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ITAKURASTYLE「経営者なのか錬金術師なのか」


ひところ人気のあった「IT系ベンチャー」、
ひところ株式が買われた「新興上場企業」、
ひところもてはやされた「起業家」、
彼らは、経営者なのでしょうか、
それとも、個人の経済価値を増やすだけの錬金術師なのでしょうか。
まず、「経営とは何か」について考えて見ましょう。
あくまで僕が定義するところの経営についてですが・・・
一言で表現すれば、
「経営とは株主資本の管理者である」
となります。
株主から資金を預かり、効率よく運用する立場の者・・・経営者。
少なくとも僕はそう考えています。
もちろん、株主以外の利害関係者・・・
顧客、従業員、取引先、債権者、国や地方自治体、
つまり社会全体についての配慮を必要としない、という意味ではありません。
企業の仕組みにおいて、「最も取り分の順序が劣後している株主」は、
以上の、株主以外の利害関係者への便益をしっかり考慮しなければ、
結果として株主価値を最大化することはできません。
ですから、株主価値を最大化するためには、
顧客に満足していただくことによって、継続的に商品を買っていただき、
従業員に気持ちよく仕事していただくことによって、
継続的に優れた労働力を提供いただき、
債権者に経営に対して安心していただくことによって、
安い資本コストで継続的に資金を提供いただき、
取引先に、納品された物品に相応する支払いをすることにより、
継続的に良質な原材料を適正価格で提供いただき、
そして、
税をしっかり支払うことによって、
この国で仕事をさせていただくことが必要なわけです。
その上で、初めて株主価値を最大化することができるわけです。
つまり、経営とは、
以上の利害関係者への最適な配分を実現し、
継続的な関係を維持することを通じて、
株主価値の最大化を実現すること、
なのです。
一部の利害関係者への不当な配分は、継続不能です。
たとえば、
バーゲンセールは、顧客に対する不当な経済価値配分を、他の利害関係者を毀損することで実現するわけですから、継続不能です。
(もちろん、プロモーションとしてのバーゲンセールを一時的に行うことを否定しません。)
たとえば、
MSCBは、株主の「一部」に対する不当な経済配分を、他の株主を毀損することで実現するわけですから、継続不能なばかりではなく、経営に対する株主からの信頼を損ね企業価値を破壊します。
企業の利害関係者への「継続可能な配分の実現」こそ経営なのです。
以上の定義の下、冒頭に上げた「彼ら」は、本当に経営者といえるのでしょうか。
明らかに既存株主を毀損する資金調達手法であるMSCBは、特に新興企業の資金調達手段としてここ数年流行しました。
ライブドアによるニッポン放送電撃買収の資金(およそ800億円)も、MSCBによる調達でした。
その後、MSCBによる資金調達を行った企業は後を絶ちません。
中でも、最も悪質な「経営者個人の懐を増やすためのMSCB」の例がありますので、この場でご紹介しましょう。
詳しくは、日経BP社のこの記事をご覧ください。
後半に、グッドウィルグループのMSCBの仕組みが紹介されています。
要するに、
MSCBとは、既存株主の経済価値を毀損する一方で、MSCBの引き受け証券会社(または、証券会社が転売した先の投資家)ががっぽり儲かる仕組みです。
(MSCBの仕組みに関する詳しい説明は、このサイト内にたくさんありますので、左フレーム「サイト内検索」にて、「MSCB」と入力して、ご覧いただければ幸いです。)
MSCBの発行だけでも十分悪質なのですが、グッドウィルの場合、MSCBの「真の引き受け手」が、折口会長自身だったというわけですから、もうどうしようもありません。
折口会長は、MSCBの発行によって既存株主を毀損し、(その既存株主の中に折口会長自身も入っているわけですが、既存株主として折口会長が失った経済価値以上の経済価値を)、同時にMSCBの引き受け手になることによって、「既存株主に比べ、極めて安い価格で同社の株式を大量に手に入れた」というわけです。
これ、経営者といえるでしょうか?
これ、介護という人命に関わる仕事をするべき人格でしょうか?
これ、僕が、友人を続けているべき相手でしょうか?
(2002年の僕の結婚式・・・後に失敗(笑)・・・にも出席いただきましたが)
ここまで悪質でなくても、僕の「昔の」友人達の多くは、MSCBという「企業にとっての麻薬」に溺れ、一事の買収劇に酔いしれ、現在は見る影もない企業がいくつもあります。
上場廃止になった企業もあれば、株価が何分の1になった企業もあります。
彼ら錬金術師にとっても、彼らを信頼した投資家にとっても、
そして、彼らと昔友人だった僕にとっても、非常に残念なことです。
「回帰的に考えて継続不能なこと」・・・
それは、一時の快楽や興奮と引き換えに将来を安値でうっぱらってしまうことに他なりません。
こういうことをする人間を、少なくとも「経営者」とは呼べないでしょう。
彼らの大部分は、個人としては大富豪です。
しかし、
掴んだ金の大部分は、
「自らの利害関係者から、複雑な仕組みを通して奪い取った金」
に過ぎません。
どうすれば顧客を騙せるかを日々考え、
どうすれば従業員を安く雇えるかを考え、
どうすれば価値のない株式を高く売りつけられるかを考え、
どうすれば国や地方自治体を騙せるかを考えてばかりいる連中。
そんなやからが多すぎます。
とても残念なことです。
以上を解決するには、個人投資家をはじめとする社会全体のフィナンシャルリテラシーの向上しか、打つ手はないのだと思います。
2007年6月20日 板倉雄一郎
PS:
僕の場合、僕自身の事業の失敗を契機に、
「自分の心の声に耳を傾ける時間」を大切にしました。
その結果、
「しがらみ」が、自分の心に素直に行動する上での妨げであることに気がつきました。
だから、たとえ昔の友人であれ、「間違っている」と思えば批判します。
「間違っている」と思うことを、「間違っている」と言えるように、
僕は、「しがらみ」を捨てました。
その結果、「しがらみ」の代わりに、「信頼」を手に入れることができました。
今は、互いに信頼できるパートナー、そしてセミナー卒業生と共に、
様々な価値ある議論を毎日することができています。
いずれ、これらの議論は、「活動」に結びついてゆくことでしょう。
人が「しがらみ」を捨てられないのは、
人が「しがらみ」に頼っているからに過ぎないのです。
「しがらみ」とは、「しがらみを捨てるのは怖い」と思わせる効果があるだけなのです。





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