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IR物語 第52回「ご存知ですか?配当金の制度変更」

(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

そろそろ、3月決算企業の配当金権利取り時期ですね。

実は今年から、「配当金」に関する制度がいくつか変わっています。

 1.配当金の受取方法
 2.配当所得と上場株式等の譲渡損失との損益通算

既にご存知な方も多いかと思いますが、株式投資を行っている方にとっては両方とも知っておいて損はない内容ですので、本日のエッセイではこれらの制度変更を取り上げてみたいと思います。

1.配当金の受取方法

【対象者】 全ての投資家

【変更の内容】

これまで配当金の受け取り方って、

・ 配当金領収書を郵送で受け取り、郵便局・銀行で受領する
・ 個別銘柄ごとに振込口座を指定し、振り込んでもらう

という方法のいずれかでした。

これって、受け取るのがけっこう面倒じゃないですか?

(余談ですが、実際、ほとんど全ての上場企業で「未払配当金」(株主が受取手続きをせずに払われていない配当金)が生じています。年を重ねるごとに未払配当金が積み上がっていくので、定款で「3年以上滞留したら権利無効」といった取決めを行う会社も結構あります。)

こうした配当金の受取方法について、今年から始まった株券の電子化に伴って下記の方法が追加されました。

(1)株式数比例配分方式
(2)登録配当金受領口座方式

上記2つの違いは下記のとおりです。

入金先口座 複数の証券会社にて
株式を保有している場合
株式数比例配分方式 証券口座(MRF) 証券口座ごとに入金
登録配当金受領口座方式 指定銀行口座(※) ひとつの指定口座に
まとめて入金

 

(※)私が調べた限りでは、指定できる口座は「銀行」口座であり、「証券(MRF)」口座を指定することはできない様子。ただし、ジョインベスト証券では「配当金おまとめ!サービス」と銘打って、証券口座にまとめて入金できるサービスを行っているそうです。

いずれも配当金を受け取りに行く手間から解放されます。
どちらを選ぶ方が良いかについては投資家のタイプによって異なります。

<「株式数比例配分方式」に向いている方>
・配当金を再投資に充当したい方
・証券口座残高の増減によって投資のパフォーマンスを測定したい方

<「登録配当金受領口座方式」に向いている方>
・配当金を「おこづかい」感覚で使いたい方
・複数の証券会社で保有している株式の配当金をまとめて受け取りたい方

「これらの方式に変更したい!」と思った方はカンタンに手続きできます。
ネット証券であればWEB上の手続きだけでOK。
(例:SBI証券の場合はこちらを参照)。

ちなみに私は「株式数比例配分方式」にしました。
今までは自分の投資パフォーマンスを把握するのに配当金収入を別途集計していたのですが、そうした手間も省けそうです。


2.配当所得と上場株式等の譲渡損失との損益通算

【対象者】

過去に「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」を行っている方

【変更の内容】

こちらは全ての投資家が対象ではなく、過去に「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」を行っている方向けの内容です。

(また余談ですが、皆さん、確定申告は無事に終わりましたか?

今回、私は初めて「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」を行いました。

昨年、一部の保有銘柄について損切りしたので、この制度のお世話になることに・・・。できれば、この制度とは生涯無縁でいたかったですが、譲渡損失が生じた以上は今年度以降でうまく活用したいところです。)

従来、配当所得と上場株式等の譲渡損失は損益通算できませんでしたが、
今年から損益通算可能となりました。

すなわち、過去の譲渡損失を活用して配当金に係る税金を取り戻すことができます(配当所得につき申告分離課税を選択する必要あり)。

(適用要件等の詳細につきましてはこちらをご参照ください。)

過去に譲渡損失を繰越控除したけど、最近の株式市場が軟調なので思うように譲渡益を計上できず、せっかくの譲渡損失を活用できない・・・といった方には有効な制度です。

私は営業CFを安定的に稼いで高配当を続けている企業の株式を保有しているので、この制度変更はありがたい話です。過去に「上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除」を行った方は要チェックの制度変更ですね。

ちなみに、この制度が新設されたため、一部では「今年の配当権利取り前後の売買は活発化するのではないか?」という声が出ているようです。

配当=持分の減少であることを考えると、この制度を活用したいがために投資をするのはおかしな話だと思いますが・・・。

なお、この手続きは自分で確定申告する必要がありますが、先ほどの配当金の受取り方法との合わせ技で手間を省く方法があります。

配当金の受取先に証券口座(源泉徴収ありの特定口座)を指定しておけば、2010年分からは特定口座内で配当所得と譲渡損失を自動で損益通算してくれるそうです。(2009年分は確定申告が必要)

私は資金効率を重視して「源泉徴収なしの特定口座」を利用しているため上記のメリットを受ける予定はありませんが、「源泉徴収ありの特定口座」を利用されている方にとっては便利な機能ですね。

(もっとも、今年から証券税制がややこしくなっていて、「源泉徴収ありの特定口座」でも確定申告が必要なケースがあるので注意が必要です。
ちなみに、2009年の証券税制の説明はこちらがわかりやすいです。)


以上、2009年の配当金に係る制度変更のご紹介でした。
意外と見落としがちな内容なので、皆さんの参考になれば幸いです。


2009年3月19日  S.Yoshihara
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