板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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BTB 第8回「法人税減税と企業価値」

法人税の10%ほどの減税が実施されようとしています。
これを受けて、
「安部政権は、庶民の税負担を増加させる一方で、
 企業を減税によって優遇している!」
などと、「企業」と「個人」を全く別物とした間違った議論が見受けられます。

法人税減税によって、
企業の利害関係者の内、投資家(=株主&債権者)「だけ」が、
その恩恵を受けるのだとしたら、上記の議論は正しいでしょう。
しかし、
減税による経済的恩恵が、投資家に「だけ」もたらされる、なんてことは、
ありえません。

法人税を減税し、その効果が、「投資家への配分が増加するだけ」だとすれば、
企業価値は、減税によって、著しく上昇し、
結果として株価が劇的に上昇するでしょう。
しかし、
企業の利害関係者(=顧客、従業員、取引先、債権者、株主、国や地方自治体)のすべてが、減税が行われたことを認知できるわけですから、法人税減税後も、
「顧客が法人税減税前の価格で商品を買い続ける」とか、
「従業員が法人税減税前の価格で労働力を提供し続ける」などありえない、
ということは、誰でもわかることです。

つまり、法人税減税は、一般的に、
企業の(国や地方自治体以外の)利害関係者の配分を増加させるわけです。
(その分、国や地方自治体の配分が減らされるわけです。)
一方で、
「企業から商品を買わずして生活している一般人」など、
おそらく、この世に存在しませんし、
(というより、個人の支払いの大部分は、
 いずれかの企業から商品を購入した対価です。)
「企業に労働力を提供しない生活者」もまた、
おそらく、この世に(ほんの少ししか)存在しません。
よって、法人税減税は、あらゆる生活者に影響があるわけです。

企業と、個人を、全く別物とした「ルックスルーが行われない議論」など、
ほとんど何の意味も持ちません。

参考エッセイ:ITAKURASTYLE「法人税の負担者」

企業価値評価に法人税減税を織り込むためには、
「単に、NOPLAT算出のための実効税率を引き下げるだけ」ではだめです。
法人税減税によって、当該企業の、
1、売上高はどう変化するか?
(↑顧客が減税前の価格で買ってくれるのか?)
2、販売管理費(=人件費)は、どう変化するか?
(↑従業員が減税前の価格で労働力を提供するのか?)
3、外注費や原材料費など取引先に対する配分はどう変化するか?
(↑取引先に対する配分は、取引先も法人税減税の効果を得るので、
  「お互い様」で変化がないと思われます。)
4、以上の結果として、投資家(=株主&債権者)に帰属するキャッシュフロー(=FCF)がどう変化するか?
以上を、しっかり吟味する必要があります。
しつこいようですが、バリュエーションシート上の「実効税率(=現時点でおおよそ40%?42%)」だけを、減税後の数値に変化させるだけでは、真っ当な企業価値評価にはなりませんので、注意が必要です。


経済は、常に循環しています。
ある限定された「部分」の変化は、回りまわって経済のあらゆる部分への影響をもたらします。
これらをしっかり、ルックスルーしなければ、経済を理解しているとはいえないわけです。

ルックスルーは、特に難しい概念ではありません。
たとえば・・・
ゴミの分別を、めんどくさいからと、いい加減に行えば、
一時的には(=経済のある部分においては)、面倒が省けるように見えますが、
その結果、清掃事業コストが上昇し、そのコストを賄うために税金が使われます。
つまり回りまわって、ゴミ分別を行わなかった人にも経済的負担が発生するわけです。

ルックスルーで考える・・・
20世紀は、個々が、個々の利害だけを考え、
ルックスルーで考えるべきは一部の人間だけでよいとされていた時代でした。
その結果が、戦争や、今問題になっている温暖化現象として現れています。
21世紀に暮らす私達は、個々が、ルックスルーで考えるべき時代だと思います。
多くの人が、ルックスルーで考えれば、
「今のままでは、私達に適した地球環境は継続不能だ」とわかるはずです。
そして、「継続可能」になるために、個々が努力するはずです。

2007年1月18日 板倉雄一郎 (2007年1月19日分として)

PS:
法人税減税による明らかな変化は、「法人登記が増加する」でしょう。
そのひとつの表れとして、板倉雄一郎事務所は、株式会社化します。
ただそれだけ(=カタチが変化するだけ)で、
社会に提供する価値には、なんら変化はありません。

PS^2:
税制とは、つまるところ、「配分のバイアス」に過ぎません。
徴税の仕組みは、今よりもっとシンプルにするべきだと思います。
そうなれば、
「大した価値を提供していない納税事務」や、
「税制が複雑であるがゆえに商売が成り立つ人」が、
もっと本質的に社会に対する価値提供ができるようになると思います。