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企業と法律 第37回「オバマ政権誕生によせて」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセーにお付き合いください。)

今回のテーマは、「オバマ政権誕生によせて」です。

オバマ新大統領は、アメリカ史上初めての有色人種大統領ということで、大変な注目を浴びています。その演説は聴くものを魅了し、その立ち振る舞いは見るものを惹きつけて止みません。現時点での支持率は80%を超え、就任前の大統領として史上最高を記録したそうです。彼は、アメリカ国民のみならず、世界中に希望を与えており、現にその行動によって多くの影響を与えるでしょう。私自身、オバマ大統領誕生に多くの希望を与えられた者の一人ですし、今後の活動に期待しています。

今回は、オバマ政権が誕生したことによって、政治経済にどのような影響があるかというテーマのヒントになる話ができればと思っています。企業と法律とは、残念ながら直接は関係ありませんが、間接的に関係するということで、お許し下さい。なお、私は、この分野の専門家ではありませんので、素人の分析であることを最初にお断りしておきます。

 

1.オバマ政権を取り巻く現状に似ていた過去のアメリカ大統領

さて、これからの日本企業の業績を考える上で、マクロ経済、とりわけアメリカの将来を考える必要があるのは、異論のないところだと思います。

今回は、アメリカの今後の変化を考えるためのヒントとして、過去を紐解いてみたいと思います。

まず、クイズです。 

問題:以下の条件を満たすアメリカの過去の大統領は、誰?

① 前の大統領の時に、恐慌が起きた。
② 民主党に所属。前の大統領は共和党であった。
③ 恐慌の克服を期待されて当選し、大統領就任後は公共事業による雇用の創出を行った。
④ 社会不安を解消するために、保険などの社会保障制度、累進性を考慮した税制改革(お金持ちには増税、そうでない人は減税)を充実させた。
⑤ アメリカ国民からの人気が高い。

 

 

 


 

答え:第32代大統領 フランクリン・D・ルーズベルトです。
(以下、ルーズベルトとの記載は、全てこのルーズベルトです。)

この大統領は、1933年3月に大統領に就任しました。就任当時は、1929年11月に発生した大恐慌、及びその後の対応(関税の引き上げによる保護貿易)により欧米を中心に起きたブロック経済化の真っ只中です。アメリカ国内で倒産が相次ぎ、失業者が溢れる中で登場した民主党政権です。彼は、ニューディール政策を実行し、ダム開発などの公共事業で回復を図ろうとします。また、累進課税の推進や労働者保護政策を実施しており、国内的には比較的リベラルとされる政策を実施しています(※1)。

ルーズベルト政権の誕生は、状況的にオバマ政権誕生と近いところがあります。また、特に経済的観点から注目されるのは、ニューディール政策です。ニューディール政策の評価については賛否を含め諸々あるようです。結果として、アメリカ経済はルーズベルト時代に大幅に回復しますが、多数派の意見としては、ニューディール政策の成果というよりはこの後に紹介する外交上の出来事に由来するということのようであり、ニューディール政策そのものはどうやら大きな成果を上げたわけではないとのことです。

この点は、オバマ政権のグリーンニューディールの成果を予想する時にも考慮しておくべき点だと思います。オバマ大統領自身、就任演説において、現在の経済危機が深刻であり、短期間で解決できるものではない(しかし、アメリカは解決できる)旨を述べています。実際に、現在アメリカが陥っている経済危機はそれほど簡単に回復するような代物ではないでしょう。いくら多額の公共事業を行うとしても、国家財政の範囲内で行うものである以上、限界があります。シンプルに言えば、政権が変わったからといって、アメリカ経済がそんなに劇的には回復しない可能性が最も高いということです。


2.ルーズベルト政権の外交

では、またクイズです。

問題:このルーズベルト政権時代の主な外交上の出来事は何でしょうか?

 

 

 

 

 


答え:第二次世界大戦です。

ルーズベルト政権の外交の特徴は、中南米に対する善隣外交(ブロック化)と対日敵視、対中支援(中国国民党への支援)であり、実際に日系人の強制収容という差別的政策を行い、日本への圧力を強めて、最後には、第二次世界大戦へ参戦していきます。

オバマ政権が対日敵視政策をとるとは思えません。ただ、戦争の可能性について考えた場合、経済的な観点からだと、グリーンニューディール政策が大きな成果を上げなかった場合に、「戦争」という方向へ移行する可能性は、頭の片隅においておいた方がよいかもしれません。

ルーズベルト政権時代には、第二次世界大戦参戦による軍需の増大によってアメリカ経済は回復し、失業者も減ったようであり、アメリカ人やアメリカの経済がこの時代の記憶に頼って戦争を望む可能性は否定できません。但し、第二次世界大戦の時代と現代では、戦争が経済に与える影響は異なることにも注意が必要だと思います。(特需が起きるとは限らず、逆に疲弊をもたらすこともあり、少なくとも特定の分野(軍需産業)のみに特需が起きる可能性が高い。)

ちなみに、参考としてですが、アメリカの政党別に大きな戦争を考えてみると、下のようになります。

20世紀以降のアメリカが直接参加した主な戦争は、
①第一次世界大戦、②第二次世界大戦、③朝鮮戦争、④キューバ危機、⑤ベトナム戦争、⑥湾岸戦争、⑦対テロ戦争(アフガニスタン・イラク)があります(※2)。

これらの戦争の開戦時の大統領は、
① 第一次世界大戦:ウィルソン(民主党)
② 第二次世界大戦:フランクリン・ルーズベルト(民主党)
③ 朝鮮戦争:トルーマン(民主党)
④ キューバ危機:ジョン・F・ケネディー(民主党)
※戦争ではないが、フルシチョフが譲歩しなければ第三次世界大戦になる可能性が高かった。
⑤ ベトナム戦争:ジョンソン(民主党)
⑥ 湾岸戦争:パパブッシュ(共和党)
⑦ 対テロ戦争(アフガニスタン・イラク):ジョージ・W・ブッシュ(共和党)

20世紀は、共和党大統領と民主党大統領の期間は、だいたい半分ずつなのですが、上記のようになっています。アメリカの対外政策は、ハト派・リベラル・民主党⇔タカ派・保守・共和党 という構図はあてはまらないという点に注目していただければと思います。


3.ルーズベルト政権とオバマ政権の相違点

ルーズベルトとオバマでは、勿論の事ながら異なる点もあります。

① 恐慌が起こってから当選するまでの期間が短い(民主党的(ケインズ的)政策にスイッチするのが早い)ため、救済策が功を奏する可能性がより高くなる。
② いまのところブロック経済化の動きはない。
③ ルーズベルトは人種差別的感情(とりわけ日本人に対する差別的感情)を有していたようであるが、オバマは人種差別主義者ではなさそうだ。
④ 世界に、ファシズムが台頭している国はないか、あったとしてもそれほど強国ではない。
⑤ そもそも経済を取り巻く状況や世界経済の一体性が異なる。

といったところでしょうか。

これらの違いをどのように解釈するかで、オバマ政権がアメリカ経済に与える影響も違ってくると思います。目先は、国内では、GMをはじめとする自動車業界問題、引き続き残っている金融機関の破綻危機、外交では、イスラエルのガザ進行、イラク戦争、アフガニスタン戦争、対イラン政策、北朝鮮問題、対ロ政策あたりでしょうか。これらの問題への対応で、徐々にオバマ政権の方針が読み解けてくるかもしれません。

 

4.雑感

ウォーレン・バフェット氏は、今回の恐慌について"Economic Pearl Harbor"と言っており、現状は、第二次世界大戦や大恐慌の時ほどじゃないが、相当厳しいと見ているようです。

とにかく、今は、オバマ政権への期待がとても高くなっており、この期待に応えられるとすると、本当に素晴らしい大統領ということになると思います。

一方、高い期待が裏切られたと国民が感じた時に、アメリカの政治不安・経済不安が増大する可能性があるように思います。歴史的にみると、景気後退時において、戦争の可能性が高くなるのは否定できないように思いますし、内政上の混乱や治安の悪化等も生じる可能性も高くなるように思います。

投資家にとっては、不安が増大するきっかけ等を投資や投資のリスクヘッジに生かすことを迫られる場面も来ると思います。このような局面では、オプション取引や、オプションボラティリティー等への理解が投資の成否を分けることも少なくありません。オプション等への理解を深めたい方は、今週末のセミナーへどうぞ。

※1 当時のアメリカでは現代国家には普通の社会保障政策がほとんどなかったようであり、ルーズベルトの社会保障政策がそれほど革新的かは不明です(当時のアメリカとしてはリベラルな政策だったと思われます。)。ちなみに、今でもアメリカには、日本のような国民健康保険制度(国民皆保険)はないため、オバマ政権は全ての米国民が保険でカバーされることを目指すことを公約しています。ただ、基本的に任意加入(子供の保険加入を親に義務付け)で対応するようです。アメリカの医療保険制度の問題点は、マイケルムーア作の「シッコ」という優れたドキュメンタリー映画に描かれています。

※2 他に軍事力の行使がなかったわけではない。紛争への武力介入や人質救出等の場面で利用されていた。また、冷戦があったため、冷戦に備えた軍事力強化は、程度の差こそあれ、滞りなく続けられていたといえる。

 

2009年1月22日  M.Mori
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