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IR物語 第53回「新興市場を活性化させるには?」

(毎週木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)

板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

先日、ジャスダック(証券取引所)の関係者と意見交換する機会がありました。

テーマは「今後におけるジャスダック市場の運営の在り方」ということで、既にジャスダックに上場している企業から意見・要望を伺いたいとのこと。

ジャスダックはヘラクレスと統合する予定ですし、東証では「AIM」というプロ向けの新興市場を作ると同時にマザーズの改革に取り組むという話です。それを受けて、最近、各メディアでも新興市場の見直しについて取り上げる機会が増えています。

(AIMについては木村パートナーのエッセイが参考になります)

そこで、私も今回のエッセイにて新興市場を活性化させる提案について述べてみたいと思います。ちょっと乱暴なアイデアですが、皆さんからご意見・ご感想を頂けると幸いです。

【前提条件:新興市場(企業)に対する考え方】

まずは、現在の新興市場の状況についておさらいしましょう。

現在、新興市場はジャスダック、マザーズ、ヘラクレス、セントレックス、アンビシャス、Qボードと呼ばれる6つの市場があります。
そして、これらの市場に上場している銘柄は1,314銘柄に達します。
(09年4月7日現在 Bloombergより 以下のデータも同様)

このうち921銘柄(全体の70%)は、米ナスダックの上場廃止基準である時価総額約35億円(3,500万ドル)に達していません。

また、このうち769銘柄(全体の58%)は、本業の収益力を表す営業利益(直前期実績)が5億円に達していません。

何が言いたいかと言うと、これらの市場に上場している銘柄の多くは、「上場企業」と言っても非常に小規模であり、東証1部に上場している銘柄に比べると事業の安定性や人材・組織の充実度合い、株式の流動性等も大きく異なるということです。

にもかかわらず、現在の市場ルールでは、これらの新興市場の銘柄も「上場企業」として東証1部上場銘柄と同様に扱っていることが多く、そのことで様々なゆがみが生じているように思います。

そこで、新興市場のルールは、その実態に合わせて東証1部市場のルールとは大きく変えてしまった方が良いと思うのです。

【提案】事業会社と投資家双方の利益を考えた「市場ルール」の策定

私は下記の点で、新興市場と東証1部市場の市場ルールに違いを設けると良いのでは思います。

項目 新興市場 東証1部市場
上場のスタンス <多産多死>
・上場基準を緩和
・上場廃止基準を厳格化
<ブランド重視>
・上場基準を厳格化
(マザーズの特例廃止)
内部統制 内部統制監査なし 内部統制監査あり
投資家保護 プロ投資家に限定
エンジェル税制を拡充
全ての投資家が参加

上記の表で示すとおり、私が考える新興市場の在り方は新市場の「AIM」で想定している市場ルールに近いです。
なので、AIMの新設には賛成です。そして、他の新興市場も統合するとなお良いと考えています。

基本的な考え方として、新興市場は「ハイリスク・ハイリターン」であることを強く意識した市場ルールにすべきだと思います。

その上で、事業会社及び投資家にとって魅力的な市場とするために、下記の変更を提案します。 

<事業会社に対する新興市場の魅力向上のための変更>

  • 上場審査の簡素化、上場審査期間の短縮
  • 内部統制監査の省略
  • (基本方針)
  • 新興市場の企業は何が大化けするかわからないので、間口を広く取って数多く上場させる。
  • 新興企業にとっては事業開始や資金調達のタイミングが非常に重要なので、ライブドアショック以降、やたら厳格化・長期化された上場審査を簡素化する。
  • 少数精鋭の人材で事業運営している新興企業に対して形式的な書類整備や相互けん制の仕組みを取り入れてもあまり意味がないので、内部統制監査は省略する(各企業が実態に合った内部統制を構築)。

  • 一方で、「こんな条件で投資家は保護されるのか?」という声はあるかと思います。

    上記の条件を前提にすると投資家にとって非常にハイリスクな投資になるため、下記の変更も取り入れます。

    <投資家の利益を保護するための変更>

  • 市場参加者をプロ投資家に限定
  • 上場廃止基準の厳格化
  • エンジェル税制を拡充
     
  • (基本方針)
  • 市場参加者をプロ投資家(機関投資家や富裕層の個人投資家)に限定する。ハイリスクを承知であれば一般の個人投資家を届出制で許可するのもアリかも。
  • 数多く上場させる分、上場廃止基準のハードルを上げる。これにより、上場企業の質を維持し、反社会的勢力等に悪用されることを防ぐ。上場廃止した場合はグリーンシートのような未公開株売買市場を整備して、売買機会を提供する。
  • 上記の条件だけでプロ投資家が新興市場に積極的に投資するようになるとは思えない部分があるので、エンジェル税制を拡充し、新興市場に投資する税務上のメリット(投資時・上場廃止時)を付与する。

  • 【まとめ】
    新興市場の新しい受け皿として東証マザーズが開設されてから今年で10年を迎えようとしています。これらの新興市場の誕生により生じたメリット・デメリットを踏まえた上で、新興市場の在り方を見直すには良いタイミングだと思います。

    最近元気のない日本が活力を取り戻すためには、やはりベンチャー企業の活躍が不可欠です。日本だけでなく海外の企業も魅力を感じるような思い切った特徴を持つ新興市場ができることを期待しています。


    2009年4月9日  S.Yoshihara
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