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BTB 第14回「種類株の取り扱い方」

企業の発行する株式には、いくつかの種類があります。

普通株式、優先株式など。

私たちが投資目的で企業価値評価を行う場合、一般的には、「一株あたりの価値」を算出することをゴールとしますが、その手順は、エンタープライズDCF法の場合、

(1)投資家(=株主+債権者)の立場から見た企業価値(=事業価値+非事業価値)を算出

(2)株主の立場から見た株主価値を、「企業価値?有利子負債」によって算出

(3)一株あたりの価値を、「株主価値/(総発行済株式数?金庫株数)」によって算出
となります。

(金庫株数を総発行済株式数から減算する理由については、BTB第2回「自社株買い」をご参考ください)

ここで注意しなければならないのは、「総発行済株式数」の中身です。

よく知られているYahoo! Finannceなどの総発行済株式数は、企業が発行する正規の有価証券報告書の総発行済株式数とは、「異なる」場合が多々あります。

その理由は、
有価証券報告書など正規の書類に記載される総発行済株式数は、普通株式だけではなく、当該企業の発行する種類株も含めた株式数であるのに対し、Yahoo!Financeなどに記載される総発行済株式数は、時価総額のカウントに利用される、普通株式数という違いがあるからです。
企業によっては、普通株式しか発行していない企業もありますし、いくつかの優先株(=種類株の一つ)を発行している場合があります。
ここでさらに注意が必要なのは、メディアや私たち投資家が、
「○○株式会社が上場した」という言葉をよく使いますが、
正しくは、
「○○株式会社の普通株式が上場した」であることです。
上場した普通株式には、日々刻々と価格の変化する「株価」があります。
「時価」総額という言葉の通り、時価総額とは、時価である株価に、その時価を構成する発行済「普通株式」数を乗することによって得られるわけですので、時価総額を割り出す上で必要な発行済株式数とは、一般的に、総発行済「普通株式」数となるわけです。
よって、Yahoo!Financeなどでは、発行済「普通株式」数をもって、発行済株式数と表記しています。
また、種類株を発行する企業によっては、その種類株も上場している場合があります。
(たとえば、伊藤園なんかその例にあたります。)
このような企業の場合の「時価総額」とは、発表するメディアにもよりますが、厳密に言えば、
「普通株式株価」*「総発行済普通株式数」+「優先株式株価」*「発行済優先株式数」が正しいといえます。
以上を踏まえた上で、企業価値評価において大切なことは・・・
(1)普通株式以外の種類株にも、株主価値の配分があること
(2)WACC算出において種類株コストをどう扱うか
という2点です。
(1)について・・・
企業価値から有利子負債を差し引いた値が株主価値であることは、冒頭でも、過去のエッセイでもしつこく表現してきましたが、株主価値を分け合うのは、普通株式だけではなく、種類株も含まれるということです。
よって、普通株式一株あたりの価値の算出は、
「株主価値/(総発行済普通株式数?金庫株数+総発行済種類株式数)」
としなければなりません。
(これまでのセミナー講義では、種類株の取り扱いを省略していましたが、企業によっては、普通株式より多くの種類株を発行している場合も多くなってきましたので、セミナーコンテンツもアップデートしようと思っています。)
(2)について・・・
これはファイナンス理論的にも、取り扱いの非常に難しい点です。
なぜなら、種類株の条件によって、そのコストをどう見積もるか、が変わってくるからです。
一つ一つのケースについて記述すると、極めてややこしくなるので、ここでは優先株のコストに関わる一般論として、「優先株は、受け取る配当や、企業が解散したときに受け取る価値が、普通株式より優先されるため、普通株式より資本コストが低い」とだけ表現しておきます。
一つ一つの優先株の条件を検討し、普通株式に比べ、どの程度有利な条件なのか、を優先株式のコストに勘案することが求められますので、今後、取り上げるべきケースがあれば、具体的に表現したいと思います。
2007年11月2日 板倉雄一郎
PS:
この点に関して、今後、法律面、と、ファイナンス面にて、詳細な記述を予定しています。