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IR物語 第10回「SOX法だけで大丈夫?」

(今日は水曜日ですが、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

最近、会社の不祥事に関するニュースがたくさん目につきませんか?

メーカーの品質管理体制の不備だとか・・・、
金融機関のグレーな会計処理による利益操作だとか・・・、
個人情報の流出だとか・・・、
建設業界の談合だとか・・・、
メディアのやらせ報道だとか etc・・・

数えだすとキリがありません。

近年、「コンプライアンス(法令遵守)」や「コーポレートガバナンス(企業統治)」といった様々な横文字が飛び交って、会社の不祥事を防止するための議論が盛り上がっていますよね。
不祥事が発覚した会社の中には、存続が危ぶまれるほどのダメージを受ける会社も見受けられます。

これを受けて、上場会社等に対しては、アメリカを真似て「日本版SOX法」なんてものが2008年4月より導入される予定です。

この法律は、各会社が内部統制を適切に整備・運用することで不祥事を防止することを目的として導入されるものであり、現在、全ての上場会社等が導入対応に追われているところです。

この結果、多くの会社で業務を管理するための新しい規則や文書作成手続きが増加することになります。
何しろ「性悪説」に基づいた考え方ですから。

皆さんの勤務先でも、新しい規則や文書作成手続が増えていませんか?
その中には、「これ意味あんのかな?」という規則や体裁を整えるためだけの文書化作業なんてありませんか?

私もある会社の経営陣のはしくれとして、この問題に取り組んでいます。
そして、この問題に取り組むことの重要性も理解できます。
しかし、日本版SOX法への対応に躍起になることは、細かい点に気を使って、重要な点をないがしろにする結果になりそうな気がするのです。

それってどういう意味かと言うと、
内部統制を整備することで、従業員の個人的な不正や単純ミスによる不祥事を防止する効果は期待できます。これはこれで大事なことです。
しかし、社会に大きな影響を与える不祥事は、内部統制を整備するだけでは防止できません。
よく言われる話ですが、どんなに良い「仕組み」を作っても、上位者である経営陣が遵守する姿勢を持っていなければ全く無力だからです。

先日、日頃お付き合いのある日興コーディアル証券の法人営業担当者が、この度の不祥事(経営陣による不正会計問題)の説明にいらっしゃいました。

その時に、悲しさを漂わせた彼の説明が印象的でした。

『日興コーディアル証券は名前のとおり(コーディアル=誠心誠意)、
内部統制の適切な整備・運用に取り組んできました。
実際、従業員の業務に関する様々な規則は、他の証券会社に比べても、厳しい面が多いのです。
このため、我々は懸命に規則を遵守した上で、お客様に対して、
「当社は他の証券会社と比較してもコンプライアンスを非常に重視している会社なので、安心してお取引下さい」とご説明していました。
にもかかわらず、経営陣が利益操作をしてこのような結果になってしまうとは残念です・・・』

日興コーディアル証券を始めとして、不祥事が発覚している多くの会社の有価証券報告書を拝見すると、非常に立派なコーポレートガバナンス体制が構築されていることを示す記載がなされています。

確かに、立派な体制が整備されているのだと思います。
でも、経営陣が守らなければ意味がないだけの話ですよね。

そこで、不祥事を根本的に防止するためには、日本版SOX法以外に何が必要なのでしょうか?

個人的には、「上場会社の役員に対する教育」ではないかと思います。

上場会社の役員は、多くの関係者の利害を調整する責任重大な立場です。そこで求められる役割や考え方は従業員の立場と異なります。

不祥事は自社(個人)が短期的な利益を得るために行われる場合が多いですが、自身の果たすべき役割を理解している役員が合理的かつ長期の視点で考えれば、不祥事を行うことは必ずしも得策ではないことがわかるはずです。

しかし、全ての役員が、経営のプロとして果たすべき役割や心得に関する教育を十分に受けているわけではありません。
むしろ、役員に就任する方は、従業員として一定のキャリアを積んだ後に既存の役員に引き上げられて就任する場合が多いと思います。
ついこないだまで特定の部署のみを管轄する立場にあった人間が、
ある日突然、多くの利害関係者の調整を必要とする経営陣となるわけです。

医者や弁護士や会計士といった専門業種が資格制であり、継続的な研修により専門知識や倫理観の維持を求められているのに対し、経営のプロであるべき上場会社の役員にこういった制度はありません。

多種多様な事業会社の役員に対して一律の資格制度を導入する必要はないと思いますが、業種を問わない普遍的な考え方については、何かしらの教育制度があってもよいのでは、と思うのです。
参照エッセイ:KISS第52号「コーポレートガバナンス」

おそらく役員に対する教育を実施しても、不祥事をなくすことはできないでしょう。
それでもやる意義はあると思うし、こちらの方が正攻法だと思うんですけどね。

それに、役員に対する十分な教育を行うことなく、
利害関係者が役員に対して「とにかく効率的に利益を上げろ」と言いながら、その一方で「社内の管理体制も充実させろ」なんて様々な要求ばかりをぶつけていたら、上場会社の役員のなり手がいなくなっちゃうのでは、と思います。

最近では、優秀な人材は、上場会社の役員になるよりも投資銀行やファンドに行った方が、少ないリスクで大きなリターンが見込める場合が多いですからね。

すでにその傾向が出ているように思います。
これって、あまり好ましいことではないと思うのですけどね。
事業会社を経営する人材がいなくなったら、投資銀行やファンドはどうやって商売するんでしょうね?


PS 板倉雄一郎事務所では、今後の活動において、経営陣として果たすべき役割や必要な知識を身につけるためのセミナーを企画しています。
まずは、合宿セミナーの卒業生に対するご案内になると思いますが、
世の中にないセミナーにしたいと思ってますので、ご期待下さい!

2007年3月7日  S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!

次回パートナーエッセイは、3月10日(土)に橋口寛氏が担当します。





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