板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「投資タイミング」

このところ、一般読者、セミナー卒業生などから・・・
「自分が投資したいと思っている銘柄が、十分に割安になってきたのだが、いつ投資すべきかタイミングを教えて欲しい」
という質問をいただく機会が多くなってきました。
確かに、投資タイミングは企業価値算定と同等程度に重要なことですよね。

たとえば、「大幅な割安」を認識しても、もっと下げる可能性を大きく見積もれば、「もっと大幅な割安」になる可能性がありますし、また、下げ止まったと認識しても、今度は、「市場が価値に対していつごろ裁定されるのか」という心配事もありますよね。
市場参加者の大部分が以上のように思い、投資を手控えれば、株価はどんどん下落してゆくわけです。

いわゆるサブプライムローンによる金融機関の損失の原因も、「1ドルも回収できない債権」というわけではない(←債券価格がゼロより大きい値に妥当な価格が存在する)のに、価格をいくら下げても債券の買い手が見つからないことによって、債券の時価がどんどん下落し、時価会計を行う金融機関は、その穴埋めが必要になっているというわけです。
信用のデススパイラルですね。

悲観的に考えれば・・・
(1)(デススパイラルにより)北米のリセッションが始まり、長期に渡って続く
(2)(投機筋のおかげで)原油やレアメタル、そして食材などの原材料の高止まりが続く
(3)(投機筋のおかげで)今は元気な中国、インドなどのバブルが(投機筋の利益確定により)はじける
など、株価の下落だけではなく、「価値」そのものの下落が長期に渡って続く可能性もあります。
特に日本国内需については、「輸入インフレ⇒スタグフレーションに突入」という最悪のシナリオを完全に否定することもできない状況です。

以上の悲観的な予測を、「極めて現実的なことだ」と認識するのであれば、しばらくの間、「現金のポジションを上げておく」なり、「より安全な債券にて運用する」というのも一つの手でしょうし、とにかくひたすら資産を「分散させる」という、最悪の資産運用(←分散投資はわからない人のための防御)も、最悪とはいえないわけですね。

しかし一方で、原油をはじめとする原材料高は、その高止まりが経済リセッションの原因であると同時に、経済リセッションすれば、いずれ原油などの需要が減少し、価格も調整されるということを考慮すれば、原材料高がいつまでも続くわけではないともいえるわけです。
また、サブプライムローン債券についても、上記の説明の通り、「価値が全く無い」わけではありませんから、いずれ下げ止まるところがあるでしょう。
どれほど経済状態が悪くなっても、あらゆる経済価値がゼロになるわけではありませんから(中には、経済価値がマイナスの案件も出てくるでしょうけれど)、いずれリッチパーソンによる「買い」が入るでしょう。
その一つの例が、オイルマネーによる米金融機関への投資ですね。

「とはいえ、以上の要素を考慮し、悲観的な業績予測に基づいた企業価値評価を行った結果、現在の株価は十分に割安だ」といえる企業も無くはありませんし、また、「これだけ下げてもまだ割高」という企業も無くはありません。
つまり、「市場全体」を捉えて、「いつ投資するのが最適なのか」を断定することはできないわけです。
やはり、一つ一つの個別企業をグローバル経済の動向を考慮した上で評価し、相場動向を見守るしかないのだと思います。

こういう時こそ、「投資の基礎的な心構え」が大切になります・・・
(1)待つのも相場
(↑ 慌てて投資したり損切りしたりと右往左往しない
  しかし、損切りするべきときは損切りする)
(2)必ずしも底値で買わなければならないというわけではない
(↑ 「今が底値だ!」なんて、誰にもわからない)
(3)リスクを取らなければ、リターンは得られない。
(↑ 確実に「これから上がる」って時は、リターンも減少する)
ということですね。

で、僕個人的な意見を・・・

(1)相場下落で時価資産価値が下落しているが、一方で「投資チャンス」が増大しつつある。
(2)いわゆるディフェンシブ銘柄にて運用するより、「今は」現金の方が遥かに増し。
(3)円高なら、なお円現金で投資チャンスを待ったほうがいい。
(4)しかし、悲観的な業績予測を行っても十分に割安の場合は、右往左往せず保有し続ける
(↑ アホルダーを勧めているわけではありません)
(5)円現金でのポジションが高いなら、「円ベースで海外の投資チャンスをウォッチする」
(↑ たとえば、米国企業の株価チャートを、円ベースで見るのも面白いです)
などですが、現在のように「市場全体が悲観的」なときこそ、「駄目なモノは駄目、いいものはいい」という「価値の」明暗がはっきりすると思います。
現在の状況を、「投資チャンスが増大している」と受け取るめることが、資産運用の上でも、精神衛生上でも(笑)、よいのではないでしょうか。
もし、昨年あたりの株価がバブルだったなら、元には戻らないでしょう。
けれど、現在の株価が、その価値に対して安すぎるなら、さらに下落する可能性は否定できませんが、いずれ戻るでしょう。


経済は人の心が動かします。
皆が「駄目だこりゃ」と思えば、今以上の暴落シナリオが現実になります。
皆が「もうそろそろいいんじゃないの」と思えば、下げ止まるでしょう。
どうなるかは、僕にはわかりません。
ただひたすら、「(価値に対して)大幅な割安」且つ「時間経過と共に価値が増大する企業」を探し続けるだけです。

2008年1月16日 板倉雄一郎

PS:
えっ、結局どうしてよいかわからないって?
ならどうすればよいか簡単にわかります。
「わからないものには投資しない」
これ投資の鉄則です(笑)

PS^2:
それでも「良いこと」はあります。
経済リセッションは、消費が抑えられます。
地球環境の視点では、リセッションは必ずしも悪いことではないですよね。
極端な話ですが、「個人の資産と、自然環境のどちらを取るか」と問われれば、間違いなく、後者を選択します。
ITAKURASTYLE 「低炭素経済」で書いたとおり、自然環境が私たちにとって相応しい状態であることが経済発展の必要条件ですからね。





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