板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「酒は飲んでも呑まれるな」

ネットの普及によって、様々な恩恵が社会にもたらされました。
しかし、新しい技術は、社会に対してプラスの面ばかりをもたらすわけではありません。

ネット上の掲示板を見ていると、そこで批評されることの多い立場の僕は、
時に落胆し、特に憤慨し、特に安堵し、時にハッピーを感じます。

ネット上での個人に対する批判の多くは、
おそらく「本人を目の前にしては、言えない」ことが多いと思います。
とりわけ「匿名」を許している掲示板の場合、投稿者にとって「擬似的な勇気」が提供されてしまいます。
己の心の醜い部分を、己の名前から分離し垂れ流し、見るものの心を蝕む行為が行われます。
結果、誹謗中傷という人間の醜さが容易に「公の場」にさらされます。
批判された個人は、どれほど「自分に対する真っ当な戒めかもしれない」と、自分に言い聞かせても、それだけでは解決しない苦痛が伴うことが多々あります。

一方で、本人を目の前にしたら、
「照れくさくて」、「恥ずかしくて」とても言えない「感謝の気持ち」を伝えることが出来るメディアとしてのプラス面も持ち合わせています。

(僕の場合、本人を目の前にしても、ここに書く文章と同様のことを言えるほどの「自分に対する自信」がある場合に、批判を書くようにしていますし、また、一方で、僕に対する「理に適った批判」を素直に受け入れるように、心がけているつもりです。もちろん完璧だ、などと思っていませんし、今後も間違いを犯すと承知しています。)

ネットの社会に対する影響の一つとして・・・
感謝の気持ちがそれまでより簡単に伝えることができ、
憎しみや嫉妬もそれまでより簡単に伝えることが出来ます。
以上のメリット/デメリットは、結果として「人の心」を鈍感にさせる効果を持っていると思うのです。
鈍化され、「グレー」を認識することが出来ず、すべてを「白黒」だけで判断するようになってしまうのではないかと、危惧するのです。
「YESかNOか」、「GOかNOGOか」、「プラスかマイナスか」・・・
それこそ、人の心の「デジタル化」ではないかと思うのです。
「ゼロか1か」、「違法か適法か」なんてことは、機械のする仕事に過ぎません。

「人の心を鈍感にさせる効果がある」ということを、そのシステムの利用者が理解することが、我々の叡智が作り上げた新しいシステムを上手に利用する上で、非常に重要だと思うのです。

ネットという技術やシステムそのものの良し悪しを語ることは不毛です。
なぜなら、人は、リスクを取ってでも、技術の追求、新しいもの未知なる物への追求をする本能を持っているからです。
結局のところ、(毎度書いていることですが)システムの使い手が、システムの基本構造を理解し、システムのメリット/デメリットを理解し、使い手の価値観に基づいたモラルを維持して初めてシステムが社会のために機能するのだと思います。
つまり、新しいシステムを創りだす努力と同等に、新しいシステムを理解し、上手に利用する努力が必要なのだと思います。

システムの利点を自分と社会のために生かそうとする気持ちがなければ、どんなシステムも機能しないのです。
自分の邪悪な気持ちを満足させるためにシステムを利用することも出来ます。
自分の誠意を伝えるためにシステムを利用することも出来ます。

「酒は飲んでも呑まれるな」
僕自身も、肝に命じたいと思います。

そもそも社会は、「ルール」だけでは成り立ちません。
個々のモラルが、社会を安全で豊かにするために欠かせないと思うのです。

2006年2月28日 板倉雄一郎

PS:
日本人の持つ「なんとなく」は、知識が無い「なんとなく」の場合には、あまりいただけない特徴ですが、「曖昧さ」は、それなりに価値があると思うのです。





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