板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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ITAKURASTYLE「内部抵抗」

自動車などのエンジンは、燃料の酸化による熱エネルギーを動力としますが、そのエネルギー効率は「良くて三割程度」とされています。

その大きな原因の一つに、エンジンがエンジン自体を回すための内部抵抗があります。

皆さんも、バイクのスタートキックの「重さ」などを通じて「内部抵抗」を肌で感じたことがあると思います。
エンジンは、エンジン自体を回すためにも燃料を消費しているというわけです。

エンジンと同様に、企業(組織)にも「内部抵抗」を観察することができます。

たとえば・・・

最近の当事務所における(お恥ずかしい)実例ですが、当事務所の組織も、内部のパートナーだけではなく、セミナー一般卒業生、プレミアクラブ会員、業務提携先などを合わせると1,000名近くの組織になります。

すると当然ながら、各種の事務手続きに関するコミュニケーションが少なくとも以前よりは煩雑になります。

メールアドレスの変更、各種メーリングへの参加/離脱、プレミアクラブなど有料会員への参加/離脱、決済手段の登録/変更、各種セミナーへの問い合わせ、などなどそれなりに多くの業務が発生します。

当初、特に意味も無く、それぞれの問い合わせ先メールアドレス(←事務所アドレス)を、業務項目毎に設定し、セミナー卒業生などの利用者が、その目的に合わせてメールアドレスを選んでいただくという、全くもって非合理的で、非顧客満足的なバカバカしい方法によって業務を進めていました。

よく考えるまでも無く、当事務所の業務を担当する者は、担当が分かれているとはいえせいぜい3人ですから、

『だったら、一つのメールアドレスで受け付けて、内容によって内部で割り振ればいい』

と言うことには、誰でも気がつくと思います。

さっそく、

「一つの事務局メールアドレスにて、業務を一括で引き受けるように」

という指示をしました。

その結果、それまでの事務手続きに関する案内文・・・

「~は、(メアド①)にて、
 ~は、(メアド②)にて、
 ~は、(メアド③)にて、」
 (↑ 実際の案内はもっと長い)

という案内の必要がなくなりました。

ところが!

業務担当者によるメアド一括化後の案内が・・・

「~は、(メアド①)にて、
 ~は、(メアド①)にて、
 ~は、(メアド①)にて、」

となっていることに気がつき、僕は激怒(←ちょっと大げさ)したわけです。

本来、

「~や、~や、~などの各種事務手続きは、すべて(メアド①)にお寄せください。」

という「ワンフレーズ」に収まるはずなのに、元の文章のメアドだけを変更しただけの文章に「仕事になってないジャン、ただの作業ジャン」と、いらだったわけです。

ここまで読んでいただいて、

「なにも激怒するほどのことではないのに」

と思われる読者の方も多くいらっしゃると思います。

確かに、業務担当者にしてみれば、「間違えないようにしっかり」元の文章を変更したのだと思いますし、文章を受け取る側にしても、「なるほどとにかく(メアド①)ですべての手続きが行えるわけね」と理解できるとは思います。

しかし、「その些細なこと」は、案内を受け取る側の人数が、1,000名にもなれば、

1、余計な文章を読む時間 × 1,000名分
2、「結局伝えたいのは一つのメアドね」と理解するまでの時間×1,000名分

ですから、全体としては、極めて大きな「内部抵抗」となってしまうわけです。
それに引き換え、文章を簡略化するための「(作業ではなく)仕事」に要する時間は、おそらく「数分×担当者1名分」ですから、比較するまでもありません。

確かに以上のような一つ一つの内部抵抗は、コストに換算すれば「たいしたことは無い」のかもしれません。

しかし、顧客満足度の低下、事務所内部の仕事効率の悪化につながり、それが年々「積みあがれば」、大きなロスになりえます。

そして、そのロスは会計上、「単なる利益率」に結果として現れますが、その利益率が「本来もっと高いはず(またはもっと安い価格で商品を提供できる)」ということにさえ、「気がつかない場合」も考えられます。

「原材料価格の高騰によって利益率が下がった」であるとか、
「従業員への配分を増やした結果利益率が下がった」であるとかのように、「因果が明確なこと」については、誰が見てもわかることです。

また、「経費削減のために蛍光灯を必要なときにだけ点けよう!」といった「従業員のコスト意識向上」も、努力は必要ですが、やろうと思えば誰でもやれることです。

しかし、ITインフラが進化し、コミュニケーションに大幅なレバレッジが効くようになった現在、以上のような「内部抵抗」は、益々わかりにくくなってきていると思います。

これを解決するには、「関わるすべての人々の本質的なコスト/効率意識」が求められるのだと思います。

以上のような考えに基づき、一つ一つはたいした問題ではないが、それが将来永劫続くとすれば、その損失の割引現在価値は決して小さくないと感じる僕は、「一時的な大きな損失」より、「長期に続く可能性のある些細な問題」の方に大きな関心を持つというわけです。

以上、事務所内部のお恥ずかしい話ではありましたが、読者の皆様にとって何らかの参考になされば幸いです。

2008年6月25日 板倉雄一郎





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