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企業と法律 第3回「所有と経営の分離」


(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
みなさん、こんにちは。
板倉雄一郎事務所パートナーのMoriです。

そろそろ、板倉セミナーらしく、企業法務に関係することを取り扱いたいと思います。

今回は、「所有と経営の分離」です。

株式会社の特徴は、何ですか?という問いの回答は、いろいろあると思います。
『株主の有限責任』という人もいるでしょう。「株主は、出資義務以外に、会社の債務につき責任を負わない」という原則です。これは、間違いなく株式会社の大きな特徴です。このお蔭で、株式投資(現物買い)をしても、投資した金額以上、損をすることはありません(もちろん、信用取引等によるリスクは別の話です。)。

『株式譲渡の自由』という人もいるでしょう。株式会社では、出資持分である株式を自由に譲渡できるという原則です。株主にとって、株式譲渡は、投資により取得した株式をお金に換える極めて重要な方法です(※1)。

株式会社では、持分の払戻し(株式を消滅させて、投資したお金を手元に戻すこと)は、例外的に許されるものであり、基本的には許されません。この原則は、株主の有限責任のお蔭で可能となった原則でもあります。
株主の有限責任

株主の個性(信用力)等は、会社や会社の債権者、取引先、従業員には関係ない

株式譲渡を自由にしても問題ない
ということです。

本日説明する『所有と経営の分離』は、これらの原則と密接に関連し、且つ同じくらい重要です。
『所有と経営の分離』とは、株主は、株式会社の実質的所有者であるにもかかわらず、会社財産を直接運用して経営をする権限はないという原則です。もちろん、株主と会社財産を運用して経営をする人は同じ人が兼ねてもいいですが、株主は、直接経営に携わらず、経営者に下駄を預けなければならないということです。

なぜ、このような原則があるのでしょうか。それは、株主は、経営に携わらないという原則があれば、株主は、会社の経営そのものに直接責任を負うことはなくなります。そこで、誰が株主になってもかまわないという状況が生じます。この状況こそが、誰でも、経営のノウハウがなくても出資できるという状況を作り出すことになり、この状況によって世の中の幅広い人が(お金があれば)出資できるようになります。すなわち、『所有と経営の分離』が、株式市場の大きな基盤なのです。株主が経営に責任を負っていては、なかなか株主になる人はいませんし、株主が変わることで経営に責任を持つ人がコロコロ変わっていたのでは、会社に関係している人(ステークホルダー)は大変です。

分かりやすく言えば、所有と経営の分離とは、株主は「お金を出して経営を依頼する人」、経営者は「株主の依頼を受けて経営をする人」という風に、役割分担を明確にした原則です。実際に、会社法では、株主には、経営者を選ぶ権利はありますが、具体的な経営の内容について主体的に決定する権限はありません。株主は、経営者を選ぶことによって、間接的に経営を左右する存在なのです。

従って、株主に求められる能力は、経営の能力ではなく、経営をしている人(経営者)が自分の財産を適切に運用しているかを見抜く能力となるわけです。逆に、経営者に求められる能力は、株主の意向を汲み取り、株主の財産をより効率よく運営する能力となります(参照:SMU 第129号「経営とは?」)。

板倉さんのエッセイ 「株主総会で何を見るべきか」にもあるとおり、いい会社を選ぶときは、どういう人が株主になっているかが重要であるといわれます。それは、経営者は、株主から選ばれる過程で、株主の意向を汲み取ろうとし、間接的に株主の意見を会社の運営に反映させようとするからです。会社の株主同士は、その会社の経営者に自分の貴重な財産を預けた運命共同体なのです。

株主が経営者を選び、経営者が経営をするのが、『所有と経営の分離』です。間違っても、経営者が株主を選び、株主が経営をするのではありません。
何故、今回この話をしたかというと、巷(?)で話題の攻防で、ある会社の経営陣が、大株主になろうとする人(公開買付者)に対して、「公開買付者らは、・・・会社を経営したことは全くなく・・・」「公開買付者らは、・・・本公開買付け後の当社の経営に対して如何なる方針を有するかについて、現時点において当社の経営を行うつもりはない等と回答する」と述べているのを見て、少し不思議に思ったからです。

先ほども述べたように、株主が経営をするのではありません。株主の権利は、その経営者がその会社を上手に経営できているかという点、すなわち株主の利益の最大化という株式会社の目的に対して合理的なオペレーションができているかという点を判断して、経営者を選ぶことであって、経営をすることではないのです。会社の運営のプロである経営者が株主に対して、「経営したことがない」といっても、しょうがないのです。その株主がいくら大株主であっても同じです。しつこいですが、株主が経営者を選び、経営者が経営をするのが、株式会社です。経営者が株主を選び、株主が経営をするのではありません。

※1 株主がキャッシュを得る方法は、他に、配当や清算後の残余財産分配がありますが、配当は、取締役会が決議しなければならない上、「分配可能額」が必要です。清算後の残余財産分配は、会社の解散後のみ生じる事由です。

2007年6月19日  M.Mori
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