板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

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実践バリュエーション 第1回「減価償却費」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

皆様こんにちは。パートナーの高村です。

これから、隔週木曜日に、「実践バリュエーション」と題したエッセイを
連載させていただくことになりました。
このエッセイでは、実際に自分でバリュエーションを行う際に
つまずく点、ミスをしやすい点、または、今までのセミナーで特に多くの
ご質問を頂いた点を中心に、実際の企業のデータを交えながら、
書いていきたいと思います。

現在連載中の「BTB」、「ITAKURA STYLE」が、ゴールデン枠の番組、
橋口氏のエッセイが、(自称)深夜枠の「タモリ倶楽部」だとすれば、
このエッセイは、NHK教育テレビ(東京3チャンネル、大阪12チャンネル)
のような番組です。

しかし、NHK受信料は頂きませんので、肩の力を抜いて、リラックスして
読んで頂ければ幸いです。


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今回は、会計に馴染みのない人には最もつまずきやすい「減価償却費」
を取り上げてみましょう。

ご存知の通り、バリュエーションにおけるフリーキャッシュフロー
(以下、FCF)算出時のキャッシュ調整項目の1つとして減価償却費が
あります。

FCF=NOPLAT+減価償却費?設備投資?運転資金の増加分


減価償却費の詳細の説明は、会計の教科書に譲るとして、
ここでは、減価償却費を、

「設備投資額を耐用年数にわたって期間配分した費用である。」

と考えます。

例えば、建設機械1億円(耐用年数10年)を購入したとします。
このときの会計処理は、購入した年に1億円を費用として計上するのでは
なく、耐用期間の10年にわたって、毎年1千万円計上します。
(残存価値0、定額法を仮定。)
この毎年の1千万円の費用が減価償却費です。

減価償却費に関して、以下の質問をよく受けます。

「損益計算書(以下、PL)とキャッシュフロー計算書(以下、CF)
の両方に減価償却費がある場合は、FCF計算時にどちらを使用すれば
良いですか。」

同じ会計項目が財務諸表の中に複数あって、
しかもその値が違っていると、どれを使って良いのか迷いますよね。

結論:「CFの減価償却費を使ってください。」

実際のデータを用いて検証してみましょう。
データ取得できた日本の上場企業3747社について調べてみました。


図1.日本の上場企業のPLおよびCFの減価償却費

2479社に関しては、PLの販売管理費(以下、販管費)の内訳を記載して
いないため、PL上に減価償却費がありません。
この場合は、CFの減価償却費を使わざるをえないですね。


次の1100社に関しては、
「PLの減価償却費<CFの減価償却費」となっています。
なぜかというと、
ここで言う「PLの減価償却費」は、販管費の中に含まれている減価償却費
のみで、売上原価に含まれる減価償却費を含んでいないからです。

正確には、

PLの(販管費の)減価償却費+PLの(売上原価の)減価償却費
=CFの減価償却費

となります。例えば、上記の例で、1千万円の減価償却費のうち、
200万円が売上原価に計上すべき減価償却費だった場合は、

PL販管費の減価償却費800万円+PL売上原価の減価償却費200万円
=CFの減価償却費1千万円

となります。ただし、PLの(売上原価の)減価償却費は、財務諸表に記載
されていないため、正確な計算をするには、CFの減価償却費を使う必要が
あります。


残りの167社に関しては、
「PLの(販管費の)減価償却費=CFの減価償却費」となっています。
すなわち、「PLの(売上原価の)減価償却費=0」となっています。
この場合はどちらを使ってもよいので、CFの減価償却費を使いましょう。

具体的に、「PLの(売上原価の)減価償却費=0」の例として、
ファミリーマートの2006年2月期の連結財務諸表を見てください。
PL、CFの減価償却費とも、11,311百万円となっています。
ファミリーマートの場合は、主な事業がコンビニであり、
売上原価の大部分がコンビニ商品の仕入れです。
製造業のように機械を使用して、商品を製造しているわけではないので、
売上原価に減価償却費が計上されていないと思います。

以上、バリュエーションのFCF計算時に用いる減価償却費について
ご理解頂けましたでしょうか?

結論は、「FCF計算時には、CFの減価償却費を使う。」です。

次回以降、取り上げて欲しいご質問等ありましたら、
下記にご連絡ください。

2006年10月26日  S.Takamura
ご意見ご感想、お待ちしています。

次回パートナーエッセイは、10月28日(土)に、Ohashi氏が担当します。