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ITAKURASTYLE「村上氏に実刑判決」


タイトルの通りですが、地裁判決ですから、確定したわけではありません。
村上ファンドがインサイダー取引(とされる)行為を行った背景について、地裁は、ファンドマネージャーとしての活動と、アクティビストとしての活動を一人で行っていたなどコンプライアンス体制が整っていなかったことに基づき、「村上ファンドの構造的欠陥に由来する犯罪」としているわけです。
じゃあ、社内を2つの部門に分け、
2人以上のマネージャーが担当すればいいってわけ?
と、いちゃもんをつけたくなります。
こんな判決は、「事実上、ファイアウォールになんて全然なっていない証券会社の各部門」のような表面的な構造を生み出すだけに思います。
村上ファンドがインサイダー取引(とされる)犯罪に至った背景は、そんな構造的な問題ではなく、もっともっと単純なことが原因だと、少なくとも僕は思います。
結論:村上氏は、儲かっていなかったから犯罪(とされる)行為に及んだ。
1、ファンド設立から最初の数年間、同ファンドのパフォーマンスは、マイナスだったこと。
2、1の理由として、企業価値算定における「大胆なミス(笑)」について本人が理解できていなかったこと。
3、1、2、の上で、ファンドマネージャとしての責務(=パフォーマンスを上げること)に忠実すぎたこと。
が、村上ファンドのインサイダー取引(とされる)犯罪の原因だと思います。
カンタンな話が、「儲かっていなかったので、ごり押しした」ということです。
このサイトのエッセイで、僕は村上ファンドの「大胆な価値算定ミス」について散々書いてきました。
「阪神電鉄」、「ニッポン放送」、「松坂屋」などなど。
(詳しくは、左フレーム「サイト内検索」にて、「村上」などのキーワードで検索してみてください。)
彼らの投資活動における企業価値評価には、稚拙ともいえる「大胆なミス」がいくつもあります。
よって、「黙っていれば」投資パフォーマンスは、得られないわけです。
しかし、彼は、自身の価値評価の間違いに気が付くことができず、
自分の思い通りにならない市場に対して、
「市場が間違っている!」と思い込み、
自分の思い通りにならない企業に対して、
「経営者がくずだ!」と思い込み、
経営者や市場に対し、メディアを通し、いちゃもんをぶつけることになり、
それでも思い通りにならないから、
結果的に、インサイダー取引(とされる)行為に及んだわけです。
つまるところ、
「自身の間違い(=投資活動における失敗)」を認めたくないという思いが、犯罪(とされる)行為に至った原因でしょう。
「構造的問題」ではなく、
「本人の知識の問題」であり、
「本人のモラルの問題」です。
考えてみて下さい。純粋に投資活動として儲けが出ているなら、わざわざインサイダー取引(と解釈される可能性のあること)を行う必要など全くないでしょう。

彼らの企業価値評価のミスは、極めて単純で、ちょっと考えればそれが間違いであることが明確なことばかりです。
不動産価値と(その土地の上で行う)事業価値のダブルカウント、
テクニカルな取引に溺れた考えのEBO、
など、「典型的な企業価値評価の間違い」として教本に採用できるぐらい、間違ったケースのオンパレード(笑)です。
それでも、村上ファンドがそれなりのパフォーマンスを出せたのは、なんてことはない、メディアが村上ファンドの活動を取り上げる結果、「俺も一口乗っておこう!」という個人投機家が村上ファンドのポートフォリオに投機し、株価が急騰し、その間に村上ファンドが売り抜ける、って事だったわけです。
つまり、村上ファンドが儲ける分、村上ファンドに群がる投機家が損をした、ただそれだけの話です。
彼のやり方なら、対象企業は、「どこでもよかった」といえます。
(村上氏本人は、未だに、「自分には投資家としての目利きの能力がある」とか思い込んでいるのでしょうけれど。)
法律論は、パートナーのMr.Moriに譲るとして、投資論としては、以上のように、このサイトのエッセイとして過去数年にわたって書いてきたとおりです。
断っておきますが、僕は、堀江君の場合にも、村上氏の場合にも、「彼らは犯罪を犯している」などと書いたことは一度もありません。
あくまで、投資論として、彼らの企業価値評価の知識は、明らかに間違っていると指摘してきました。
間違った企業価値評価に基づく投資は、結果として、自身の損失、または、「利益の代償」を支払うことになるわけです。
2007年7月20日 板倉雄一郎
PS:
犯罪は、(それを本業とする人を除き)、思い通りに事が進まない場合にやってしまうものです。
経済犯の場合、ナイフで人を刺すとか、拳銃で脅かすとかの直接的行為がない分、それが犯罪だと気が付かない場合が多いのだと思います。
しかし、「金」は、人の心も動かしてしまいます。
だから経済犯の罪は重いのです。
ある政党が、「日本は、戦争によって他国の人を殺したことのない国だ」などと妄言を発していました。
(↑ こういう発言をどの政党がするか、お分かりですよね(笑))
確かに、日本国籍を有する人間が、戦争という定義の下、戦地に出向き、爆弾や拳銃を手に持って、人を殺したことはないでしょう。
しかし、一方で、日本政府は、「それが戦費に使われると明確に分かっている金」を拠出しています。
それでも「殺したことがない」と本当に言えるでしょうか?
「金」は、社会に対する議決権です。
だから、「金」をインチキに取得する罪は、重くてしかるべきです。





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