板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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実践バリュエーション 第4回「ボーナス支給!」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆様こんにちは。パートナーの高村です。

「実践バリュエーション」第4回です。
今回は、趣向を変えて、日々の生活の中で面白いと思った事例について
ファイナンスやバリュエーションの観点を取り入れてエッセイを書きたい
と思います。

今回は、「ボーナス支給」を取り上げてみましょう。

12月に入ってボーナスを支給された方も多いのではないでしょうか?
最近私の周りのサラリーマン・公務員の友人を中心に、ボーナスの話を
よく耳にします。

先日の日経新聞によると、今年の冬のボーナスの全産業の一人当たり
支給平均額は昨年比2%増の約87万円となるようです。業績連動型
ボーナスを採用する鉄鋼などが高収益を背景に全体を牽引し、
過去最高の支給額となるようです。


私の周りで、色々調査してみると、サラリーマンでもボーナス支給
の回数に相当の差があることがわかりました。
1年間にボーナスを4回も支給していた会社がある一方で、
全くボーナスを支給していない会社もあるようです。

ボーナス4回支給と聞いてうらやましいと思った方はいませんか?


私は特にうらやましいとは思いません。
ボーナスの回数より年間合計金額の方が重要ですよね。

(これを書いていて、お年玉の話を思い出しました。テレビで、
5歳ぐらいの子供が千円札3枚と五千円札1枚とどっちのお年玉がいいと
聞かれて、3枚の方が(枚数が)多いから良いと言っていました。

皆さんも、子供(小学校入学まで)がいれば、是非聞いてみてください。

千円札3枚と回答したら、普通(私のイメージ、サラリーマンタイプ)
五円札1枚と回答したら、優秀(学者タイプ)
両方と回答したら、貪欲(起業家タイプ)
いらないと回答したら、清貧(僧侶タイプ)
ですね。(笑))


私は、むしろ、ボーナスを支給しない、ある著名なIT企業において、
従業員のインセンティブ(やる気)をどのように維持しているのかに
興味を持ちました。

仕事を頑張っても、頑張らなくてもリターンが変わらないのであれば、
頑張らない従業員が増えるのではないかと思ったからです。

このIT企業は、年俸制を採用していて、前年の仕事の実績に応じて、
年俸額を見直すとのことでした。
一見、ボーナスがないような気がしますが、過去1年間の実績が給与以外
のボーナス相当分として、翌年の年俸に「正しく」反映されるのであれば、
ボーナスの12回払いですね。

経営者の観点で考えると、結構賢いオペレーションだと思いました。

経営者からみて、ボーナスは従業員への支払を先延ばしするメリットが
ありますが、このオペレーションだとさらに先延ばしすることができます。

一般的には、6ヶ月間の実績に応じて、その6ヶ月目にボーナスが
支払われます。上記の例の場合は、1年間の実績に応じて、その翌年に
分割して支払うのです。

具体的に、上記ボーナス12回払いのオペレーションと、一般的な2回払い
のオペレーションを比較して考えてみましょう。

ここでは計算を簡単にするために、どちらの会社も、年間ボーナスを
6ヶ月分、2回払いの支払いは6月・12月と仮定します。

会社からみた場合、ボーナス費用の支払いに関するキャッシュフローは
以下の通りです。

2回払いの場合は、2006年の1月から6月の実績に対応して、6月に
ボーナスとして給与3か月分支払われ、7月から12月の実績に対応して
12月にボーナスとして給与3か月分支払われます。

上記の例の12回払いの場合は、2006年の1月から12月の実績に応じて、
2007年の年俸が決定されます。結果として、ボーナスが2007年に
12分割して、給与0.5か月分上乗せして支払われます。


経営者の観点でみて12回払いが賢いと思った理由の1つ目は、会社は、
キャッシュを有効活用できます。

6ヶ月毎に1回どかんとボーナスを支払うよりも、翌年に12回に分けた
方が、会社は、支払うまでの期間、運転資金・運用資金として効率的に
活用できますね。

結局は、会社からみると、ボーナスという費用の後払い・先延ばし
することにより、時間の価値を享受していますね。

2つ目の理由として、会社は、従業員を長期的に雇用できます。

多くの外資系金融機関では、翌年の2月に年1回ボーナスが支給されます
が、もらった直後に退職する人が結構います。自社株のオプションを
配って、長期的に雇用する努力はしているのですが、十分ではありません。

仮に、ボーナス12回払いにした場合、従業員は自分の成果をできるだけ
長く享受しようとして、長く会社にいようとするインセンティブが
働きます。また翌年のボーナスのために頑張ろうというインセンティブが
働きます。途中で従業員が退職した場合には、残りのボーナスを放棄する
ことになりますので、会社としては、助かります。

3つ目の理由として、年俸制を採用している会社に共通しますが、
キャッシュマネジメントが容易ですね。

年俸制なので、予想外の残業代の支出がなく、1年間の人件費に変動が
ありません。(新規採用・退職を除く)
期初の時点で、人件費は確定しており、キャッシュマネジメントにおいて、
不測の人件費の増加に備える必要がありません。


ボーナス支給がない会社は、とあるIT関連の会社なのですが、
社長のブログを読むと、従業員は夜遅くまで猛烈に働いているようなので、
従業員のモチベーションも高いものと思われます。
しかし、有報を見ると、勤続年数が1.6年と同業他社と比較しても短く、
あまりうまく機能していないのかもしれません。

内情を良く知らないので、なんとも言えませんが、会社からみたら良い
制度って、従業員からみると、悪い制度になっているかもしれませんね。
キャッシュを効率的に利用できている分、従業員の給与を少し上乗せして、
従業員への配分を増やした方がよさそうですね。


PS.最近は採用活動の一環で、学生の方と話す機会が多く、給与体系に
ついて、よく聞かれます。多くの外資系金融機関では、年俸制で、
ボーナスの支払回数は年1回です。1月から12月の実績に対して、
翌年の2月に支払われます。入社年次も年齢も関係なく、ほぼ実績のみで
ボーナス額が決定します。ボーナス額はもちろん他言無用で隣の人の額がいくらかは、基本的にはわかりません。年俸の2年分、3年分以上を
ボーナスとしてもらう人がいる一方で、0もしくは、クビになる人もいる
厳しい世界です。
その意味では、自分で事業を行っている人とよく似ていますね。


2006年12月7日  Takamura
ご意見ご感想、お待ちしています。

次回パートナーエッセイは、12月9日(土)に、Ohashi氏が担当します。

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