2007年06月22日
BTB 第12回「配当目的の投資スタイル」
配当とは、企業価値の一部を現金として株主が取り出す行為であることは、過去に何度も書いてきました。
すなわち、
「配当直前企業価値=配当額+配当直後企業価値」
(配当前後で有利子負債の増減がなければ、
「配当直前株主価値=配当額+配当直後株主価値」
でもOKです。)
というわけです。
以上から、成長期の企業の場合、営業上稼いだキャッシュフローを、株主に対し配当によって還元することより、再投資による「複利効果」を得ることの方が、株主利益の最大化の上で合理的ですし、一方で、当該企業の資本コストを上回る事業利回りが得られるであろう再投資対象を見つけることが困難になった企業・・・すなわち成熟期以降の企業の場合、営業上稼いだキャッシュフローは、企業内部での再投資より、配当によって株主に還元することが合理的です。
(経営者が自社の株価が価値に対して相当に割安だ、と認識すれば、配当ではなく、自社株買いによる株主還元が合理的です。詳しくは、BTB第2回「自社株買い」をお読みください。)
投資スタイルにおいて、
1、成長企業への投資
企業の複利効果の恩恵を受け株主価値の増大によってキャピタルゲインを求める投資
2、成熟期以降の企業への投資
企業の比較的安定した毎年の稼ぎの配分をインカムゲインとして受け取ることを求める投資
のどちらを選ぶかは、投資家自身が決めることです。
どちらかが真っ当で、どちらかが真っ当でない、というわけではありません。
ここで一つ、配当に関連するビジネスモデルを一つご紹介します。
ウォーレンバフェット氏率いるバークシャーハサウェイは、
「配当が大好きで、大嫌い」
なビジネスモデルです。
どういうことだかお分かりになりますか?
こ
こ
は
考
え
る
時
間
で
す。
バークシャーのポートフォリオの大部分は、成熟期以降の企業です。
コカコーラにしても、アメリカンエクスプレスにしても、・・・
(バフェット氏は、「誰が経営にあたっても、しっかり儲かる企業」を好みます)
これらポートフォリオの大株主にあたるバークシャーは、ポートフォリオの企業に対し当然ながら高い配当性向を求めます。
この意味で、バークシャーは、「配当大好き」なわけです。
結果、バークシャーは、「適切な株価のタイミングで」投資して黙っているだけで、毎年巨額の配当を受け取りますが、バークシャーが受け取った配当を、バークシャーの株主に対して配当することはありません。
バークシャーは、ポートフォリオから受け取った配当を、しばらくの間キャッシュとして溜め込み、目をつけていた企業の株価が大幅に割安になったときに、溜め込んだキャッシュを集中的に投資するわけです。
以上の結果、バークシャーの株主は、バフェット氏に資金を委ねているだけで、結果的に「複利効果」が得られ、バークシャーの株価は毎年安定して上昇するわけです。
この意味で、バークシャーは、「配当大嫌い」なわけです。
この仕組みは、「税」を考えると、バークシャーの株主にとって極めて合理的であることがわかります。
配当には、容赦なく課税されますが、キャピタルゲイン課税は、株式を売却して利益が確定したときにだけ発生します。
よって、バークシャーの株主は、普段は税を支払う必要がなく、株主自身が資金を必要としたときに、バークシャーの株式を売却し、ゲインに応じた税を「そのときだけ」支払えばよいわけです。
(もちろん、バークシャーという法人が税を納めますから、これをルックスルーすれば、バークシャーの株主が間接的に税を納めていることにはなりますが、いわゆる2重課税を防いでいるといえます。また、バークシャーは毎年、課税所得から控除される「寄付」を、株主の投票によって決められた団体に対して行っています。)
配当を目的にした投資スタイルの場合、「配当利回り」は極めて重要です。
配当利回りは、配当を目的とした投資家にとっての「投下資本利益率」そのものだからです。
「配当利回り=一株あたり配当額/株価」
ですから、
株価が上昇すれば配当利回りは下落し、
株価が下落すれば配当利回りは上昇します。
しかし、
投資家が投資を実施した時点の配当利回りは、
「一株あたりの配当が安定することを前提にすれば」、
その後、株価がどのように変化しようが、
その投資家にとっての配当利回りに一切変化がありません。
配当利回り5%と計算される株価で投資すれば、
その後、株価がどうなろうが、
その投資家にとっての配当利回りは5%のままです。
よって、
配当を目的にする投資家にとって、十分な配当利回りが得られる株価で行った投資は、長期に渡って保有することが合理的というわけです。
バフェット氏が株式を長期で保有する理由、
そして、
同氏が「株価のほうから訴えてくるぐらいの割安」を待つ理由、
がお分かりになったと思います。
「ならカンタンだ、
配当利回りでスクリーニングすれば、バフェットになれる!」
と早合点はいけません。
大切なことは、
「一株あたりの配当額が、長期で安定的に得られるのか」
を考察する必要があるからです。
長期で安定的な配当を実現するためには、
当該企業とそれを取り巻く環境について、
しつこく調べ尽くす必要があります。
何しろ結婚と同じように、
「基本的には」長期で付き合おうとするわけですから。
その上、インフレとの戦いもあります。
バフェット氏はこう述べています・・・
「資産運用の敵はインフレです。」
あらゆる「率」は、絶対値で評価することに意味がありません。
配当利回り5%といっても、
長期金利が1%のときの配当利回り5%と、
長期金利が3%のときの配当利回り5%では、
その意味は、まるで違います。
よって、配当目的の長期投資の場合、
「一株あたりの配当が、
少なくともインフレ率以上の上昇を、
長期に渡り実現できるであろう事」
が条件となります。
この条件を満たすには、当該企業のビジネスモデルが、原材料や資本コストの変動を商品価格に転嫁できることが重要です。
その上で、当該企業の財務オペレーションが、一株あたりの配当額を変えずに株式を適度に分割するか、一株あたりの配当額を上昇させる必要があります。
これらの条件を満たす企業は、数少ないです。
その上、これらの条件を満たす企業の株価が、「株価のほうから訴えてくるぐらい割安(=配当利回りが最大化)になる瞬間」は、さらに限られるわけです。
バフェット氏はこんなことも言っています・・・
「一生の内、投資するのは20回以内にすべきだ」
この意味、お分かりになると思います。
断っておきますが、バフェット流投資が「最も優れた投資手法だ」といっているわけではありません。
配当目的の投資をする限りにおいて、バフェット流は、かなり優れた投資手法である、というだけの話です。
大切なことは、「投資の目的」をしっかり認識し、その目的に合致した「投資手法」を実践することです。
2007年6月22日 板倉雄一郎
PS:
最も厄介なのは、「成長期」にあることが明らかな企業に、配当目的の個人投資家が、以上の理屈を理解せず入ってきて、「配当よこせぇ~!」って騒いだりすることなんですよね(笑)
投資手法は、それ自体が投資対象を選ぶわけです。
自分自身の「投資目的」がナンであるか、それを投資する前にしっかり考えていただきたいと思います。
もう一つ厄介なのは、再投資対象が見つけられないからといって、営業上全く関係のない他社の株式で運用しようとする経営者の存在です。
それでもバークシャーのように、しっかり投資対象を見極められるなら結構ですが、投資損失なんかを出したりするケースが少なくありません。
そんなことなら、「株主に還元しろ!」って事です。
PS^2:
そのうち、「バフェット語録解説」なる本を書いてみたいなぁ~って思います。
彼の短いフレーズの真意が、僕にはすごくよくわかるものですから。
- Previous Entry:
- ITAKURASTYLE「マーケット考察」
- Next Entry:
- ITAKURASTYLE「週末の徒然」