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IR物語 第13回「株主総会の楽しみ方~議決権行使編~」


(毎週火・木・土曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

しばらくお休みを頂いておりましたが、私のエッセイも今日から再開です。
これまで以上に「理論より実践!」にこだわったエッセイをお届けしたいと思いますので、どうかよろしくお願いします!

来月(6月)は3月決算企業の株主総会シーズンですね。

昔の株主総会は形骸化された行事であり、個人株主が参加しても面白くないことが多かったのですが、最近、変わりつつあります。

そこで今回は、「株主総会の楽しみ方」について考えてみたいと思います。
そもそも、株主総会って何のために行うのでしょうか?

株主総会の最も重要な目的は、株主が利害関係者にとって重要な議案を決議することです。

従前の株主総会は、株式の持合いが盛んでモノ言う株主も少なかったことから、議案に対して「否」の意見表明がなされることは少なかったですが、
最近は、株主利益を重視した投資家による議決権行使が盛んなため、
「『否』の指示のある議決権行使書面等は、顕著な増加傾向」
(「株主総会白書2006」(刊行:商事法務研究会)より抜粋)にあります。

このため、議案によっては「否決」されたり、直前で撤回せざるを得ない事例がいくつか生じています。
会社が提案する議案をきちんと吟味した上で意思表明する株主が増えてきたわけですね。

これって、すごく重要な変化だと思います。
なぜなら、株主が「真っ当でない議案」に対して「否」と意思表明することで、世の中全体の「真っ当でない議案」が減るからです。

真っ当でない議案が「否決」されると、同じような議案を上程しようとしていた他社の経営陣は「否決」されることを恐れて、その議案を撤回します。
ひとつの議決権行使がその会社だけでなく、世の中全体に対して良い影響を及ぼすわけです。

それでは、「真っ当でない議案」とは何でしょうか?
実際にはどのような判断基準で議決権を行使すればよいのでしょうか?
株主総会の議案には様々なものがありますね。
役員選任や定款変更、ストックオプション・・・etc

これらの議案ごとに「真っ当でない議案」の判断基準をマニュアル的に把握しようとすると大変ですし、正しい理解を欠くおそれがあります。

まずは、全ての議案に適用できる大原則を考えてみましょう。
「長期的な株主価値の向上」を念頭に置くと、意思決定の際に重視すべきは「利害関係者間の利益配分のバランス」です。

長期的な利益を考えた場合、株主は、自分の短期的な利益だけでなく、経営陣や従業員、顧客等の利害関係者がバランスよく利益を享受しているかどうかについても配慮すべきということですね。

つまり、「真っ当でない議案」とは、「利害関係者間の利益配分のバランスを欠いた議案(特定の利害関係者が不当に利益を得る議案)」ということができます。
こうした観点において、個別の議案を検討する上で最も重要な点は、
「この議案を可決すると誰の利益(誰の損失)になるのか?」です。

その結果として、
「利害関係者間の利益配分のバランスが適切かどうか」
を検討して、議案の可否を決定すべきだと思います。
それでは、ひとつの例として「買収防衛策」を取り上げてみましょう。

今年の株主総会では、「買収防衛策の導入」に関する議案が多数出てくることが予想されていますが、
「買収防衛策」って、誰が、何を、誰から防衛するのでしょうか?
突き詰めていくと、「現行の経営陣」が、「業務執行の意思決定権」を「買収する投資家」から防衛している、ということができます。
株主の立場から考えると、「現行の経営陣」であれ、「買収する投資家」であれ、株主価値をより向上させることができる方に「業務執行の意思決定権」を委任したいですよね。

しかし、「買収防衛策」はその選択肢を制約するものです。
したがって、この議案が可決されると、「現行の経営陣」は自身の地位が安定化するという利益を得る一方で、「株主」は経営陣の選択肢が制約されるという不利益を被ります。また、株主は、買収防衛策のスキームによっては、1株当たり株主価値の希薄化という不利益も被ることになります。

上記の利益・不利益のバランスを勘案した上で、「買収防衛策」の導入議案に対して賛否を表明すべきということですね。

ちなみに、私は原則として「買収防衛策の導入」に反対です。

株主が不利益を被る一方で、経営陣が不当に(株主価値を向上させたわけでもないのに)利益を得るのはバランスが悪いと思うからです。
これについては、既に板倉さんが過去のエッセイでわかりやすく説明しているので、以下の参考エッセイをご参照くださいね。

ITAKURASTYLE 「敵対的M&A 生き残りのためのM&A」
KISS 第91号「買収防衛策&セミナーランナップ

また、現在議論されている買収防衛策のほとんどは法的に有効であるかどうか不明であり、「セールスお断り」のシールを自宅に貼るぐらいの意味しかないと言われているのに、どうしてこの議論が世の中で盛り上がっているのか少し不思議です(笑)

なお、個別議案に対する判断基準の具体例としては、企業年金連合会(約13兆円の運用資産残高を有する国内最大規模の年金)の議決権行使基準が有名です。

企業年金連合会の議決権行使基準は長期的な株主価値の最大化を念頭に置いているので、このエッセイで論じた原則的な考え方を踏まえて読んでみると、より理解が深まると思います。

また、日経マネー7月号の「株主総会で分かる会社の良し悪し」特集でも詳しく説明されています。

この記事では、株主の議決権行使に役立つ情報がわかりやすく説明されているし、板倉さんとドリームインキュベータの堀会長とのやり取りが紹介されていますので、よかったらご覧になってくださいね。
(私のコメントもちょっとだけ掲載されています(笑))

株主総会の各議案が利害関係者に与える影響について考えてみると、会社のことがよく理解できて面白いですよ。

今回のエッセイが、皆さんの議決権行使の参考になれば幸いです。

PS
株主総会が有するもうひとつの目的として、「IR活動の一環として経営陣と株主が意見交換を行うこと」があります。
次回のエッセイでは、「IRとしての株主総会の見どころ」を取り上げたいと思います。

2007年5月29日  S.Yoshihara
ご意見ご感想、お待ちしています!
次回パートナーエッセイは、5月31日(木)にShimoda氏が担当します。





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