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実践バリュエーション 第11回「土地含み益の使い方」

パートナーエッセイ(by Takamura)
実践バリュエーション 第11回 「土地含み益の使い方」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

パートナーの高村です。

最近百貨店の経営統合が増えています。
阪急百貨店と阪神百貨店との経営統合など10年前では
考えられなかった組み合わせも出てきています。

先日も新しい持株会社の名前が発表されました。
「J.フロント リテイリング株式会社」です。
どことどこの百貨店が経営統合して作る持株会社かご存知でしょうか?

これがわかれば、あなたは相当百貨店マニアです。(笑)

答えは、大丸と松坂屋です。

では、「株式会社ミレニアム リテイリング」はいかがでしょうか?


ユニクロではありません。(笑)
ユニクロは「株式会社ファースト リテイリング」ですよね。

答えは、西武百貨店とそごうですね。


他には、伊勢丹が東急百貨店と業務提携を発表するなど、
百貨店業界では経営統合、業務提携が進んでいます。

皆さんご存知の通り、百貨店は市街地の一等地にあることが多いです。
よって、ほとんどの百貨店が、大きな土地の含み益を持っています。

バリュエーションにおいて、本業で使用する土地の含み益は、
ダブルカウントを避けるため企業価値評価に含めないのが基本でした。

しかし、先日発表された「J.フロント リテイリング株式会社」
(大丸と松坂屋の共同持株会社です!)の経営統合に関する
会社発表資料に興味深い処理方法を発見したので、
ご紹介させていただきます。


基本的なストラクチャーは、共同持株会社を設立し、大丸と松坂屋の
株式を移転し、持株会社の下に2社をぶら下げます。会計処理上は、
大丸が松坂屋を買収したことになっています。

発表前日の株価で計算すると、松坂屋の買収価格は約1,834億円と
計算できます。(時価総額は1,543億円です。)
直近の株主資本(簿価)は約614億円です。
よって、約1,220億円の、のれん(営業権)が発生することになります。

しかし、会社の発表資料によると、
「約70億円の負ののれんを計上することが見込まれます。」とあります。上記の計算と約1,290億円のずれがあります。
この約1,290億円はどこから来たのでしょうか?

上にも書きましたが、大丸が松坂屋を買収(取得)することになるため、
パーチェス法が適用され、松坂屋の資産・負債が時価評価されます。

松坂屋は、銀座、上野、名古屋など地価が高騰している場所に店舗を
保有しており、その含み益が税引後で約1,300億円あったそうです。

資産、負債を時価評価して、計算しなおすと約70億円の負ののれんの
計上となります。

合併・買収時は、のれん償却が会計上大きな負担になりますが、
今回は、松坂屋が保有する土地の含み益をうまく利用することにより、
会計上の負担を減らした面白い事例でした。


ざっくりとフリーキャッシュフローで松坂屋の価値を計算すると、
買収価格は高いような気もします。しかし、大丸は、松坂屋の事業価値
より、銀座や上野などの土地・店舗の資産価値を高く評価した結果
なのかもしれません。


この考え方を応用すると、土地の含み益で話題になっている
某ビール会社の評価において、買収価格を計算する場合には、
ある程度含み益を考慮する必要がありそうですね。

本エッセイは、高村ひいては板倉雄一郎事務所による売買の推奨
ではありません。投資は自己責任でよろしくお願いします!!


参考エッセイ:Deep KISS 第1号「ダブルカウント」
Deep KISS 第82号「ダブルカウント(2)~阪神×阪急」


2007年4月12日  Takamura
ご意見ご感想、お待ちしています。

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