板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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企業と法律 第1話「コンプライアンス」


みなさん、はじめまして。
今日から、エッセイを担当させていただくことになりましたMoriです。

私の担当は、「法律」です。

そこで、ファイナンスと直接関係無い場合もあるかもしれませんが、法律家の観点から見た社会について、連載させていただく予定です。お読みいただいた方々が世の中をよりよく見えるようになるための一助となるようなエッセイを続けて生きたいと思っています。どうか、お付き合いの程、宜しくお願いいたします。

今回は、「コンプライアンス」です。
数年前から、企業不祥事に絡めて、コンプライアンスについて、いろいろと言われるようになりました。「会社は、法令順守しなければならない」「コンプライアンスは、会社にとっての生命線である」等の話です。いまも、新聞や雑誌でよくとりあげられています。

コンプライアンスとは、何でしょうか。コンプライアンスは、よく法令順守と訳されていますが、法律を守ることが重要だということなのでしょうか。法律以外にも守らなければならないとすれば、他にどんなルールを守れというのでしょうか。それを考えるためには、そもそも法律とその他のルールとの違いを知る必要があります。
そもそも法律とルールの違いは、何でしょうか。

法律も社会にあるルールの一つです。ルールは、難しい言葉では「規範」と言われたりします。ルールとは、人の行いについて、「?しなければならない」、「?すべきだ」や「?してはならない」、「?すべきではない」という形で、良し悪し等の評価を規定するものです。

例えば、「人を殺してはならない」や「取締役が会社のために忠実に職務を行わなければならない」というのもルールですし、「朝、会社や学校で誰かと会ったら「おはよう」といいましょう!」や「電車内で携帯電話で会話をしてはいけない」というのも、ルールです。

では、法律とルールの違いは何でしょう。











(早速、使ってみました。f^_^;)
答えは、必ずしも一つではありませんが、法律とルールの最も大きな違いに、「国家権力による強制を伴うか」というものがあります。

要するに、法律とは、破ったらペナルティーがあり、警察官や執行官等の国家公務員によって、有無を言わさず、ペナルティーが行われてしまうようなルールです。現在の日本では、最悪の場合は、「死刑」という形で、命までも奪われることになります。取締役が忠実義務に違反した場合も、損害賠償請求をされてしまい、自分の財産が強制的に奪われる可能性があります。

もし、朝に人と会った時に「おはよう!」といわなかった場合、どうなるでしょうか。また、電車内で携帯電話を使用した場合、どうなるでしょうか。

「挨拶のできない人だな」と思われたり、「マナーの悪い人だな」という印象を与えることはありますが、わざわざ警察が出てきたりはしません。また、他人を傷つけたり、他人の権利を侵害したりしない限り、執行官が勝手に財産を持ち去ることもありません。

法律は、このように国民の生活に大きな影響を及ぼしますので、世の中にあるルールのうち、「これを破ったら、国家権力を行使しますよ」というレベルのものしか規定されていません。(ですから、国権の最高機関たる国会のみが立法をすることができるのです。)

コンプライアンスを考える時、会社が守るべきものは、「これを破ったら、国家権力を行使されてしまう」というレベルのルールのみを遵守していて、問題ないのでしょうか。もちろん、そうではありません。

ここまで来ると、「そんなの当たり前じゃないか。わざわざ解説してもらわなくてもいいよ。」、という意見をいただきそうです。その通り、「当たり前」なのですが、会社の経営になると、この「当たり前」が忘れられてしまうことがあります。

会社の経営は、法律に違反していなければ何をやっても良いわけではありません。会社が販売した食品や機器によって、食中毒が発生した場合、事故が起きるかもしれないとわかった場合にどのような行動をとるべきか、法律だけが判断基準ではないことは「当たり前」なのですが、忘れられてしまうことがあるようです。一部のステークホルダーのみのことを考え、他のステークホルダーに害を与える活動は、健全な企業の経営ではないのです。

確かに、企業をマネジメントしていく時に、どのような行動をとればよいか、判断が難しい場合がありますが、残念ながら法律違反を防ぐための方策は、法律には書いていません。コンプライアンスの高い会社の経営とは、法令を字面上守ろうとする行動だけではなく、法律や社会が守ろうとしている価値を尊重し、社会に対して価値を提供しようという行動だと思います。

2007年6月2日  M.Mori
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次回パートナーエッセイは、6月5日(火)にYoshihara氏が担当します。





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