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企業と法律 第25話「取締役の責任」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの森です。

今週は、株主総会ウィークです。今年は委任状争奪戦が多いのが特徴でしょうか。実は、上場会社の委任状争奪戦は、当事者が勝手気ままに行っているのではなく、法令に則って行うことになっています。金融商品取引法では、法令に定めるところに違反して、上場会社の議決権の代理行使を勧誘することを禁止しています。

委任状争奪戦の対象となっている株主総会で最も重要な議案は、取締役の選任議案です。前回のエッセイでも取締役の選任議案が否決された例をお伝えしました。

選任議案の賛否では、通常の取締役と社外取締役は区別されることが多いです。今回は、通常の取締役と社外取締役の違いを考えつつ、取締役の責任についても考えてみたいと思います。

6月22日付けの日経ヴェリタス23面に、「社外取締役は株価の支え? 企業統治を重視、外国人投資家の人気高く」という記事が掲載されていました。この記事では、社外役員(社外取締役と社外監査役)のそれぞれの取締役会の出席率を単純に合計した数を「活躍度」と名付け、この活躍度と外国人保有比率や株価の騰落率の関係を調べています。

この記事では、
「社外役員の活躍度と株価騰落率との間には、あまり強い相関関係はなさそう。…株価を決める要素は極めて多く、単に社外役員が大勢いて積極的に取締役会に出席したからといって、株価が上がるわけではないという、常識的な帰結になる。」

「(外国人投資家の出資比率と社外取締役の活躍度の)両者に強い相関関係があるようには見えない」としながらも、いずれについても近似曲線がわずかに正であることから、「社外役員が活躍する会社の邦画、株価の下がり方が小さいというおぼろげな関係を示している」

「社外取締役が活躍している企業の方が外国人の株式保有が多い傾向をうかがわせた」という結論を導いています。

この結論から冒頭のように表題を「企業統治を重視、外国人投資家の人気高く」と記載することが適切かはさて置き、この記事では、社外取締役の中には、取締役会の75%に出席していない取締役が152人中18人おり、十分な職責を果たしていない可能性があることに言及しています。

このように取締役が取締役会に十分に出席していないケースは現実にはあります。この場合の取締役の責任については、法律上どのようになっているのでしょうか。

そもそも取締役の任務とは、何でしょうか。

取締役会設置会社の場合、取締役は、取締役会に出席し、業務執行の決定を行い、代表取締役等他の取締役の職務執行を監督することが任務です。

また、取締役会から業務執行の委任を受けた場合を含め、会社に対して、忠実に職務遂行する義務を負います。

取締役が会社と利益相反する行為をした場合、会社に損害を与えると、その取締役は、損害賠償義務を負います。

また、ある取締役が利益相反取引を行うことに、取締役会決議で賛成した取締役は、自ら利益相反取引を行っていなかったとしても、原則として損害賠償義務を負います。

社外取締役は、過去にその会社や子会社の役員や従業員になったことがない人が新たに取締役に就任した場合の取締役を指しますが、基本的には通常の取締役と何ら変わりません(最低責任限度額や責任制限契約等が異なります。)。

一般的には、その会社の独自の論理や文化、しがらみに染まっていない人物の視点から、代表取締役等の業務執行を監督することが期待されています。

取締役が取締役会に欠席すると、それ自体、取締役としての任務懈怠(にんむけたい)です。

社外取締役であっても同じです。取締役会の欠席自体が、会社の損害と因果関係を有するケースは必ずしも多くはなく、1度の欠席がすぐに損害賠償責任に結びつくことは稀かもしれませんが、欠席が多いと本来期待されている責任が果たせておらず、監督が不十分であった(善管注意義務違反)と評価されるケースも増えるかもしれません。

お金を稼ぐ方向での業務執行は、基本的に代表取締役やCEOが行います。社外取締役は、実行すべきではない投資や取引を諌(いさ)めることや、会社に重大な危機をもたらすような状況を回避する体制を提言することが期待されており、そのような意味で、適切な社外取締役が選ばれているのかが重要です。

ただ、取締役としての能力が優れているか否かという点でさえ、見抜くのは難しいのに、社外取締役が監督者として優れているかを外から推し量るのは非常に困難かもしれません。

出席率の多寡のみで判断することはできませんが、出席率は、ある程度、その社外取締役の会社への誠実さのバロメーターとなるかもしれません。

ちなみに、過去に取締役の責任が問題となった事件は少なくなく、旧大和銀行のニューヨーク支店巨額損失事件に関連して、大阪地裁が現・元取締役11人に対して、総額約829億円の損害賠償を命じる判決を下したのを覚えていらっしゃる方も多いと思います。

当時、個人が負うにはあまりに大きすぎる金額が話題となりました。この事件以降、責任限定制度やD&O保険(会社役員賠償責任保険)が充実しているものの、取締役の責任の重さは、今も変わることはなく重いものなのです。

P.S.
先週の日経新聞では、金庫株は将来、市場に放出される懸念があるため、株主や投資家からは消却を求める声が強まっているという趣旨の記事がありますが、過去にもお伝えしているように、「市場に放出される懸念」とは、何なのでしょうか。

法的にも、自己株式の処分と新株発行は同じ手続で行うものですが、経済的にも、会社にお金が入って、株式を第三者に交付するという点で、全く同じです。金庫株が市場に放出されるのが懸念されるのであれば、会社は、公募増資ができなくなります。。。

金庫株について、あえて懸念すべき点があるとすれば、時価総額の計算の際に、金庫株の株式数は含めないようにするべきであるのに、含めて計算している例が世の中に少なからず見受けられるという点でしょう。

この問題については、本来は、時価総額を計算する側で解消すべき問題ですが、世の中に時価総額の計算の際に金庫株の株式数を含めているケースがあるため、発行会社側で消却すれば、投資家にとってわかりやすいということは、言えるかもしれません。

<参考エッセイ>
企業と法律 第19回「よくある勘違い?!(自己株式ふたたび)」
企業と法律 第9回「自己株式」
BTB 第2回「自社株買い」

2008年6月24日  M.Mori
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