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ITAKURASTYLE「短期と長期(積み上げるとずれてくる)」


「経済学とは、いいかげんなものだ。
 明日のことさえ正確に予測できないのに、
 1年も2年も先のことなど、わかるはずがないじゃないか」
という表現を、ずいぶん前に、なんかの書籍で読んだ記憶があります。
一見、「そりゃそうだ」と思えそうな表現ですが、この表現をした方の知識無さに驚きさえ覚えます。

短期の相場は、「ニュースフロー」によって動きます。
たとえば・・・
「外資大手(A)が、日本国内のある金融機関(B)を買収するようだ」
というニュースが流れれば、その金融機関の株価は大幅に上場します。
A社が一体どれほどの経済価値をB社に見出しているのかが定かでなくとも、B社の株価は上昇します。
場合によっては、B社の株価は、B社の価値を、A社とのシナジーを基に、「相当高く」見積もった場合の株価以上に跳ね上がることもあります。
たとえば・・・
「C社は、市場予測を上回る業績上方修正を発表した」
というニュースが流れれば、その業績から推測される将来業績予測に基づいた「株主価値の上昇分」を超えて、株価が跳ね上がることもありますし、また、1日の株価制限を越えてもまだ、その業績予測から推測される株主価値の上昇分に届かない場合もあります。
その逆に、
「D社が開発した新商品に、当局から待ったがかかった」
というニュースが流れれば、それを将来業績に織り込んだ結果得られる株主価値の下落分を遥かに超えて株価が下落する場合もありますし、また、1日の株価制限を越えてもまだ、そのニュースによって下落する株主価値を織り込むことができない場合もあります。
つまり、短期の株価(為替でも、債券価格にも通用することですが)の動きは、
「そのニュースを、市場参加者の多くが、どのように捉えるか」
を基準にした、「美人投票」によって形成される傾向があります。
実需や、本質的な投資によって動く資金より、「投機」目的の資金の方が圧倒的に多い現在の金融市場では、なおのこと、その傾向が強くなっています。
よって、超短期のトレード・・・いわゆるデイトレードによってゲインをを得るためには、(誤解を恐れずに言えば)企業価値評価だとか、株主価値の変動だとかのいわゆるファンダメンタルズの知識は、「持っていない方がいい」とさえいえると思います。
(実際、デイトレード指南を行っている方々の経済や企業価値に関する知識は、ほとんど皆無の場合が多いです(笑))
「なら、チャート分析などのテクニカル手法を持っていたほうが、
 手っ取り早く儲かるじゃないか!」
という声が聞こえてきそうですが、僕の答えは、
「その通り」です。
もし、「明日の金が欲しい」とか、「1年で資産を10倍にしたい!」という目的で株式投資なり、FXなりをやるのであれば、株式投資において企業価値評価は必要ありませんし、FXにおいてそれぞれの国の経済状況を丹念に調べ上げる必要もありません。
そんなことは、むしろ短期投機には、マイナスに働く場合の方が多いとさえ思います。
控えめに表現しても、株式投資における企業価値評価によって得られる妥当な株価、や、FXにおける各国の経済状況の把握は、短期トレードにおいて、「ほんの小さな一因数に過ぎない」ということになるでしょう。
さて、以上の考え方に基づいて短期トレードに勤しんだ結果、本当に継続的に儲けることができるでしょうか?
答えは、NO!です。
控えめに表現すれば、「運と集中力に優れ、それだけのために人生の大切なリソース=時間を消費することを躊躇しない一部の方々」以外は、少なくとも短期トレードによって継続的に稼ぐことはできないでしょう。
なぜなら・・・
ある企業の発表するニュース、または、その企業に関連するニュースが立て続けに発表され、それらのニュースのすべて(または大部分)が、美人投票理論において、「だれもが『買いだ』と判断する内容」だったとします。
美人投票においては、そのニュースによって増減する一株あたりの価値の範囲など無関係に、株価は変動しますから、そんなニュースが立て続けに発表されれば、株価が妥当な株価の数倍、場合によっては、十数倍にもなる可能性があります。
その逆に、ある企業に関わるニュースが、「だれもが『売りだ』と判断する内容」だった場合、そのようなニュースが度々発表されれば、株価が妥当な株価の数分の1に成ってしまうことも起こりえるわけです。
そのまま、市場参加者の誰もが、「妥当な株価から大幅に乖離していること」に気が付かずに、短期の美人投票に勤しんでいたとしたら、「しばらくの間」、短期トレーダーの稼ぎは、十分に満足する結果になるでしょう。
(↑ これを一般的にバブルと表現しますし、実態より遥かに低い価格が形成されるのも、広義ではバブルの一種だと思います。)
しかし、金融市場とは不思議なもので、以上のように、妥当な価格を無視した、ニュースフローによる価格形成は、ある時突然、「ちょっとこれは、高すぎ/安すぎ、ではないか」という、「ニュース(笑)」が流れ、あっという間にそれまでのトレンドとは全く逆の動きになったりするものなのです。
そのとき、短期トレーダーの損失は、それまで順調に稼いで来たゲインをすべて失ったり、過去の稼ぎ以上の損失を出したりするものなのです。
(たとえ話として、(現在でも民事・刑事訴訟をしている当事者を除けば)もうだいぶ古くなったことですが、ライブドアの株価推移がそれにあたりますが、これはいまさら説明するまでも無いので、割愛します。)
以上を簡単な比ゆでまとめてみたいと思います・・・
たとえば、自動車の運転において、自分以外のドライバーが運転する車が、「次の1秒」で、どちらに操舵するかを正確に当てることは出来ませんよね。
右側から鹿が飛び出してきたら(=そういうニュースがあれば)、ドライバーは、左に操舵すると予測できますが、そういう明確な出来事が無ければ、どちらに操舵するかを正確に予測することは出来ません。
しかし、ドライバーは、皆、「事故りたくない」と思っているはずですから、出来れば道をはみ出すような操舵はしたくないはずです。
よって、「次の一秒」で、どちらに操舵するかは不明ですが、長期的には、きっと道の続く方向へ道に沿ってドライバーは操舵するだろうということは容易に想像できます。
また、鹿や熊が飛び出てくるような道路であったとしても、車線の幅を超えて、右や左に操舵し続ければ、道を踏み外し、鹿や熊による損害より大きな損害をこうむる可能性が高いので、やはり、長期では道に沿って走るであろうと予測できますよね。
そういうことです。
冒頭に挙げた、
「経済学とは、いいかげんなものだ。
 明日のことさえ正確に予測できないのに、
 1年も2年も先のことなど、わかるはずがないじゃないか」
という表現の主が、如何に短絡的な発想の持ち主であるかがお変わりになると思います。
次の1秒で何が起こるかを予測することはほとんど不可能ですが、長期では一定の方向に向かうことを予測できるものなのです。
えっ、経済活動に「道」はあるのかって?
ありますよ、妥当な価格の範囲っていうのがしっかりあるのです。
次の1秒の「積み上げ」は、気が付いたら、ありえない、とんでもない結果に繋がるものなのです。
それに気が付くまではハッピーかもしれませんが(笑)
2007年11月2日 板倉雄一郎
PS:
「日銀展望リポート」を読んでいても、同じ事を感じます。
確かに、CPIをはじめとする経済指標は、利上げに否定的な結果ではあるが、短期の指標に囚われすぎ、いちいち短期の指標に基づいた金融政策を行っていたら、長期的には、大きな金融混乱の原因を作ることになる、と僕には読み取れました。
中央銀行の総裁が、デイトレーダーだったら、最悪の経済状態になるでしょうね(笑)
サブプライムローン問題の最も大きな「先行きの問題」は、そもそもサブプライムローン問題が起こった本質的な原因が「お金ジャブジャブ(=低金利誘導、量的緩和)」なのに、その「短期的な対策」が、またしても「お金ジャブジャブ(=追加利下げ)」なところです。
まるで、「麻薬中毒患者」に対する「短期的な処方」として、再び麻薬を与える行為に似ていると思います。
麻薬中毒患者の場合、中毒になっている麻薬を与えれば、短期では、症状は回復しますからね。
その分、中毒は進み、取り返しの付かない事態になるわけですが。
PS^2:
デイトレなどの短期トレードを行う方を非難するつもりはありません。
個人が勝手にやる分には、僕がとやかく言う必要が無いと思うからです。
しかし、デイトレーダーが、自らのキャピタルゲイン以外の稼ぎのために、デイトレを指南するのは、やめるべきだと思います。
自分がやっていることの悪しき効果について、じっくり考えてみるべきだと思います。
他人を道連れにする合理性は無いのですから。
PS^3:
今、先進各国の経済政策から将来を予測した場合、現実的に考えれられる経済問題とは、どこかの国の国家破綻とかではなく、世界的な「スタグフレーション(=景気後退に起こるインフレ)」でしょう。
これに対処するには、インフレに強い資産運用しかありません。





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