板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「堀会長からの回答」

先日のエッセーITAKURASTYLE 「堀会長への手紙」について、株式会社ドリームインキュベータ代表取締役会長堀紘一様から丁寧な回答の手紙をいただきましたので、同社の了解を得た上で、その全文を下記に開示させていただきます。
(同社ウェブサイトにも、僕の手紙と、同社からの回答が掲載されています)

なお、同社に関する更なる僕の意見は、このエントリのPS部分(=エッセーの最後)に記載させていただきました。

=====堀会長からの回答=======

板倉雄一郎様

株式会社ドリームインキュベータ
代表取締役会長 堀紘一

この度は株主として、わが社の配当政策に対して貴重なご意見を頂き、有難うございます。

「配当するべきでない」との板倉様のご意見は財務理論的には一つの正論であり、経営陣も当初は板倉様のような考え方で創業から第5期までは無配でおりましたが、第6期に1株2,000円の初配当を実施し、第7期には1株3,000円の配当を予定しております。配当については色々な考え方があり、またわが社の置かれる状況も鑑みて、そのような方針でおりますが、その背景にある考え方を、以下に述べさせて頂きます。

1.貸借対照表重視へのシフト
当社の売上高構成要素の内、コンサルティングサービス売上高は期中にストレートに出てきますが、営業投資売上高は2~3年前に仕込んだものが反映されるというのがわが社の財務構造の特徴です。営業投資のウェイトが高まる中で株主利益を最大化するためにはどうしたらよいか検討を重ねてきた結果、今後は損益計算書よりも貸借対照表をより重視する経営姿勢に転換することに致しました。

わが社の場合、創業以来、投資が先行する中で資金は常にタイトな状況で推移しておりましたが、東証一部昇格後の2005年11月の公募増資で56億円を調達し、有望ベンチャーへの投資を積極的に行って参りました。その結果、未公開ベンチャーへの投資は、減損や引当を含んだトータルで、創業以来の年利回りで約50%のリターンを上げてきております。実質無借金ですので総資産130億円は実質的に純資産(株主にとっての持ち分)を意味しますが、1株当りの純資産は創業以来、年利回り約30%で成長してきております。直近の現預金等流動性は約50億円保有しており、今後一層、資本効率を高めていくために、この手元流動性をどのように有効活用していくかを、最近行った幹部合宿においても、重要な論点の一つとして議論しました。

2.資本効率の向上
貸借対照表を重視する上で、次のような考えで資産毎に資金を振り向け、より効率的に資本を活用していきたいときたいと考えております。
① 未上場企業株式
引き続き、積極的に投資していきます。但し、投資を焦る余り、成長性を見込みにくいベンチャーへ投資することのないように、留意して進めて行きます。
② 上場企業株式
ライブドア・ショックから1年が経過し、新興市場の株価水準が低下してきており、中にはきっちりと成長しているにもかかわらず、未上場の類似企業よりも割安になっているケースが出てきております。そのような銘柄がある場合に限り、一部資金をこうした上場株式にも振り分けることにより、資本効率を向上していきます。2007年3月末現在で、約6億円を投資済みです。
③ 現預金等の手元流動性
市場金利が反転しつつあるとは言え、実質的には引き続き0%に近い金利水準であり、今後、急速に市場金利が高騰することも見込みにくい中、足下の現預金はなるべく圧縮していきたいと考えております。

わが社の知名度や活動に対する信頼が高まってきていることもあり、優良ベンチャーからの引き合いが増加しており、また投資シェアについても、以前は数%の投資が殆どでしたが、最近は10%から20%未満の大型投資も急速に増加しているところです。つれて、良質のインキュベーションや投資に伴う未上場株式も順調に積み上がっているところです。手元に残している現預金等のうち8~9割は①の未上場企業株式へ、1~2割は②の上場企業株式へ回していく目処を付けており、そのことによって、株主にとっての純資産がより効率的に成長していくことを期待しています。

一方、そのまま推移すると、現預金が不足してくる可能性もありますが、その頃にはわが社の支援先で東証一部へ上場している銘柄も増えてきていると思いますので(これまでの支援先IPO 9社のうち、東証一部昇格は現在2社)、その株式を担保に金融機関からの借入を行うことで、デット・エクイティ・レシオを変えていこうと考えております。すなわち、レバレッジを効かせることによっても株主の投資利回りを向上させていきたいと考えており、当面の資金繰りに関しては、公募増資ではなく、手持ちの現金と健全な範囲での銀行借入で賄っていく予定です。


3.上記を前提とした配当政策
株主の中には、板倉様のように「配当するべきでない」というご意見とともに、「配当するべき」とのご意見も根強いものがあります。昨年の株主総会においても、経営からの2,000円配当提案に対して、株主から「増配の修正動議」が出されたり、最近の機関投資家向け説明においても、「配当は望ましい」旨、国内・海外の超巨大機関投資家からもそれぞれご意見を頂戴しております。

様々な株主からのご意見とともに、先に述べた経営上の軸足シフトを勘案し、配当についても、より貸借対照表を重視していきたいと考えております。多くの企業では、損益計算書のボトムラインである当期純利益に対する配当総額の比率である「配当性向」を重視するのが一般的ですが、最近は「DOE」(株主資本配当率=配当総額÷株主資本)という考え方も出始めており、貸借対照表を重視する経営へとシフトする場合、配当はこのDOEをベースに考えた方が、株主にとってより合理的であると考えております。

DOE水準をどの程度にするかは、その時々の手元流動性や業績、財務状況等を勘案しながら検討してまいりますが、2%以上は維持していきたいと考えており、2007年3月期は3,000円配当(DOE≒2.3%)を実施したいと考えております。


==========以上==========

堀会長および同社の利害関係者の皆様、
丁寧なご回答、ありがとうございました。


読者の皆様は、以上の「回答内容」、および、
「回答をいただいたこと」について、どう思われますか?

「回答をいただいたこと」に関して、
少なくとも、株主に対する対応に関して言えば、
同社は、僕の知る限り、4000社程ある上場企業の中で、
数少ない「真っ当な」企業だと思います。
特に、代表者堀会長の株主と向き合おうとする姿勢は、
すばらしいと、僕は感じました。

2007年4月10日 板倉雄一郎

PS:
それでも数パーセントの配当利回りが欲しい!という読者の方へ、
ならば「株式投資」ではなく「債券投資」をお勧めします。
債券の場合「配当=利払い」は、法的に約束されています。

配当が「悪」ということではありません。
その企業が「成長期(=再投資対象を見つけられる状態)」にある場合、
配当より再投資による複利効果を得た方が、
株主価値の最大化になるということなのです。
たとえば、
「繊維会社」のような「成熟期」または「衰退期」の企業であれば、
配当可能利益の大部分を配当すべき(=配当性向を高める)ですし、
東証マザーズに上場している企業のような「成長期」の企業の場合、
配当ではなく、再投資によって、株主価値を高めるべきなのです。

もし、同社の投下資本利益率が年率50%もあるのなら、
今回配当する3億円は、
10年後には、173億円もの株主に帰属する内在価値になります。
(もちろん、年率50%を今後も維持できればの話ですが)

理想的な事例をご紹介しましょう・・・

マイクロソフトは、2004年まで配当を行っていませんでした。
また、バークシャーハサウェイは、1967年に一株あたり10セントの配当を、たった一度だけ「間違って」行ったことがあります。
このことについて、同社の会長ウォーレンバフェットは、「トイレに行っていたんだよ」と表現するほど、間違った資本政策であった事を認めています。
マイクロソフト(MSFT)やバークシャー(BRK-A)の超長期の株価推移をご参照ください。
長期の株価推移は、一株あたりの株主価値をトレースします。
また、下記の株価チャートは、
日本の証券会社がデフォルトで設定している「リニア」表示ではなく、
米国の証券会社が主に採用する「ログ(対数)表示」なので、
後半、株価が「伸び悩んでいる感じ」がすると思いますが、
違いますので、ご注意ください。


バークシャーハサウェイ(1990~2007)株価チャート

 

マイクロソフト(1986~2007)株価チャート
これは、理想論ではなく、「現実に起こっている理想」なのです。

バークシャーが理想を現実化させた一つの大きな原因は、
同社会長のウォーレンバフェットによる継続的な「投資家教育」にあります。
同社ウェブサイトからバフェットの言葉が発信されるばかりではなく、
ネブラスカ州オマハ(のド田舎)のスタジアムで毎年行われる同社の株主総会には、万という単位の株主が集まり、6時間以上、株主とバフェットの質疑応答が繰り広げられます。
バフェットが「今期も配当は行いません」と発言すると、スタジアムは株主からの「歓声と拍手」に包まれるそうです。
(注意:バークシャーは、配当は行いませんが、余剰現金があり、且つ、自社の株価が割安だと判断すれば、直ちに自社株買いを行います。極めて合理的な経営判断です。)

僕は、「財務理論ゲーム」をしているのではありません。
ドリームインキュベータには、
以上の理想を現実化させる「可能性」があると思うからこそ、
こうしてしつこく主張しているのです。

最後に、僕の同社に対する投資姿勢について・・・

「年率50%が得られる投資対象だとすれば、
 その権利を誰かに譲渡するつもりはありませんし、
 その投資対象から1円たりとも引き出そうとは思いません。」

後段については、「極少数株主」の僕の一存では決められず、
同社の株主総会議決権の過半数が必要なのです。
(今回の配当政策を、いまさら取り消すことはできませんが、
 来期以降の可能性について書いてみました。)





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