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ITAKURASTYLE「再び、ミクシィ上場・・・その盲点」

昨日のエッセーITAKURASTYLE「ミクシィ上場」について、
何人かの読者の方からコメントをいただきました。

たとえば、


「私はミクシィの可能性を高く評価しています。
国内サイトでは年内にグーグルを超え2位に、
来年はヤフーを超え1位になると思います。
IBMの隙間をマイクロソフトが奪ったように
Yahoo!やGoogleの隙間をmyspaceやmixiが奪うかも知れません。」

といった内容です。

確かに、そのような「可能性」が無いとは思いませんし、
しつこいようですが、
ミクシィに「価値がない」と主張しているわけではありません。

しかし、
アクセス増⇒広告収入などの収入の増加⇒FCFの増加
(↑ つまり企業価値の増大)
というシナリオをたどるであろうと楽観的に予測したとしても、
そのシナリオが「急成長」であればあるほど、
一方で投資家から観た、
「リスク認識=期待収益率=FCFの割引率」も高くなって当然です。
(FCF=フリーキャッシュフロー=投資家に帰属するキャッシュフロー)
つまり、
当該企業の投下資本利益率が急速に高まると予測する中で、
投資家のリターンだけは小さくても良い、とはならならないのです。
(ファイナンス的には、WACCは、ROICに引っ張られる、となります。)

もし、「急成長」の業績予測が現実的だと考え、
且つ、その急成長の実現性に対して「大したリスクを感じない」
ということであれば、
予測するFCFは大きくなり、且つその割引率は小さくなりますから、
結果として、オファリング価格が妥当であるという判断もありえます。

しかし僕個人は、そんなに楽観的になれません。
なぜなら・・・

ミクシィのリスクを考えると(リスクというより盲点だと思いますが)、
(上記読者の指摘通り)アクセスは増えるが、
そのアクセスを支える「人の数」は、
その他検索エンジンを訪問する「人の数」には至らない、と思うのです。
事実、
ミクシィへのアクセスは、
現時点でも世界的に見て、かなり上位
(↑ Alexaで見る限り全世界中37位!)ですが、
そのアクセスを支える[人の数=会員数」は、
彼らの公表値を見る限り、500万人(2006年7月末現在)です。
つまり、ミクシィの「媒体性質」は、
その他検索エンジンなどに比べ、
「会員一人当たりのアクセスが多い」=「リーチの割りにアクセスが多い」
ということになります。

一方、現時点での彼らの収入源である広告収入の価格付けは、
一部「一人当たり広告費」という設定もあるようですが、
大部分は「ページビュー単位」での価格付けです。
よって、最悪の場合、「一人に同じ広告を何度も見せる」結果、
広告主はその広告料を支払うハメになる可能性があり、
もしそうであれば、いずれ広告料は値下げせざるを得なくなるでしょう。

このあたりは、ミクシィの経営陣もそれなりの対策を講じるでしょうが、
アクセス増⇒広告収入増加、と、短絡的に考えるのは危険というわけです。
Google中毒者はあまり居ませんが、ミクシィ中毒者は結構居るらしいですから。

アクセス数、PER、ROA、ROE、PCFR・・・
何一つとっても、「単独期のたった一つの指標で企業を評価する事」など、
到底不可能なことだ、ということだけははっきりと言及しておきます。

「日本発の世界的なネットベンチャー」が生まれることを、
僕は強く望みます。
ミクシィがそれにあたるためには、
もっとたくさんの「リーチ」を必要とする、と僕は思います。
この点が早期にクリアされれば、「大化け」の実現性は高くなると思います。

2006年9月1日 板倉雄一郎

PS:
オファリング価格の妥当性はともかく、
ここ最近のネット関連企業のIPOの中では、
かなり真っ当な企業だ、とは思います。
しつこいようですが、
成長する(=株主価値を増大させる)可能性のあることと、
現時点での価格の妥当性は、極めて関連が深いですが、別の話です。
どんなに価値ある企業でも、高く買ってしまっては利回りは低下します。

お断りしておきますが、
上場直後に高騰するとか、暴落するとか、
そんな短期の株価変動がどうなるかは、僕にはわかりません。
僕が知っているのは、
「株価は長期では、その価値周辺に形成される」
ということだけです。
あしからず。

PS^2:
9月分の「バリュ会」
(↑ 合宿セミナーの卒業生の中のプレミアムクラブ会員による、
 スカイプを使った、オンラインバリュエーション大会。
 毎月、個別企業のバリュエーションについて、
 どなたかが立候補してバリュエーションシートを作り上げ、
 それについて数十名が入り乱れて議論するサービスです。)
で取り上げる企業は、ミクシィです。
たくさんの方の意見を聞くのが今から楽しみです。





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