板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  パートナーエッセイ >  By S.Takamura

By S.Takamura

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセーにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの高村です。

ゴールデンウィークに旅行に行ってきました。

総費用がざっくり1,500万円かかったので、
今までの人生で最も高い旅行になりました。
といっても、宇宙旅行に行ったわけでもなく、
プライベート・ジェットをチャーターしたわけでもありません。

世界一の大富豪ウォーレン・バフェットが会長兼CEOをつとめる
バークシャー・ハサウェイ("BRK")の株主総会に出席するため、アメリカのネブラスカ州オマハまで行ってきました。

今回は、そのレポートです。
*************************************************
始まりは昨年12月。
ふとしたきっかけで、BRKの株主総会に参加することを思いついた。

株式投資をしているにもかかわらず、
今まで株主総会に参加したことがなかったし、
アメリカのオマハなんてこのイベント以外で行く機会がなさそうだし、ゴールデンウィーク期間中で前後の休みも取りやすいと思ったからだ。

ウォーレン・バフェット、チャーリー・マンガーという2人の経営者が有名なBRKであるが、バフェット77歳、マンガー84歳。
早く行かなければ、経営者が変わるかもしれないとの焦りもあった。

BRKは12月決算の会社である。
日本の規則だと、株主総会に出席するには、
決算期末時点で株主である必要がある。
決済日数を考えると、購入期限は決算期末よりも数日早くなる。

米国株を扱っている日本の証券会社をいくつかあるが、
BRKは取扱い対象外である。
日本人には、それほど人気のある会社ではないのだろう。

結局、米国のイートレードの口座を開設することにした。
ウェブサイトから申し込んで、いくつか書類を送付すると、
ログインIDとパスワードが郵送され、開設完了。

次は為替送金である。円を米ドルに両替する際の為替スプレッドが
できるだけ小さく、また送金手数料の安いものを探したが、
総コストが安いものほど時間がかかる。期限が迫っていたので、
着金日時を明示してくれたロイズTSB銀行から送金。

ばっちりスプレッドを抜かれ、円ベースの投資収益率を悪化させるが、FAXとネットの手続だけで、簡単に送金完了。
こんなに簡単にお金が国境を越えて、移動できるのは驚きである。

いよいよBRK株の購入である。12月中旬まで堅調だった株価だが、
過大に評価されているという投資家雑誌の記事がきっかけで、急落。
特にタイミングを計ったわけではなく(正確に計れるものでもないが)、ラッキーなことに株価が下がったところで購入できた。

しかし、ネタのためとはいえ、我ながら思い切った投資である。
(BRKのA株1株は、13万5千ドル前後。)

12月末までに無事株主になった後は、飛行機とホテルの手配である。
しかし、12月時点で、オマハの主要なホテルは予約で一杯。
インターネットを駆使して、苦労してようやく郊外のホテルを確保できた。
小さな町に、多くの株主が集まるので、ホテルの部屋はすぐに埋まってしまう。
次回開催日の5月1週目の週末も(多分)激戦だろう。

3月中旬にイートレードからメール受信。
BRKの議決権行使と株主総会に関する内容である。
何と、2008年3月5日時点で株主であれば
2008年5月の株主総会に出席可能であることが分かった。
焦って買うことはなかったのである。
送金に時間をかけて、為替スプレッドを小さくできれば、
円ベースのリターンを2%ぐらいは改善できたのである。

株主総会出席に必要な株主IDを郵送で請求する。
1人の株主につき、4個まで請求可能なので、
最大3人まで同伴できる。

開催まで1か月を切り、案内はいつ来るのだろうと心配し始めた
4月上旬に、株主IDとパンフレットがBRKから郵送される。
パンフレットには、株主総会の詳細なスケジュールや注意事項、
オマハのホテル・レストランガイドなどが記載されていた。
より具体的なイメージが膨らみ、期待が高まる。

株主総会に向けて、バフェットが発信している「株主への手紙」や
アニュアル・レポート(決算書)を読み始める。

BRKは、A株とB株の2種類の株式を発行し、両方上場させている。
A株は、30株のB株に転換可能であるが、その逆はできない。
よって、B株の資産価値は、A株の30分の1である。

B株は、A株の200分の1の議決権を持つ。
よく読むと、A株、B株どちらの保有でも、株主総会に出席可能である。

株主総会への参加のみが目的であれば、B株を買えばよく、
たくさんのお金をつかう必要はなかったのである。

いよいよ株主総会に出席する日がやってきた。
バリュー投資家にふさわしく(?)、格安航空会社のサウスウエスト航空でのオマハ入りである。

以前、サウスウエスト航空に関する本を読み、興味を持った。
米国内のみの運行だが、日本からインターネットで予約可能である。
全席エコノミーかつ自由席、eチケットのみで、予約番号があれば、
インターネットでの事前チェックインが可能である。

オマハ行き飛行機の機内放送で、「BRK株主総会に出席する人は?」
の質問に、たくさんの手が挙がる。
日系航空会社では考えられない機内放送である。

航空機は地上にいる時に経費を生み、飛行している時に利益を生む
とのポリシーで、サウスウエスト航空は稼働率を高めている。
実際、オマハについた後も、次の目的地のシカゴに行く人は
そのまま機内に残り、オマハで新たなお客さんを乗せ、
短時間の内にシカゴに飛んでいった。
次から次へとお客さんを乗せて移動する路線バスのようである。

株主総会前日の金曜日、BRK投資先の宝石店Borsheims横の
特設テントでカクテルレセプション。

早く到着したので、Borsheims内を見学する。
株主IDを首からさげた株主であふれており、
株主優待セールを利用して商品を購入している人もいる。
昨年Borsheimsは、株主総会の週末だけで、売上げの27%を
上げたというかなりBRK株主依存の会社である。

カクテルレセプションでは、"無料"で料理とアルコールが提供される。
テーブルはいくつかあるが、料理を取るのに長蛇の列である。

何人かの株主と話をしたが、オマハに住んでいる人が多く、
また何年も株主総会に通っている長期保有株主が多い。
彼らにとっては、年1回のお祭りといった感じ。

バフェットらの姿は見えないが、夜10時ごろまでパーティーが続く。

翌日土曜日、オマハのアリーナで株主総会開催。

朝8時ごろ会場入りすると、席はほとんど埋まっている。
一瞬、あいているように見える席でも、新聞などで席が確保されている。
アリーナ最上段に席を確保できたが、ひな壇までは相当の距離があり、
人が小指程度の大きさにしか見えない。しかし、大きなディスプレーが
いくつかあるので、顔ははっきりと見える。

今年は、世界各地から総勢31,000人が出席。
基本的には自由席なので、いい席に座るためには、
相当早くから来る必要がある。
役員席にはビル・ゲイツの姿もあった。彼はBRKの取締役である。

8時30分からビデオ上映、チャーリー・マンガーが大統領選に
立候補するというストーリーのアニメ。温暖化対策にBRK投資先の
デイリークイーンのアイスをみんなで食べようなどのジョーク満載。
その他BRK投資先のCM紹介などもあった。

その後、ひな壇に、ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーが座り、
株主のQ&Aに答えていく。

Q&Aの最中に、バフェットとマンガーは、チェリーコークや飲物を飲みながら、シーズキャンディーをボリボリ食べている。
約6時間、"ほぼ"和やかな雰囲気。

質問者の出身も、内容も様々だが、
バフェットとマンガーが、ジョークを交えながら
どんな質問にも誠実に答えていたのが印象に残った。

面白かった内容は、

 ・投資初心者は、ベンジャミン・グラハムの著書、
  「賢明なる投資家」を読むべし。

 ・ビジネススクールでオプション理論を学ぶのはバカげており、
  会社と株式市場の評価方法を知るだけでよい。

 ・自分が、情熱を捧げられるものをやることが重要。
  バフェットは、若い時に情熱を捧げられる投資に出会えて
  ラッキーだった。

 ・財務諸表のみからは全てのストーリーはわからない。
  その会社が属している産業を理解する必要がある。

 ・会社の資産を最初に見る。その事業の本質を考えて、
  将来のB/Sがどのようになるかを考える。

 ・勉強すればするほど、より勉強したくなる。

 ・今後10年はドル安が進むかもしれない。
  仮に火星からやってきたとしても、"火星通貨"全てをドルに
  両替することはしない。

 ・コカ・コーラのような米国以外から収益があがる企業に
  喜んで投資する。

Q&Aの詳細はこちら。
http://www.cnbc.com/id/24441379/

株主総会の合間に、併設の展示会場へ。
たくさんのBRK投資先企業による展示及び即時販売会。
シーズキャンディーのチョコレートやお菓子をお土産に購入し、
デイリークイーンのアイスクリームを1ドルで試食し、
バフェットの顔が表面に印刷されたM&Mのチョコをもらった。

ほかには、保険会社GEICOの自動車保険の割引販売、
住宅メーカーClaytonの格安戸建てモデルルームの展示、
ブーツメーカーJustin Bootsの割引販売などもあった。

株主総会終了後、
米国、カナダ以外から来た株主対象に特別セッションがあった。
去年の本セッション参加者は約400名。
私を含め、遠くから来ている人は数多くいるものだ。

許可されている持ち物はサイン用の著書等とパスポートのみ。
荷物を預け、金属探知機を通り抜け、
屈強な男たちのチェックをへて、部屋に通される。
ウォーレン・バフェットとチャーリー・マンガーが座っている。

彼らのサインをもらうのに長蛇の列だったので1時間もかかった。
84才で、1時間以上サインをし続けるのも大変そうだった。
2人の前には、またチェリーコークが置かれている。

私も2人にサインと握手をしてもらった。その時、
『日本市場に特化した人を雇う気ないか?』とバフェットに聞いたら、
"力強く" 『No!』 と断られた。(笑)

総会後は、BRK投資先の家具販売店、
Nebraska Furniture Mart("NFM")横の特設テントで、
BRK主催のカジュアルな夕食会が行われた。生演奏を聞きながら、
タコスとチェリーコークとデザートのクッキーを食べる。(1人5ドル)人生初のチェリーコークを飲む。名前の通り、さくらんぼ味のコーラである。

夕食後はNFMを見学。首から株主IDを下げた出席者が、
いたるところにいる。ここでも株主は売上げに貢献している。
ちなみにオマハの人口は約40万人。
週末だけで約1割人口が増えるのだ。
BRK株主は、オマハ経済にとっていいお客さんである。

日曜日は、バフェットが参加したブリッジやチェスのイベントがあったが、私は参加せず空港へ。サウスウエスト航空でオマハを後にした。

非常に楽しく、勉強になったオマハ滞在。

バフェットとマンガーは株主総会やその他のイベントを通して、
株主との交流を心から楽しんでいるようだった。

単に株主総会を開催するだけではなく、BRK投資先やオマハ経済に
お金が落ちるような仕掛けがいくつもあった。

バフェットは、偉大な投資家であると同時に優秀なビジネスマンだと感じた。

そういえば、株主総会の最後にバフェットが、

 『来年も来てね。いっぱい友達連れて』

と言っていたのが印象的だった。

2008年5月20日  Takamura
ご意見ご感想、お待ちしています。