板倉雄一郎事務所 Yuichiro ITAKURA OFFICE

企業価値評価・経済・金融の仕組み・株式投資を分かりやすく解説。理解を促進するためのDVDや書籍も取り扱う板倉雄一郎事務所Webサイト

feed  RSS   feed  Atom
ホーム >  エッセイ >  パートナーエッセイ >  By S.Takamura  > 実践バリュエーション 第9回「事業証券化」

実践バリュエーション 第9回「事業証券化」

(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

パートナーの高村です。

みなさん、事業証券化ってご存知ですか?

ひとことで言うと、事業が将来生み出すキャッシュフローを担保にして、
資金を調達する方法です。

従来の伝統的な融資では、主にバランスシート上の不動産や有価証券
などの担保をもとに、貸出しを行っていました。
事業証券化では、キャッシュフローに着目したところが面白いですよね。


日経新聞によると事業証券化による資金調達が拡大しているそうです。
2006年の調達金額は、市場推計で1兆7千億円程度と、
前年の4千億円程度から4倍以上に増えています。

具体的には、ソフトバンクの携帯電話事業や、光ファイバー通信インフラ
事業、パチンコホールなどの事業証券化があるようです。
どの事業にも共通するのは、比較的安定したキャッシュフローが期待
できることですね。(一部反論あるかもしれませんが、、、)


事業証券化の詳細なスキームは、一般には公開されておらず、外部から
は分かりません。
しかし、先日ある雑誌で事業証券化を利用した投資スキームが紹介
されており、好奇心旺盛な私は(笑)、早速セミナーに参加してきました。


事業証券化の対象は、レジャーホテルです。


と書くと、かっこいい響きですが、いわゆる”あの”ホテルですね。


事業証券化のスキームも非常に勉強になりましたが、一般には
あまり知られていないレジャーホテル業界についても、勉強になりました。

いくつかのポイントを簡単に、ご紹介したいと思います。

本投資スキームは、ホテルの安定的な収益を担保に、事業を小口
証券化して、一般投資家から資金調達することを目的としていました。

まず、レジャーホテルの中古の物件を1室あたり約1千万で購入し、
約1千万円かけてリニューアルします。投下資本は1室あたり
約2千万円ですね。

1室からあがる売上は、1ヶ月40から80万円だそうですので、
年間480万円から960万円です。
(1ヶ月あたり、客単価7,000円×1日2?4回転×30日といった
イメージでしょうか。)


この手のホテルは、利益率が非常に高く、営業利益率で約45%だそう
です。(ちなみに、シティーホテルは約1.5%だそうです。)
とすると、年間の営業利益が約216から432万円となります。


ホテルを運営する営業者と資金を出す出資者が匿名組合契約を
結びます。匿名組合契約と聞くとなんか怪しい契約のようですね。(笑)

匿名組合契約におけるパススルー課税を利用すると、ホテル事業には
なんと税金がかからず、出資者にパススルーされ、還元される配当に
課税されることになります。


よってホテル事業のみをみた場合、営業利益に税金がかからないので、
ROICは、10.8%から21.6% (=216/2000から432/2000)と
なります。


一方、調達サイドですが、キャッシュフローが安定していることもあり、
レバレッジを利かせています。
50%の融資(借入利息約5%!!)、
40%の優先出資(上限の収益率12%)、
7.5%の劣後出資(上限の収益率15%)、
2.5%の最劣後出資(残りの収益全部)
と4段階に分かれています。

収益の配分は、
融資→優先出資→劣後出資→最劣後出資
の順番になります。(流しそうめん理論と同じですね。)

逆に、事業に何か問題があって出資金が戻らない場合は、
最劣後出資→劣後出資→優先出資→融資
の順番でお金が戻ってきません。


運用サイドの前提をもう少し精査する必要はありますが、上記の仮定を
前提とすると、最劣後出資の収益率がものすごく良くなりますね。

生じた収益は全て投資家(匿名組合員)に配分するものとし、
ROIC-WACCスプレッド0の前提で、加重平均の考え方を使って、
劣後出資の期待収益率を計算してみてください。












す。


もともとROICが高いということもありますが、うまくレバレッジを利かせて
いるので、驚くべき数字になりますね。


これは、あくまで理論上の収益率であり、理論通りに売上・利益が
上がらないことや、この業界特有の規制リスク、天災・災害リスクなども
考慮する必要があります。


この投資スキームでは、事業証券化、匿名組合、優先・劣後出資、
中間法人を利用した倒産隔離など複雑でわかりにくくなっています。
このスキームの本質を理解するためには、複雑さに惑わされることなく、
シンプルに考えることが重要だと再認識した良い機会でした。


本エッセイは、高村ひいては板倉雄一郎事務所による売買の推奨
ではありません。投資は自己責任でよろしくお願いします!!


参考エッセイ:SMU 第131号「投下資本利益率」


2007年3月1日  Takamura
ご意見ご感想、お待ちしています。

次回パートナーエッセイは、3月3日(土)に、Ohashi氏が
担当します。

実践バリュエーション 第8回「巨大詐欺グループ」