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IR物語 第41回「機関投資家向けIRと新しい投資家像」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

何だか世の中がすごい事になっていますね。
隆盛を誇った大手投資銀行があっけないほどに崩れ落ちていく様子を見て、革命のような時代の移り変わりを感じる今日このごろです。

100年に1度の金融危機(by グリーンスパン前FRB議長)の中、皆様いかがお過ごしでしょうか?

この騒ぎの中、私は先週から今週にかけて、決算発表後の機関投資家向けIRを粛々と行っていました。

そこで、今回のエッセイでは、一般にはなかなか馴染みのない機関投資家向けIRをご紹介しつつ、今回のIRを通じて考えたことについて書いてみたいと思います。

【1on1ミーティングとは?】

事業会社が行うIRにおいて、「個人投資家」向けIRと「機関投資家」向けIRの一番の違いは何だと思いますか?

私は、「1on1ミーティング」の存在だと思います。

1on1ミーティングとは、事業会社の経営陣が機関投資家のファンドマネージャーやアナリストに対して個別に行うミーティングです。

このミーティングは、直接会う場合と電話で行う場合と様々なパターンがありますが、その多くはファンドマネージャーのオフィスで行われます。

一般的に、機関投資家は個人投資家に比べて投資単位が大きく、株価に与える影響が大きいことから、事業会社の経営陣がそれぞれのファンドのオフィスを訪ね、懇切丁寧に事業戦略について説明しているわけです。

(ファンドのオフィスは都心のインテリジェントビルに入居し、とても豪華であることが多いです。事業会社の人間からするとクラクラするほどの豪華さであり、このコストを負担していると思うと投資信託を買う気がなかなか起きません・・・)

この1on1ミーティング、IRをきちんと行っている上場会社であれば例外なく実施していますが、ひとつ他のIRと違う点があります。

それは、1on1ミーティングは一方的な情報配信ではなく、説明したい・聞きたいという双方の思いが合致して初めてできるIRだということです。

つまり、事業会社がどんなにプレゼンしたくても、投資対象としての魅力がなければ機関投資家は会ってくれません。機関投資家もプロですので、そのあたりはけっこう残酷です。

こうした双方のニーズを調整するために、1on1ミーティングは事業会社と投資家の間に証券会社が入ってアレンジするケースが多いです。

証券会社は投資対象として魅力的な事業会社を機関投資家に連れていくと、見返りに機関投資家から売買注文を受けることができるため、このアレンジを実施しています。

1on1ミーティングは1年を通じて実施されますが、やはり多いのは決算発表後、そして資金調達を実施する時です。

この時期は「ロードショー」と称して、かなりの数の機関投資家を訪問します。1日に4件前後の機関投資家を訪問し、1回当たり1時間前後のミーティングを行います。

こうした訪問を数日間にわたって繰り返すと、事業会社側は同じ話を何回も繰り返して説明することになるため、けっこうツライものがあります。

ただ、機関投資家側の聞きたい内容は相手によって異なるので、臨機応変に説明方法を変える必要があるため、気を抜くわけにはいきません。

また、経営をしたこともない小生意気なファンドマネージャーにしたり顔で的外れな批判をされると、「それなら、アナタがやってみろ!」と言いたくなることもあります・・・。(もちろん、真っ当で礼儀正しい方がほとんどですので悪しからず)

【ファンドマネージャーのボヤキから新しい投資家像を考える】

上記のような1on1ミーティングに今回も行ってきました。
今回の訪問で、あるファンドマネージャーはこうボヤいていました。

「正直、最近の市場環境下では株式を保有せずに現金で持っていたい。しかし、ルール上、一定割合を株式で保有しないといけないので、株式を保有せざるを得ない・・・」

また、別のファンドマネージャーは次のようにボヤいていました。

「現在は売るタイミングではないと思っていても、ファンドに出資している投資家から解約されているので、保有銘柄を現金化せざるを得ない・・・」

内容は異なりますが、いずれも「機関投資家は運用ルールや運用委託者の意向によって取引に制約を受ける」ことを如実に表しています。

マーケット環境が厳しい上に、上記のような制約を抱えて取引を行わなくてはならない機関投資家も大変です。

一般的に、個人投資家と比較した際の機関投資家の優位性は、資金量・ファイナンスに関するノウハウ・情報の収集力などが挙げられます。
1on1ミーティングなんて、まさに機関投資家の特権ですね。

しかし、最近では、情報開示の公平性が重視され、機関投資家向けIRで使用した資料や質疑応答をWEBサイトで開示したり、個人投資家からのIRの問い合わせに真摯に対応する会社が増えています。

また、個人投資家の中でも、ファイナンスに関する知識を有し、WEBサイトに掲載されているIR情報を活用するのみならず、IR担当に適切な質問をして真っ当に企業分析を行う投資家が若い世代を中心に増えています。

そうした個人投資家が緩やかに連携し、事業会社に一定の影響力を与えることができると、機関投資家より面白い存在になるなと思います。

今回の金融危機から、プロの投資家だからといって無条件に信頼できるわけでなく、最後は自己責任であることを改めて感じました。

IRから機関投資家と同様の扱いを受け、取引の制約を受けない自立した“個人投資家の集団”・・・そんなチームをいずれ作ってみたいです。

(おまけ)

P.S
今回のIRで、リーマンブラザーズ証券(日本法人)から1on1ミーティングのアレンジの申し出があったので一部のアレンジを依頼していましたが、ミーティングの3日前に経営破たん・・・ドタキャンを受けました。

幸いなことに既に投資家とアポイントは取っていたので、こちらで直接投資家に連絡し、リーマン抜きで訪問することで事なきを得たものの、思わぬとばっちりでした・・・。

P.S^2
今回、最近「呪い」呼ばわりされている六本木ヒルズにも訪問しました。

以前にこのエリアを歩くと、「俺達は六本木ヒルズで働いているんだ!」という強気なオーラがあって、ぶっちゃけ感じ悪かったのですが、グッドウィルが抜け、今度はリーマンが抜けるということで、少し元気がなくなっているよう感じました。(気のせいでしょうか・・・)

2008年9月25日  S.Yoshihara
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