板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「ドル安」

ドル円レートが100円/ドルを割り込みました。
世の中「大変だぁ!」と、合唱しています。
確かに、好ましくはない経済状態ですよね。
けれど、市場は事象のネガティブ面ばかりを拾っているように思います。

ドルの経済価値が下がるのは当然です。
中央銀行による利下げ、そして、資金供給は、米国という会計単位で見れば、「何の経済価値の増大にもなっていないところで、政策的に通貨をたくさん発行、または、借り易くしている」というわけですから、企業の株式に置き換えれば「株式分割」みたいなものです。
経済価値に変化がないところで、ドル通貨の流通が増えるわけですから、当然ながら1ドルあたりの経済価値は下落します。したがって、ドルは他の通貨に対して売られ、安くなります。

日本の場合を考えて見ましょう・・・

1、円高

確かに「輸入 < 輸出」の日本では、円安の方が都合がよいです。
けれど、(対ドルの)円高は、輸出企業の利益を圧迫する一方で、原材料や食料の大部分を海外から「ドル建てで」輸入している日本の構造を考えれば、「輸入におけるプラス分は必ずある」わけですが、そのプラス分は全くカウントされていないようです。

2、米国スタグフレーション

確かに現在でも、日本の輸出企業の大部分は、売上げの多くを米国に依存しています。
けれど、アジアやヨーロッパ向けに商品市場をシフトしてきましたし、今もシフトは積極的に進められていますから、10年前に比べたら米国への依存度は相当下がっています。
米国経済が後退することによるマイナスの影響は、すべからく世界の経済にマイナスの影響を与えますが、10年前に比べたらその影響は(デカップリングとはとてもいえませんが)少ないわけです。
けれど、それはカウントされていないようです。

3、対ドル以外の通貨に対する円

これ、実効ベースで円安です。
以上の1,2と合わせて考えれば、
「日本企業が輸出を拡大している地域の通貨に対して円安」
そして、
「輸入する原材料の価格は、安くなっているドルベース」
であるわけですから、実は日本全体にとって非常に都合がよいわけです。
原油価格が100ドルから110ドルに上昇しましたが、その期間で、ドルは対円で同率程度下落しているわけです。
原油価格をドルベースで見るのではなく、円ベースで見てみたらわかります。
実は、原材料価格が極端に上昇しているのではなく、ドルが極端に安くなっただけなのです。
けれど、それはカウントされていないようです。

4、日本の置かれた環境は相対的に悪くない、問題は政治。

以上から、日本の置かれた経済的環境は、世界の他の地域に比べ、比較的良いわけです。
日本は、サブプライムローン問題に「端を発した」経済的損失が先進国中最も少ない国の一つです。
ただし、それはあくまで日本全体という会計単位で観て、他の地域と比べた場合の話です。
この国の問題は、一時的なパニックによって動く株価下落ではなく、対ドルの円高でもなく、政治にあります。

日銀総裁が未だ決まりません。
誤解を恐れずに言えば、
「(現実的な範囲で選ばれる総裁候補なら)誰でもいい。空席になってしまうよりは」
そう思いませんか?

道路特定財源の一般財源化・・・こんなの当たり前です。
いまどき、道路があることによる恩恵を受けていない国民なんてほとんど居ません。
口に入れるものすべて、生活するために必要なモノすべて、道路を使って輸送されてくるわけです。

つまり、「ある部分では、自民党に賛成だが、またある部分では民主党に賛成」という状況がこの国の最大の問題なのです。
解散総選挙があったとしても、有権者は「間違いなくこっちだ」と選べないですよね。
だから、「選択」なる超党派が動き出すわけです。
この政治の混乱が、この国にとって、米国のスタグフレーションより、(対ドルの)円高より、大きな問題です。

結局、政治も、経済も、人の心が動かします。
人が将来に対して不安を感じるとき、実際の価値下落以上の価格下落が起こります。
ある事象の「悪い側面」ばかり意識するようになります。
けれど、その事象による「良い側面」は必ずあります。

「悪い側面によるマイナスの経済効果」 > 「良い側面によるプラスの経済効果」

であることは間違いありませんが、だからといって、「悪い側面しかカウントしない」というのでは、私たちすべてで、私たちの首を絞めているようなものです。

「将来に希望を!」
ということで、このドル安パニックの中でも、「次のことを考えよう!」という提案をしたいと思います。
このエッセイに続き、もう一つのエッセイを書きました。

「環境立国日本!」を国民みんなで取り組んでみるのはいかがでしょうか?
そこにはビジネスチャンスがあり、地球温暖化対策に効果があり、皆が楽しみながら参加でき、そして何より、将来に希望を持てる何かを始めることができると思います。

2008年3月14日 板倉雄一郎





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