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IR物語 第22回「亀田一家とIRと板倉さん」

(毎週火・木曜日は、パートナーエッセイにお付き合いください。)
板倉雄一郎事務所パートナーの吉原です。

先日の内藤選手と亀田大毅選手によるボクシング世界戦は、大きな反響を呼ぶ結果になってしまいましたね。

大毅選手の初敗北、幾多の反則、セコンド(亀田父&兄)による反則の指示、亀田一家及び所属ジムに対する処分、謝罪会見・・・と様々な話題がメディアで大きく取り上げられました。

確かに、こんな世界戦は過去に見たことがありません。

私はこれまで亀田一家のことを「メディアを利用するのが上手だなぁ」と思って興味深く見ていました。TBSはずいぶん昔から亀田兄弟を特集しており、共存共栄の関係を築いていましたからね。

それが今回の一件で、完全に手のひらを返されてしまいました。
「メディアは持ち上げた後に落とすので2度おいしい」なんて意地悪な言い方をしますが、まさにそのとおりの展開です。

実力以上に世間から評価されてしまったがゆえに、その評価に応えたい気持ちが強過ぎて反則を犯してしまう・・・。

そして、つい先日まで持ち上げていたメディア(世間)がいきなり一斉に批判し始める・・・。

この光景はライブドア(堀江社長)の時と全く一緒ですね。
正直言うと、私も亀田選手のことを「礼儀のないヤツだなぁ・・・」と思っており、内藤選手に勝って欲しいと思っていました。

その意味では嬉しい結果でしたし、反則に対して厳しい処分が下されることは当然だと思います。

しかし、ここまで「内藤選手=善玉、亀田一家=悪玉」という画一的な図式でメディアが叩く様子を見ると、亀田一家にちょっとした同志意識を覚えます。
なぜなら、私が担当しているIR業務も「上げて落とす」局面に出くわす仕事であり、現在、「落とす局面」を迎えているからです。

私が上場企業のIRの仕事を始めてから5年が経過しました。

その間、新興市場は暴騰し、2006年1月をピークに下落に転じて現在に至っています。いわゆる上げ相場と下げ相場を両方体験しているところです。

原則として株価は将来業績(キャッシュフロー)に連動して上下しますが、将来業績が見通しにくい新興企業の株価は多分に市場のマインドの影響を受けます。

上げ相場真っ只中の2005年の時は、とにかく新興企業に投資したい投資家がたくさんいて、プロである機関投資家ですら「最近、新しいファンドに資金が集まったので、とりあえず投資をしたい」ということで、相当に高く評価された銘柄に躊躇なく投資していました。(これだからアクティブファンドには投資する気が起きません・・・)

しかし、現在、新興市場に本腰入れて取り組んでいる投資家は大きく減少しています。また、投資対象企業の話を聞く姿勢も、以前の楽観的な姿勢は影を潜め、慎重な姿勢になっています。

本来なら、価格(株価)が下がった今こそが2005年の時よりも買うべきタイミングだと思うのですが・・・。
(もちろん、2005年頃に売って、現在買っている上手なファンドマネージャーもいらっしゃいます・・・少数派ですけど)

継続的にIR活動を行っていると、そうしたことが肌で伝わってきます。

投資家のマインドが急速に冷え込んだことにより、新興市場にはピーク時に比べて株価が1/3になったとか、下手すると1/10になったという銘柄が散見されます。

しかし、わずか2年の間に会社の価値が1/3や1/10になったのでしょうか?
そういう会社も一部にはあるのですが(笑)、多くは過去の株価が高過ぎだったり、現在の株価が売られ過ぎなのだと思います。

IRのミッションのひとつである「公正な価値評価を受ける」ためには、こうした「価格のブレ(上げて落とす)」に対処していかなくてはなりません。

それでは、「上げて落とす」とうまく付き合うにはどうすればよいのでしょうか?
私が思うに、「落とす局面において焦らないこと」だと思います。

「落とされる時に真価が問われる」ということです。
真っ当な投資家の信頼を失うIRのパターンとして、株価(業績)が悪くなると「IR活動を止めてしまう」ことや「株価対策のための材料を発表する」ことがあります。
正直、株価が下落基調にある中でIRを行うのは気持ちのいいものではありませんし、何とかテコ入れしたくなる気持ちは強くなります。

しかし、「価格」という他者が決定するものに翻弄されて行う意思決定は主体的な意思決定ではないため、うまくいかないことの方が多いです。

結局は、心を揺らさずに、会社側が主体的に決めた経営方針についてIRを通じて丁寧に説明していくしかありません。(これは自分に対して言い聞かせています・・・)

いつまでも「落とす」局面は続かないので、来るべき「上げ」局面に向けて備えるということですね。

この点について亀田一家の件を振り返ると、今回の世界戦の前から「落とす」雰囲気は熟成されていたように思います。長男の興毅選手が疑惑の判定で世界チャンピオンになった頃からでしょうか。

亀田一家はその流れの悪さを敏感に感じ取っていたからこそ、今回の一戦は絶対に負けることが許されず、どんな手を使っても勝ちたいと焦っていたのだと思います。
「勝ち目がなくなるにつれてパニックに陥って反則した上に、試合後に内藤選手を称えることなく、一目散に退場する」という行為は、相当追い詰められている人間でなければやらないですよね。

その意味では、亀田一家は必要以上に自分たちを追い詰めてしまったように感じました。

とはいえ、「上げて落ちる」落差が大きい人というのは、やはり何かしらの魅力(実力)があるのだと思います。

世界戦をフルラウンド戦うことができる18歳なんてなかなかいません。
このまま叩かれてお終いではあまりに惜しい気がします。
幸いなことに、当事務所には板倉さんという普通の人では経験できない「上げて落とす」を体験した方がいらっしゃいます。

そして、「失敗から学ぶ」ことについて様々なメディアを通じて発信しています。
そこで、私は、亀田一家に板倉さんが書いた「社長失格」&「社長失格の幸福論」を個人的にプレゼントすることにしました。

読んでもらえるかどうかわかりませんが、謹慎期間中なので本を読む時間はあると思いますし。
亀田一家には、1度立ち止まって失敗の原因を整理した上で、対戦相手に敬意を表することができるボクサーとして戻ってきて欲しいです。
その時には、次の「上げ」局面が待っていると思います。

2007年10月23日  S.Yoshihara

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