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BTB 第10回「調達コストと運用利回り(短期金利上昇に付き)」

BTB第10回「調達コストと運用利回り(短期金利上昇に付き)」
過去に何度も書いていることですが、資金や原材料などの「調達コスト」と、その「運用利回り」(または「販売価格」)の関係は、
「調達コスト」 < 「運用利回り(または「販売価格」)
でなければ、企業も個人も経済価値を増大させることはできません。
ちなみに、資金の場合、「調達コスト」と「運用利回り(または投下資本利益率)」の差を、「スプレッド」と表現し、原材料などの場合、「調達コスト」と「販売価格」の差を、「マージン」と表現したりします。

したがって、当該企業の「資本調達コスト」が上昇したり、「原材料価格」が上昇したりすれば「一般的に」当該企業の企業価値は減少します。
「当たり前」のように感じますが、例外業種があります。
どのような業種でしょうか?










す。

ひとつは、「金融機関」。
もうひとつは、「石油元売」。
そして、「他には無い独自の価値を提供する企業」
(他にもあると思いますが、長期的には上記の三つでしょう)

金融機関の場合、その儲けは、調達と運用の「スプレッド」がすべてです。
(貸出リスク管理も、つまるところ運用利回りを確保する手段に過ぎません。)
金利が上昇すれば、彼らの調達コストはダイレクトに上昇するわけですが、彼らは調達コストの上昇分(またはそれ以上)を、貸出金利に上乗せすることによって「スプレッド」を確保し続けます。
石油元売の場合も、金融機関が資金調達コストの上昇分を貸出金利に転化することと同様に、原油価格の上昇分(またはそれ以上)を、石油販売価格に転嫁することによって「マージン」を確保し続けます。

正直言って、「おいしい商売」です(笑)

おいしい商売ですが、一方でその弊害も無いわけではありません。
業務効率化などの経営効率を追求する動機が薄れるわけです。

ほとんど「談合」といっても過言ではない「慣わし」のおかげで、彼らは「右倣え」でコスト上昇を利回りに転化できるわけです。
(彼らの儲けの源泉は、一般企業や個人の損失に他なりませんし、その本質は、預金者や資金の借り手など「一般企業や個人」のフィナンシャルリテラシーの欠如にあります。)
どの銀行から借りても金利はさほど変わらないし、どの銀行に資金を預けて(=貸し付けて)も、金利はさほど変わりません。
結果として、金融機関の経営者は、一般事業会社に比べ、「販売価格(=金利)競争」に巻き込まれなくて済み、経営効率アップをさほど考えなくなります。
もし、一般の金融機関利用者(=企業や個人)のフィナンシャルリテラシーが向上し、「預金するなら0.1ポイントでも金利の高い銀行」と正しい判断をするようになったり、「借りるなら0.1ポイントでも金利の低い銀行」と正しい判断をするようになれば(=つまり資本主義経済がしっかり機能するようになれば)、彼らの「あんちょこコスト転化」は実現できなくなり、結果として、金融機関以外の一般企業や個人が経済的便益を受け取れるようになるはずです。
そのとき(が、来るかどうかはわかりませんが)、現在の彼らの「あんちょこコスト転化」は実現できなくなり、そのとき、生き残る金融機関は、一般企業同様、経営効率アップのために継続的な努力を積み上げてきた金融機関になることでしょう。

僕は、「そのとき」を非常に楽しみにしていますし、そのために多くの方のフィナンシャルリテラシーの向上に努力しています。
「社会にとって価値ある仕事」をしていない者が、大枚を稼いでいる現状を、いつか崩壊させてみたいと真剣に考えています。
資本主義が、その参加者のリテラシー向上によって、本当に機能するとき、金融機関は淘汰され、彼らに配分されていた経済価値は、彼ら以外の「本当に仕事をしている者」へ移転することになるでしょう。

2007年2月23日 板倉雄一郎