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企業と法律 第33回「パナソニックの三洋電機買収に立ちはだかる壁 その1」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセーにお付き合いください。)

みなさん、こんにちは。板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

既に、当事務所のShibuyaパートナーがエッセイとして取り上げていますが、今月7日、パナソニックと三洋電機が資本・業務提携に関する協議を開始したと発表しました。初めての国内電機メーカー大手の買収再編ということで非常に注目を集めています。

今回は、この買収にあたり、両社が乗り越えなければならない法律上の壁について考えてみたいと思います。

一般的に、買収において、解決しなければならない法律上の問題は、会社法や金融商品取引法上の手続きに始まり、雇用関係、取引先との関係等、非常に多岐にわたります。今回は、その中でも、特に問題となりそうな点として、①独占禁止法、②TOBと種類株式について、検討したいと思います。


1.現状の整理

基本的な現状は、先日のShibuyaパートナーのエッセイを参照していただくのがよいと思います。

両者のプレスリリースでは、

「様々な選択肢を念頭に、パナソニックによる三洋電機の子会社化を前提とする資本・業務提携の成立に向けて精力的な協議を進めてまいります。」

とあります。

また、報道によると、パナソニックの大坪社長は、「過半の株を取得したいが、どういう形がいいかは今から協議を進めていく」とのことであり、パナソニックは、完全子会社化を目指していない可能性が高いと思われます。

ということは、種類株式だけで、約7割の議決権がありますので、パナソニックからすると、法律さえ許せば、子会社化のためには、種類株さえ取得できれば、それでオッケーということになります。(普通株式をTOBで取得して、第三者割当増資を引き受けるという方法も理論上はありえますが、現実的ではないように思います)

そうすると、一番シンプルな買収方法は、種類株主である三社から、種類株式を買い取るということになります。この点、TOBを期待して三洋の普通株式を購入すると、実は、TOBされず、パナソニックに買ってもらえなかったということにもなりかねませんので、要注意です。

従って、法律上、種類株主である三社から、種類株式を買い取る場合に、TOBが必要になるかどうかを検討する必要があります。この点は、次回、TOB規制との関係で、検討します。


2.独占禁止法

独占禁止法というのは、一般には少しなじみの薄い法律ですが、市場主義経済を前提とする社会においては、非常に重要な法律です。

独占禁止法の目的は、「事業支配力の過度の集中を防止して、」「公正且つ自由な競争を促進し、」「国民経済の民主的で健全な発達を促進すること」とあります。簡単に言えば、生産者(供給者)が独占状態や寡占状態を作り出せば、値下げ競争や製品開発競争をしなくても、言い値で買ってもらえる可能性が高くなりますので、生き残りやすくなります。

特に生活必需品の場合は、高い価格でも消費者は買わざるを得ないからです。しかし、これでは、消費者が困ります。消費者にとっては、健全な競争が起きているからこそ、値下げ競争もおき、安い値段で、商品が買えるのです。最近、私は、ようやく薄型テレビを買いましたが、そのクオリティーの高さに驚くばかりです。その薄型テレビは、家電量販店に行くと、季節毎にどんどん価格が安くなっています。使われている技術、製造工程等を考えると、あんな値段で買えてしまって、よいのだろうかというぐらい安くなっているように思います。

世の中に、テレビを作る会社が一つしかなければ、家電量販店が一社しかなければ、こんな安い値段にはならなかったでしょうし、技術開発も進まなかったでしょう。

ところで、独占禁止法では、価格カルテル等の価格維持行為はもちろん禁止されていますが、企業の買収等の独占的寡占的状態を作り出すような企業結合も禁止されています。

独占禁止法第8条第1項
事業者団体は、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。
一  一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。
(以下、略)

独占禁止法第9条第1項
他の国内の会社の株式(社員の持分を含む。以下同じ。)を所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社は、これを設立してはならない。

独占禁止法第10条第1項
会社は、他の会社の株式を取得し、又は所有することにより、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合には、当該株式を取得し、又は所有してはならず、及び不公正な取引方法により他の会社の株式を取得し、又は所有してはならない。

これらの条文を読むと、「事業支配力が過度に集中すること」とは、どういうことか、企業結合が「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」となるか否かについてはどのように判断するのか、良く分かりません。そこで、法令や運用指針で、ある程度の基準が定められています(※1)。ここでは、ある一定の取引分野で、より独占的傾向が大きく強まるような方向での企業結合は原則許されないと思っていただければよいです。

今回の両社は、事業規模が相当に大きく、他の事業者への影響も甚大、相当数の事業分野において有力な地位を占めており、また、商品の範囲、地理的範囲から見て、ある取引分野で独占的地位を占めているものもかなりあるのではないかと思われます。

しかも、電池のような生活必需品もかなりありそうです。商品数も多い両社で、それぞれの商品(取引市場)について、独占的状況になるかどうかを検討する作業は、相当大変だと思われます。しかも、両社は、海外にもそれぞれかなりのシェアを持っていますので(恐らく、リチウムイオン電池等は海外でもシェアが大きいのではないでしょうか)、欧州委員会や米国の連邦取引委員会にも相談しなければならないかもしれません。これは、並大抵の大変さではないと思います。

日本の独占禁止法についての最終的な判断は、裁判所になりますが、第一次的には、公正取引委員会が行います。今ごろ、この資本提携を担当している法務部の方や担当弁護士は、公正取引委員会に相談に行かれているのではないでしょうか。

私は、両社の事業内容や取扱商品、そのシェアを分析したわけではありませんので、どの程度、独占禁止法が今回の資本提携の障害となるかはわかりませんが、今回の案件は、日本の過去のM&A案件の中でも、最も大変な部類に属する可能性は高いと思われます。

場合によっては、三洋の事業の100%を買収することはできないかもしれません。最終的に、必要な一部のみを子会社化する可能性もありますので、要注意です。

(続く)

※1:例えば、水平的企業結合の制限については、ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)が利用されています。HHIは、当該一定の取引分野における各事業者の市場シェアの二乗の総和によって算出されます。企業結合後の値が1,500以下だと大丈夫とか、増分が250以下だと大丈夫という使われ方をします。


2008年11月18日  M.Mori
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