「だったらポイントもらう代わりに、キャッシュアウトを少なくしたほうが増し」ということになるからです。)

でも、そんな考えは、「ポイントだろうがなんだろうが貯めるの大好き!」な人には伝わらないわけです(笑)
そこで、ならばその心理を「温暖化ガス排出削減」のために、上手に「利用」するほうがよいのではないかと思うようになりました。
ある意味、「真っ当なファイナンスの教育」という気の長い理念からの逸脱ですが、それが温暖化対策の一つの力になり、おまけに利用者が「楽しめる」ならありかな、と思うわけです。

このところいわゆる「カーボン」に関する記事を多く見かけるようになりました。
昨日(2008年3月13日)の日本経済新聞の一面トップ記事も、「排出権枠」に関わる内容でした。
以下、妄想の範囲ではありますが、「カーボンダイエットシステム」の提案です。

現在の温暖化ガス排出削減に関わるプロジェクトのすべては、
CDM理事会⇒各国政府⇒各省庁⇒各産業分野⇒各企業・・・ここまでで止まっています。
いわゆるトップダウンの考え方ですが、これをいっそのことボトムアップにしてはどうかという提案です。

そもそも国家がいくら努力して制度を運用しても、企業がどれほど努力して温暖化ガス排出削減に取り組んでも、最終消費者にその意識が生まれなければ、本質的な温暖化ガス排出削減の実現にはなりません。
企業レイヤーが生産設備や商品に温暖化ガス削減効果を反映させても、その顧客は、その商品がどれほどカーボン削減の効果があるかという評価軸で商品を選ぶわけではありませんから(そのような意識がすべての人に広まるのが最もよいですが現実的ではありません)、企業が下手にカーボン削減に取り組むと、その企業の顧客が望む商品にならない場合があるわけです。
そこで、最終消費者が手にする末端商品が、どれほどカーボン削減に貢献しているか、また、その商品を消費することによりどれほどカーボン削減に貢献することになるのかを、「明確に」示し、且つ、積極的にカーボン削減可能な商品を「多少価格が高くても」購入しようとするインセンティブを各個人に与えることが必要なのではないかと考えるわけです。

 そこで、「カーボンダイエットシステム(以下CDS)」です。

 概要は、

①CDSによって発行されるクレジットをカーボンダイエットポイント(以下CDP)とします。
②CDSに参加していることを示すと同時にCDPを保存する「カード」をカーボンダイエットカード(以下CDC)とします。
③CDSに参加し、CDCを持つのは強制ではないが、持っているほうが経済的に得をし、且つ、カーボン削減にどれほど貢献しているか「ポイント数値」で把握することができる。
④CDPの発行運用主体は、政府でも、民間でもかまわない。なぜなら、これが普及すれば、現在のポイントカードのように相互乗り入れ(←ポイント交換)が可能になるから。(ただし、CDPの各商品への割当をする主体、および割当方法については要検討)
⑤ポイントの売買市場を作り、ポイントに流動性を持たせる。
⑥カーボン削減に繋がる商品を購入する際、CDCを持っていれば、割り当てられたCDPを取得できる。
⑦カーボン削減に貢献できない商品を購入する場合、割り当てられたCDPの「マイナス分」を、現金で支払うか、貯蓄したCDPを差し出す必要がある。

ざっくり説明すると以上のようになります。
つまり、カーボン削減効果の無い(または排出が多い)商品を購入する顧客の支払う現金を原資として、CDポイントの経済価値を担保し、結果的に、カーボン削減に貢献していない人から、カーボン削減に貢献している人へCDPの移転を通じ経済価値が移転するという仕組みです。
皆、「お金が欲しい」わけですから、カーボン削減が個人にもインセンティブを与えるというわけです。

たとえば・・・

明らかにカーボンを排出する「ガソリン」を購入する場合、1リットル当たり1CDポイント(1CDポイントが現金のどれほどに相当するかは、上記③によるCDポイント価格変動に依存します)の割当を定義します。
一方で、明らかに(他の車種に比べ)カーボン削減効果のあるトヨタ・プリウスなどを購入したとき、割り当てられたCDポイントが購入者に付与されます。
たとえば、プリウス購入で30万CDポイントとか(←めちゃめちゃイイカゲンな設定です)
プリウスを購入した人は、ガソリン消費がそもそも少ない上に、ガソリン購入時に課せられるCDP分を、プリウスを買ったときに得たCDPによって支払うことができます。
つまりカーボン削減が経済的メリットに繋がるわけです。
僕のようにランドクルーザーなんか乗っている人は、ランクルの購入時に割り当てられたCDP(のマイナス)分を、コンビニ袋をいただかなかったことなどによって貯蓄したCDPで支払うか、またはその分の現金を車両価格に上乗せして支払う必要があります。
その上、その後の燃料補給のたびに、ガソリンに割り当てられたCDP「マイナス分」を、保有するCDPまたは現金でガソリン価格に上乗せして支払わなければならなくなるわけです。
つまりカーボン削減効果のある商品を選択しないと経済的デメリットに繋がるわけです。

このシステムの場合・・・
大型プレジャーボートの場合と、漁業用のボートの場合では、仮に燃費が同じでも、購入時に割り当てられる「支払わなければならないCDP」は、全然違ってよいわけです。
そのような裁量は、税による裁量より効果があるかもしれません。
ちなみに、大型プレジャーボートなんて買った日には、1億CDポイント(を支払わなければならない)とかになるんでしょうね(笑)
大型自家用車と、運送業用トラックの場合でも、
コンビニ袋を使うか使わないかの場合でも、
そのカーボン「排出/削減」に応じたCDポイント「負担/付与」の裁量ができるわけです。
特に、近所の農家の野菜の場合と、中国産の野菜の場合では、輸送によるカーボン排出に違いがあるわけですから、地元の野菜の方がCDPを貯めるためにはよいわけです。
この方法によって、仮に中国産野菜が売れなくなったとしても、いわゆる輸入関税による制限に比べ、はるかに輸出国の同意を得られる可能性が高まります。
(というより輸出国は文句言えないでしょ(笑))
結果的に「地元の食材を買う」という意識が生まれ、食物自給率が上がったりするかもしれません。
下手に関税によって制限するから、「牛肉オレンジ問題(←古い)」みたいな国家間の問題になったりするわけですが、「温暖化対策」を盾にすれば、問題解決(?)に少なくとも近づけるでしょう。

妄想が面白くなってきたので、僕の場合・・・
レジャーに使途を限定してはいるものの、キャンプ道具や釣り道具、そして同乗者の数、そして、行く場所によってはどうしてもランクルが必要なわけです。
で、買うときも、燃料を補給するときも、CDP(または現金)を差し出さなければならないわけですが、その分、
①通勤せずにネットを使って仕事をしていること
②自宅隣の畑(←これ本当ですし、毎週火曜日と土曜日は直販やってます)の野菜を買うこと
③普段の足にはチャリンコを使う(余談ですが、先日、車で移動した先での利用のためにAバイクを買ってしまいました!明日あたり到着の予定!)
などによって得られるCDPが少しでも役に立つのではないかと思いますし、少なくともCDPを貯めようという意識=カーボン排出削減という意識は、今以上に生まれると思います。

以上は妄想の範囲での一つの例ですが、このシステムが普及すれば、ありとあらゆる商品にCDPを割当てることができると思いますし、CPCを持っていない人は、
① 経済的に損をする(または得するチャンスを損失する)
② 温暖化に貢献できていない人というレッテルが貼られるになります。
その逆に、CPCを持っていて、且つカーボン排出削減の意識のある人は、
① 経済的に得をする(または得するチャンスを得ることができる)
② 温暖化に貢献している人という認識を持たれる。
となるわけです。

以上の結果、国家より、省庁より、企業より、最終消費者である個々人のカーボン削減に対する意識が広がります。
そうなると、企業の商品は、割り当てられるCDPが多いほどマーケティング上有利になりますから、企業は動きます。
企業は、お上から言われて動く場合に比べ、自主的に、積極的に、カーボン削減商品を生み出すようになります。
「地球の気温が2度上昇すると・・・」みたいな話じゃ、多くの人はピンとこないわけですから。いつまで経っても「他人事」じゃまずいですよね。
やはり何らかのインセンティブを与え、一人ひとりが自ら動くようにしなければならないと思うわけです。その点において、「(理屈抜きに)ポイント大好き!」の人を動かす上で合理的なシステムだと覆います。

以上の仕組みがうまく働き、普及が進めば、結果的に、企業も個人も「楽しみながら」、「経済的メリットを得ながら」カーボン削減を実行することができるというわけです。

もちろん、問題はたくさんあります。
特に、「一体誰がどのような基準で各商品にCDPを割り当てるのか」という点が最大の問題だと思います。
(CDCへのCDポイントの出し入れを行うインフラについては、既にどのお店でもEDYやらNANACOやらたくさんありますから、ソフトウェアの書き換えで解決できる範囲のことです。)
それ以外にも、たくさんの問題が予測されます。

しかしね、こういう新しいアイデアを考えるとき、直ちに「問題点」を「できない理由」にするような人は、結局何もできない人なのです。
何かを成し遂げるためには、「問題点」を、「できない理由」や「やらない理由」、つまり自分自身に対するイクスキューズにするのではなく、「解決しなければならない問題」として捉えることが必要なのです。

(余談ですが、僕が新しいビジネスアイデアを思いつき、それについてブレインストーミングしているとき、すぐさま「できない理由」を並べる人って大嫌いです(笑)
新しいことを始めるのですから、問題が無いほうがおかしいですし、問題があるからこそ、それを解決する手段を見つけた者が成功するわけですから。)

 このシステム、一通りカーボン削減枠を達成したら、誰もCDPを受け取れなくなって破綻するという意見があります。
しかしそれはありえません。なぜなら、そもそもすべての人がカーボン削減に真剣に取り組む未来は無いですし、そうなったとしても、「新たな削減目標」を設定することによって、新たなCDP獲得チャンスが生まれるわけですから。
現在の京都システムにおいても、時間経過と共に新たな削減目標を設定し「つづけること」によって、排出権クレジットの経済的価値を持続させるわけです。

誰かやろうとしないかなぁ・・・自分でやろうかなぁ・・・
こういう話って、金になるかならないかは別にして、協力してくれる人、結構居ると思うんですよね。

以上、まだまだ妄想の域を出ませんが、何かの始まりってそんなものですから。

2008年3月13日 板倉雄一郎

PS:
ヨーロッパ、特にドイツでは、太陽光発電などカーボン排出削減行為に関する様々な優遇があります。
日本では、一時期ありましたが、どういうわけか廃止されてしまいました。
ここで、批判を覚悟で正直に書きますが、
「日本人の教養はヨーロッパに比べ極めて低い」と思います。
低い教養を向上させるための教育を行うか、または、その教養の低さを逆手に取ったシステムを作り上げるということなり、少なくとも僕は通常、前者を行っていますが、場合によっては後者を行うことも合理的な場合もあると思います。
はっきり言って、日銀総裁なんて(現実的なオプションの範囲では)誰でもいいわけですよ、空席になるよりは。
だってできることって限れられてるし、そもそも中央銀行が経済価値を生み出すわけじゃないですからね。
政治家バカすぎ。

PS^2:
本文とは全く関係ありませんが、昨日の東京新聞&中日新聞の「夕刊」の「ペット大好き」面、および、1面の見出しに、カラー写真つきで僕、ではなく、僕の愛犬が載ってます。
ちなみにネット版でも公開されています。





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